六限の体育を保健室でさぼろうと決めたら、隣の席に座った体育教師に思いきり机を蹴飛ばされた。
そんな夢を見ていたらひどい時間に目が覚めた。
今日は新しい眼鏡で一日を過ごす。
ここ数ヵ月でみるみるうちに両目の視力が落ちて、人の表情も本の背表紙も夜景も今までのようには視えなくなっていた。
お姉さんが牛乳瓶の底のような眼鏡を差し出して、0.8です。と言っていた世界を思い知る。
昔、好きな先生が眼鏡をかけてきたときに「視えすぎて気持ちが悪い」というようなことを言っていた。
こういう事だったんだ、と今日になってようやく理解した。
はっきり視えすぎて気分が悪い。
目の前に薄い膜があるみたいに思えて、対物距離がつかめない。
情報が瞳から一気に入りすぎてぐるぐると酔ってしまう。
他にも今日は色々とあって、視覚ではない別のところからも様々なことが視えてしまう日だった。
自分のこと、自分が気づいていなかったこと、忘れてしまっていたこと、本当は解っているけど知らないふりをしている怖いこと。したいけどできなかったこと。
ぐるぐるぐるぐると頭の中を駆け巡って、相変わらず視界には慣れなくて、鏡を見ると顔が真っ赤になっていた。
帰り道、眼鏡を外してびっくりする。
こんなに何も視えていなかったっけ。
裸眼のまま「何も視えない」とのたまう人に「視えていないのはあなただけだ」と冷たく眼鏡を差し出す人の話が書きたい。
本当はあなたのような言葉を紡ぎたい。
あなたのように刹那的に、美しく苦しむことができればいいのに。
みえなくなる歌