話題:SS
今は【EMMA】や仁来の事よりも、容疑者との会話に集中しなければ…。町村は、そう思い直した。
慣れない事はするもんじゃない。結局、いつもと同じようにやるのがベストなのだ。半ば自らにそう言い聞かせながら容疑者を見つめる。
『それで…お前さんの名前は何なんだい? 幾らなんでも名前ぐらいあるだろう?』
ごく当たり前の質問である。しかし、容疑者は今までそれに対して固く口を閉ざし続けて来た。問題は、容疑者が明らかに感心を示している最新型のウソ発見器【EMMA】が登場して、それまでの態度がどのように変わるのか、にあった。
『名前は…勿論ありますよ』
にべもない答えではあるが、ダンマリよりは遥かにマシである。取り敢えず、それなりの会話が出来そうな事ホッとしながら、町村は【EMMA】の液晶モニターに目をやる。容疑者の言葉は全て白色で表示されていた。当然と云えば当然だが、“名前がある”というのは【EMMA】を信用する限り、本当の話らしい。
『で、名前は何て云うんだ?』
町村がセオリー通りに訊くと、容疑者は薄ら笑いを浮かべて云った。
『名前は…名無しの勘兵衛です』
どうやら、会話をするつもりはあってもマトモに答える気はないらしい。しかし、それぐらいは当然、町村も想定している。
『フン、そう来たか』
鼻で笑う町村に、珍しく容疑者が自分から話しかけてくる。
『で…その【EMMA】とやらの具合はどうですか?』
『ああ、お陰様で順調に作動してるよ。因みに、今の“名無しの勘兵衛”は見事に真っ赤だ』
それは事実である。液晶モニターに浮かぶ“名無しの勘兵衛”は赤色文字…つまりは“ウソ”という事だ。
『それより、“名無しの勘兵衛”じゃなくて“名無しの権兵衛”だからな。まあ、冗談とは思うが…大して面白くないから』
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