話題:写真日記

夏のとある日、少年の面影を未だ残すパナマ帽の男が川の土手をぶらぶらと散歩していた。

何故、男は誰一人として歩く者がいない、そんな夏草生い茂るような場所を歩いているのか?

そこに答えはない。

強いて云うなら、川の上を歩く事は出来ないから川の横の土手を歩いている、そういったテイストである。

何の目的も無く、ただひたすら歩き続けていた男の足が、ある場所に差しかかったところでピタリと止まった。

男の視線が川の淵の一点を捕らえる。が、そこは周囲と同じくただ夏の草が混沌と生い茂っているだけだった。

にも関わらず、男は視線の先へと歩を進めてゆく。どうやら男は、霊感ヤマ感第六感で其処に何かを感じ取ったらしい。

すると、案の定、其処には妙な穴があったのである。

男が呟く。『ついに、地底王国シャンバラへの入り口を発見してしまった…』

だが、それはとても小さな穴であった。男は膝をついて中を覗き込んだが、暗くて何も見えない。しかし、明らかに何かが居る。そんな気配がする。もしや、シャンバラの王が…

再び中を覗き込むが、やはり暗くてダメだ。男は考えた。この大きさならギリギリ、携帯を差し入れる事は出来そうだ。そこで、携帯のカメラとライトを作動させ、手に持ったまま、穴の中に突っ込み、勘たけでシャッターを切った。

そして、携帯と手を穴から引き抜き画像を確認する。

フッ…。

男の口からペパーミントの吐息が零れる。

どうやら…

ここはシャンバラへの入り口ではなかったようだ。

そして、パナマ帽を少し目深にかぶり直すと再び川のほとりを歩き出したのだった…。



《追記にプチ後書き》。




 



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