古本屋で『銀色のハーモニー』の単行本を手に入れる。
単行本版は、今では絶版なんだろうなあと思ったとき、ふいに『金魚奏』という漫画のことを思い出す。そういえばあれももう、絶版になっていると聞いた。
話は変わって職場に意地悪なバイト君がいる。
平気で酷いこと(冗談ではあるけど)を言ってくる奴で、いつも彼に接するときは警戒している。
そんな彼と恋愛の話をした。
「彼氏と喧嘩とかしますか?」
「………………(……なんで、彼氏がいる前提で聞いてくるんだろう……)………」
「しませんか」
「………彼女と喧嘩とかしますか」
「……返されるとは思ってなかったな……」
遠距離で自然消滅するとかしないとかしてるとか、そういう話を聞く。話し合いしないんだなあとか冷めてるのかなあと思うけど言わない。
でも彼の言葉のはしばしに感じる何かにひっかかりを覚える。
でも言わない。
でおいたのに、
「でも、会わなくなってから少女漫画に手を出すようになったんですよ」
などと言うので、
「それは……心のどこかでまだ好きなんだと思うよ」
とつい言ってしまった。
「そうなんですかねえ」
「うん……(好きなんだと思うよ)」
案外男性の方が、離れることに弱いのかもしれない。なんだこれ。
「遠距離の漫画とか読まないんですか?」
「遠距離の漫画ってなんかあります?」
「……『僕等がいた』とか……?」
そう聞かれると出てこない。
でも、君は若くてしたたかだし大丈夫でしょう。それよりなんかそういう一面もあるんですね。
帰りにはっと思い出す。
そういえば『金魚奏』、あれこそ二巻からは遠距離ものだったじゃないか。
(恋人が途中で留学する)
でも私は、一巻の空気のほうが好きだなあ。
夏の話のままでいてほしかった。