話題:SS

容疑者が聴いている事を承知の上で、仁来が敢えて【EMMA】のシステムを話した理由…。

町村は記憶を辿り、仁来が【EMMA】の説明をしている場面を頭の中で再現した。

気になる点…引っ掛かる点…仁来…容疑者……容疑者…

…そうだ

確か、あの時…【EMMA】のセンサーシステムがワイヤレスだと知った時…容疑者は初めて、明らかな動揺を見せたではなかったか?

もしも謎を解く鍵があるとすれば、恐らくはここだろう。

しかし…

そこから先に辿り着くには、圧倒的にパズルのピース、つまりは情報が足りない。町村は余りの歯痒さに、頭を手で掻きむしりたい気分になっていた。

思えば、この事件は最初からずっとこのような歯痒さが続いていた。例えるならば、名湯と名高い温泉場で、足湯しか入らせて貰えないような焦れったさ、悔しさ。

そんな忸怩たる思考を重ねる町村の肩をポンと軽く叩きながら、課長が慰めるように云った。

『ま、消化不良ですっきりしない気持ちも判るが…“知らぬが仏”って言葉もある事だし…世の中にはさ、知らない方が幸せって場合もあるんだよ、きっと』

課長の云いたい事はよく判る。この事件も、恐らくは真相を知らない方が町村にとっては幸福なのだろう。

『そういう事だ。お前も今回の事件(ヤマ)は早く忘れた方がいいぞ』

妙にさばけた口調で課長が云う。

『…そうですね』

『そうそう、知らぬが仏、知らぬが花、花は仏で人類は皆兄弟と』

町村の言葉にホッとしたのか、よく判らぬ台詞を残して課長は自分のデスクへと戻っていった。

だが…

もしも、この時の町村が【EMMA】に掛けられていたら…その液晶モニターに表示された文字の色は間違いなく真っ赤となっていただろう…。



《続きは追記からどうぞ》♪

 
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