歌集名のもじり。
また最近視力がどんどん落ちている。
綺麗な色の目薬も私を助けてくれない。
有栖川有栖作品をいくつか再読して、感じたことを記録しておく。
『壁掛け男の謎』
「恋人」がどうしても読みたくなった。
とても良い。
似たテイストの話として灰原薬『回游の森』の一番最初の話を思い出す。
舞台が森という点でも共通しているし。
どちらの語り部にとっても少女の存在を現実ではなく記憶(夢想)の中に求めていることが重要なのだろう。
取り返しのつかないことと、叶わないことと、永遠は似ている。
だからこんな話が生まれるのかもしれない。どれも実際は、とても離れた位置に点在しているのだろうけど。
他の作品では「震度四の秘密」が短いながらも良かったと思う。
『臨床犯罪学者 火村英生の推理 46番目の密室』
何かもっとしっくりくるシリーズ名が欲しいね しっくりくる事件も欲しい
物語の終盤、犯人がある秘密を抱えていることが判明するのだけどその秘密がいったいどんなものかというのは最後まで明かされることがなくて、そういうところがこの作品を好きになった理由だったなあと読み返して思い出した。精緻な論理と美しい余韻の隙間に歪んだ狂気が垣間見えていて、そういうところが好き。
『朱色の研究』
シリーズの中でこの作品が一番好き。あまり同意を得られないけど。
動機も個人的にはあり、というか人を殺める人間の心なんて本来そういう次元にあってもおかしくないのでは。
夕焼けって視覚感知における一種の異常事態で、あてられ続けるとやがて警告が眼から脳まで伝わって神経を病むんだよ、
って説明されても信じてしまいそうな説得力を持っている。満月の明かりも同じく。
信憑性を感じてしまうほど訳のわからない強さは神性にも近く、それが『朱色の研究』における夕焼けなのだけど、この作品には人間の心が彼岸と此岸のはざまで翻弄されていく様子が全編にわたって描かれている。
「探偵は巫女」論が披露されたのもこの物語のなかでのことだけど、夕焼けのようなよく解らない大いなる何かに引き寄せられたり、揺り動かされたり、そういう不安定さがミステリの持つ魅力とよく似ているし、合っている。
夕焼けと謎は似ているのだ。
謎のまとめになりましたね。うまく言えないことばかりよ。
一番最後のアリスの台詞がものすごく好き。
『高原のフーダニット』
オノコロはちょっとまだ許せていない……それはさておき「ミステリ夢十夜」を何故か幾度と無く読み返してしまう。短さのせいもあるのだろうが。
本格ミステリかどうかと聞かれると戸惑うがショートショートとしてはまとまっていると思う。『壁掛け男の謎』を読んで思ったことだが有栖川有栖の掌編は落語のつくりに近いのかもしれない。
落ちはあるが、不条理な結末を迎える作品が多いのも気になる。まあ「夢」と冠しているし、本家の夢十夜も不気味な雰囲気に包まれているしそんなものか。
第六夜に謎の艶っぽさを覚えてしまうのは私だけだろうか。でも十夜の中でも異質の話ではあると思う。それと今回読み返してみて、六夜のラストシーンはデッドエンドなのかもしれないとも考えた。確率は低いが、そうだとしてもおかしくはない。
〈謎が解けるのは、どんな時にも快感である。〉
どんな時にも、つまり……と考えを巡らしてしまうのは深読みが過ぎるのだろう。
また全然違う十の物語で違う十夜を見せて欲しい。
それにしても「有栖川有栖」でなければもっと大変なことになっていた、というか許されなかったのでは。発表時。この本。
『怪しい店』
「ショーウインドウを砕く」ってここ最近のシリーズ短編のなかでもわりと良い出来なのでは。と思って。さっぱりしてるのも好印象。緊迫感としては「古の魔物」の雰囲気がいいんですが。
逆に予測だけで謎を終わらせてしまうあれはどうなのかなーと思った。事件じゃないからいんだけどね。
『暗い宿』
姉妹作ならこちらのほうが好み。
今回は「ホテル・ラフレシア」だけしか読み返していないけど記憶していたよりも凄惨な結末で気持ちが沈んだ。
有栖川作品ではたまに、いったいどうして? という暗闇に突き落とされることがある。どうしてここまで? というくらいの。
「ホテル・ラフレシア」でもそうなのだけど、あまりに突き落とされた闇が暗くて登場人物たちすら身動きがとれず終わってしまう場合がある。(顕著なのは「絶叫城」とか)そんなふうに挟み込まれる不条理も、個人的には好きである。戸惑いはするけど。
『ダリの繭』
私はこの表紙が好きなんですけどね。
〈生きててもつまらないと思って。〉
この言葉がここ数日、私の頭を離れない。
ふとしたときに心の中で呟いてみれば、それが一番しっくりくるような心地がする。
生きていたいけど、生死の願望とはまた違うところにひとつの願望が存在している。
死にたいと同義では無い「生きていたくない」がちらちらと燻っている。
いっそ誰かに首を絞められたら目が覚めるんじゃないかなと冗談半分に考える。生死と関係のない場所にある感情だからこそ、全く別の痛みが襲えば気が付くような風にも思える。
彼女の傷跡も、そんな気分転換のようなものだったのかもしれない。違うか。
・おまけ・
『有栖の乱読』
ずいぶん久しぶりに目を通した。
エッセイとしても面白いのだが、
〈14歳のころ、私は嘔吐したかった。〉
〈血を流しながらでも、エラリー、神を消去(デリート)しろ。〉
このように、痺れる文章があちこちにひしめいているすごい本。
やっぱりこの頃の有栖川せんせーが最強なんだよなあ。くさいけどかっこいんだ。
『ニューウエイヴ・ミステリ読本』
〈……私の性格なのか、「つまらない」と言われたら、一言だけ言いたいんですよ、「俺の本をもう読むな」と。〉
(有栖川有栖インタヴューより)
インタヴューと書いてるのでインタヴューと表記しました。どうでもいいってか。
とんがってるよね……ロマンチストだけどリアリストだよ。
麻耶雄嵩に対するインタヴューがあまりに攻撃的でそちらのほうが気になる。
日記をつけるのを止めたらとたんに夢の景色が鮮やかになって夢から覚めにくくなる。
先日、私は二十四歳になった。
本の感想