怖いものが欲しかったのだ。些細なことをきっかけに、あの坂道を妖しむことを楽しんでいただけ。
―――有栖川有栖「源聖寺坂」(『幻坂』収録)より
読みました。『幻坂』。
去年の夏偶然にそばを通ってここがあの七坂なのかとぐるぐる巡ったことを思い出した。
真夏の暑い中で、子どもたちが駆け抜ける横を私がふらふら迷っていたのが清水坂だったのだと一話目を読んで気がついた。物語の中でもその坂道には子どもの姿があった。
栄えた場所のそばでありながら、あの坂たちはどこも不思議と静かな場所だったと記憶している。水の底に沈んでいくように下がっている坂が伸びていた。
坂道を知ってからこの作品を読んでまた訪れたいと思っていて、思ってはいても本を手に取るまでにけっこうな時間がかかった。
有栖川作品で『朱色の研究』と『マジックミラー』が私は好きなのだけどそのどちらの要素もあって嬉しかった。
日々の中に心のうちが揺らがされるきっかけがあり、人の心が魔を見る瞬間に怪異が肩を叩いてくる。そんな短編集だった。
「口縄坂」が一番好み。いいねいいねこういう歪みの国のアリス。
〈「何をするの?」
美季の両肩に、里緒の手が掛かった。
「儀式」〉
(「口縄坂」より)
いいねいいね有栖川先生もっと学園もの書いていいと思うの……
全部の話の中でもっとも怖かったのも個人的にはこの口縄坂の話だった。
あとは「愛染坂」「源聖寺坂」が好き。
源聖寺坂は怪談だけど何故か(?)探偵さんが出てきたのが面白かった。探偵さんの人物像も良かったし推理の内容も私は好き。ミステリとしても読める。
その探偵さんは「天神坂」にも登場するのだけど「天神坂」の設定だけで本一冊できそうなのがもったいないかもしれない。
話がそれるが私の好きな霊感ミステリは麻耶雄嵩の「水難」です。
水難の話にただよう胡散臭いのに耽美とも思えるわけわからん雰囲気が好きなんです。あと鹿鳴館香織というネーミングセンス。
話を戻して。
「源聖寺坂」は主人公の樹ちゃんが自分の抱く恐怖を魅力としてとらえ直すところがなかなかダークで良かった。
恐ろしさの中に甘美な恍惚だったり心惹かれる美しさをみる、というのは有栖川作品では月だったり夕陽だったり香水だったり色々なモチーフを通して表現されてきたテーマで、この本ではずばり坂がそれ。
そして源聖寺坂は一番ホラーっぽい構成になっている。探偵さんの登場でちょっと変わるけど。
「愛染坂」は有栖川せんせいの書く作家はなかなか幸せになれないということを実感する作品だった(そこじゃない)。話の途中に出てくるおじさんが良い味を出しています。
人の心の闇が色濃く書かれているのがこの話かなと思う。心の変化から狂っていく恐怖。
文庫版はあらすじのところでこの話の核心がばらされているので気を付けよう。
「愛染坂」→「源聖寺坂」→「口縄坂」の流れがいい。頁をめくる手がつい止まらなくなる。
そのあとにくる「真言坂」で本の流れが少し変わる。冷たい恐ろしさから、人情あふれる怪異の物語になっていく。「真言坂」は切ないですね。切なすぎるから素直に好きな話だと認められない。でもいい話だとは思う。怪談であり、とびきりのラブストーリーですね。でもラブじゃないんだよね。そこがまたいいと思うんだ。
〈あなたに恋人はいないようだったのに、やはりデートのお誘いはなく、それがわたしを安堵させました。〉
(「真言坂」より)
いいねいいね。ところでこの話読むとどうしても江神さんを思い出してしまう。
話が九編あるのだがどれも違うテイスト、違う怖さで書かれている。贅沢なことだと思う。
芭蕉さん出てきてびっくりしました。
文字になって浮かぶ街の景色に実感がこもっていて、ここが作者の生きている場所なんだなと読みながら伝わってくる物語だった。
大阪って水の都というでしょう、
例えば京都なら鴨川があって香川ならため池があるんですが。
生活の中に水辺が近いところって死の気配が日常のどこかでつねに息をひそめているきらいがあると思う。土地が死をよく知っていて、それが私たちにも伝わってくる瞬間がある。みたいな。
そういう意味で、大阪は終の街というようなイメージも私の中にはあったりする。
新世界で串カツ食べたい。
二月でこんなにめそめそしてたら三月や四月どうやって生きていくんだと思ってがんばろうと思いました。せめてあと二週間くらいは……
今ごく個人的なものではあるのだけど、とある試験が私に課されていて、べんきょうをしないといけないんですけどもうむりですへんかんするとりありてぃがますからひらがなでかくけどぉ……というわけでにっきもこんつめすぎずほどほどにかくようにします
生きてきた街というような話を幻坂になぞらえて少ししました。
春ですね。みんなが新生活の話をしているのを聞くとそう思います。
私は年末に「香川から出ていかないでね」ということを宣告されたのでいつでも香川で会えます。
香川で暮らすというのは自分で決めたことだからまったく後悔してないんだけど、家族ならまだしも、他人の口からこういう言葉で聞かされるとわりと衝撃的でした。おべんちゃらだとしても。
そうか、もし香川を出ていくと言っても意外とすんなり許されそうだったけどやっぱりアウトなのか……と不思議なドキドキを感じました。
そしてやっぱり出ていくと思われているんだな……ともドキドキしました。
人生には三つの坂があります。
その三番目も可能性としてはあるから、今がどのつもりでも未来がどう転ぶかはわからないのだ。
なんでこの題にしたんだろうと一瞬考えたけど口縄坂を読んだのと口笛吹く歌を聴いていたからですね。
私は夜に口笛吹くと蛇がくるよと教わりました。どろぼうさんじゃなかった。
口縄坂の最後のあれは蛇だよね?
ぞっとした。