話題:SS
不意に視線を感じた町村が顔を上げると、いつの間にか仁来が町村の方を見ていた。その視線は、明らかに鋭さを増している。どうやら、仁来は仁来で何かしら思うところがあるようだ。
『仁来さん…』
思わず呟いた町村だったが、仁来はそれを征するように片手を上げ、云った。
『順調です、続けてください』
いったい何がどう順調なのか町村にはサッパリ判らなかったが、仁来の言葉には有無を云わさぬ力があり、町村はそれに従うより他なかった。
ここで町村は、事件の核心に一歩踏み込んでみようと考えた。
『ちょっと、これを見てくれないか』
そう云いながら町村が机の上に一枚の紙切れを置く。
『何ですかこれ?』
『今回の連続窃盗事件で盗まれた物のリストだよ。なあ、お前さんが犯人かどうかは別にして、このリストを見てどう思う?』
容疑者が目でリストを追いながら答える。
『なんだか…このリストには一貫性が無いように思えますね』
その感想は正しい。事実、リストに記載されている品目に関しては町村も容疑者同様に感じている。ところが【EMMA】の文字は赤色を表示していた。つまり容疑者は、本心ではこのリストに“一貫性がある”と思っているのだ。
やはり容疑者は、この連続窃盗事件について確実に何かを知っている。
しかし、町村は敢えて、その部分には触れずに容疑者に合わせる格好で話を進めた。
『やっぱり、そう思うか。いや、ね…これは実は連続窃盗事件じゃなくて、別個の窃盗事件じゃないかって俺は思ってるんだよ』
それは半ば町村の本音でもあった。これでもし、防犯カメラに同じ男の姿が映っていなかったら、間違いなく、十六件は“別口の事件”として扱っていただろう。
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