後輩曽良と先輩妹子の話。妹子目線。
いつもの学パロ曽芭シリーズと同じ世界観です。曽芭と太妹前提の二人です。あと二人は出てきませんが。
河合君高校1年生、妹子さん高校2年生の設定です。芭蕉さんは先生、太子はnot学生(社会人)。
[ミッション・コンプリート]
「そろそろスマホに替えた方がいいかしら」と母さんが言っていたけど、僕はこれで良いよと言った。
周りはどんどん買い替えていて、いわゆるガラケーの使い手はクラスでは僕だけだ。
別に気にしていない。メールと電話があればそれでいい。
そんな僕の古い携帯に、今日もメールがやってくる。
また、あいつからか…
今は昼休み。僕は図書委員としてカウンター席に座っていた。
誰かが借りに来るまで暇なので、同じ委員の後輩と一緒に本を読んでいると…
ぶるるる ぶるるる
「妹子さん、携帯震えてますよ」
小さな声で後輩が教えてくれた。
意外と自分では気づかないものだ。
「ああ、ありがとう河合君」
後輩、河合曽良君に小さく礼を言えば「…いえ」と軽くお辞儀をしながら言われた。
相変わらず愛想が無い。まあ、人の事はいえないけどね。
パカッと開けてメールの差出人を確認する。
《太子》
本名がわからない、知り合いの名前。
『アホの妹子へ
今は昼休みだな!ちゃんと昼ご飯食べたか?
あ、そうそう。夕方に妹子の店に行くから待ってろ!私だってちゃんと買い物するんだからな。うっしっし。
午後の授業寝るなよ?芭蕉先生ウザいくらいに泣くぞ。
聖徳太子
P.S. 芭蕉先生にお菓子もらったけど微妙だった。聖徳ションボリ。』
僕はちゃんと起きてるよ!と言いたい。
「…楽しそうですね」
「え?」
文庫本を読んでいた河合君が、目線をこちらに向けないまま声をかけてきた。
楽しそう?僕が?
「なんとなくですけど」
「そ、そう…」
無表情で淡々と言われると、何を考えているのかわからなくて、正直怖い。
悪い奴じゃないとは思うんだけどな。仕事手伝ってくれるし。
「何か用事があるのなら、放課後は僕1人でやりますよ」
「ええっ!?なんでそんな…」
「妹子さんの家は花屋ですよね。なんだか楽しそうなお客さんが来るみたいなので」
「あの…河合君?僕は別に楽しんでるわけじゃ…この人はウザい感じの人だし」
戸惑う僕に対して、河合君は構わずに話し続ける。もう本は読んでいない。
「妹子さんもたまには休んだ方がいいです」
真っ直ぐな目が、僕を射貫いた。
「僕、そんなに忙しく見えた?」
「はい」
「そっか…」
河合君の目には、僕が働き者に見えていたらしい。それとも、疲れてるように見えたのかな?
そういえば太子とはしばらく会っていない。
メールは頻繁に来るけど、意外と忙しい人らしく、直接会うことは少なくなっていた。
以前は週に一回来ていたのに、僕が2年生になってからは月に一回になっていた。来ない月もある。
「あのさ、河合君…メール見てないよね?」
「見てませんよ」
「だよね…それじゃ、聞くけど。僕はこの人に会った方がいいのかな?」
「会えるうちに会った方がいいです。後悔、しないように」
……なんだろう。
河合君のことはよく知らないけど、不思議と説得力があることを言われるんだよな。
前に松尾先生が「河合君はエスパーじゃないかと思うことがあるんだ…」と話していたっけ。さすがにそれはないと思うけど…
「実は…毎月遊びに来る客がいるんだけど、放課後そいつが来るってメールが来たんだ」
「はい」
「でも、もし僕が会いにいったら、図書委員の仕事をサボることになっちゃうよ。君一人に任せることに…」
「一人の方が都合がいいです。僕はここで済ませたい用事があるので。先生が来たら軽く説明しておきます」
あっさりサボりを許されてしまったんだけど…
都合がいい?
僕がいない方がいい用事…
「君も、誰かに会うの?」
「…はい」
図星を突かれて動揺した僕と違って、この後輩はひどく落ち着いているように見えた。
…しかたない。この厚意を無駄にしないでおこう。河合君のために。
「ありがとう。じゃあ、放課後は君に任せるよ。わからないことがあったら連絡してね」
「こちらこそ、ありがとうございます」
その時の河合君の顔は、いつもより緩んでいるように見えた。
太子に会っていつものようにくだらないことを話した後、一通のメール。
『ありがとうございました。
おかげでゆっくり話せました。
河合』
彼も目的を果たせたようだ。よかった。
とはいえさすがに罪悪感があるから、この後輩と顧問の先生にはきちんと謝っておこう…
河合君、松尾先生…すみませんでした。
end.