現パロ太妹シリーズ。
花屋の少年妹子が、謎の青年太子を見つけた話。
話も終盤になりました…まだもう少しだけ続きます。
9.この胸に空いた穴の埋め方
「部下に似てる…鬼男君のことですか?」
よく花を届けている喫茶店、ハデス・ゼウス。
そこで住み込みで働いているのは、目の前のマスターの他にもう一人いる。
僕と同じくらいの年頃で、いつも帽子を被っている。名前は鬼男…名字は知らない。
わけあって高校に通わずに店で働いていると言っていた。
マスターさんが、このよくわからない場所にいるということは…彼もこの近くにいるということか。
「ああ、妹子君も鬼男君と仲良くしてたよね」
「少し店で話す程度ですけど、仲は良いと思います。鬼男君、元気ですか?」
「うん、元気元気。でも彼、君のこと気にしてたよ。ずっと悩んでた。太子に会わせるべきかって」
「そうだったんですか…彼も、太子の事情を知ってたんですね」
「そりゃそうだよ、だって…」
「大王!!」
聞き覚えのある声が、僕達がいる暗い空間に響く。
「あ、鬼男君おかえり〜」
…ダイオー?
いつも鬼男君は「マスター」と呼んでいたはずなのに…この人の名前なんだろうか。
マスターさんの後ろの扉を開けて現れたのは、何度か話したことのある、ウェイターの鬼男君。
でも、その頭にはいつもの帽子ではなく…角のようなものがついていた。
「久しぶりだな、小野君。元気だったか?」
「うん。1か月半ぶりだね、鬼男君…あのさ」
「……ごめんな」
「え?」
お互いに何か言おうとしたその時
「待たせたな、イナフ……フゥ」
再び聞き覚えのある声。
誰かを肩に担ぎながら、竹中さんが入ってきた。少しだけ疲れているのか、息が上がっている。
「さすがに重いな…連れてきたぞ」
ドサッと音を立てながら、一人の男がやや乱暴に床に下ろされた。
「うぐっ…くぅ…いててて」
その男は
少し変わった刈り上げの髪型で
青いジャージを着ていて
アホみたいな顔で
「あれ…妹子?」
5週間経っても変わってなかった。
僕を見る目も、呼び方も。
「太子…ですよね」
本当に、いた。
かつて何度も店に来ていた、青いジャージの男が
みんなに忘れられてしまった人が
今、確かにここにいる。
「常連客を忘れるとは相変わらず失礼な店員だな、お前は…小野生花店の看板息子、妹子だろう?」
「この…」
男はなんとか立ち上がり、僕の元へと近づいてくる。
色々言いたいことはあるけど、まずはこれだけ。
「勝手に忘れさせて、勝手に居なくなるな…この、バカ太子!!!!」
僕は右拳を強く握りしめて、男の少したるんだ腹に向けて思いっきりぶつけた。
「イモッ…!?」
太子と名乗る男は変な声を上げながら軽く宙を舞った後、再びドサッという音を立てて倒れた。
続く。
・・・・
やっとこさ再会させられました。オチは予定通りですwごめんね太子、痛い目ばかりあわせて。
もう少し閻魔や鬼男君と話させてもよかったのですが、いい加減太子を出したくなったので(笑)