[護廷高校]の焼却炉を前に、数人の女生徒が廃棄物を処分していた。
 春から3年生なる松本
乱菊はゴミトングを片手に持ちながら

「何であたしが、こんなこと(ゴミ処分)を・・・」

 ブー垂れて言う乱菊に、
同じ3年生の砕蜂が

「仕方がないであろう・・・。 3月中に片付かなかったのだから・・・」

 唇を尖らせている乱菊を嗜めた。

「センパーイッ! これ、処分してもいいんですかーっ?」

 後輩の雛森桃がゴミ袋片手に近づいてきた。

「んっ?これ・・・[スカジャン]じゃないの。どこにあったの?」

「部室(剣道部)の、汚い段ボールには入ってましたよ・・・。段ボールは、もうくたびれて一部腐ってボロボロでしたけど・・・。中を確認したら、これ(スカジャン)が入ってたので・・・」

 何事もなく言う桃に

「あんた、よくそんな汚いの触れたわね・・・」

 乱菊は眉間にシワを寄せ、不快な顔したが、直ぐに

「まっ、そんな古いのなら、燃やしてもいいわね」

 乱菊は、袋ごと焼却炉に入れようとした瞬間

「待てっ!松本・・・!"ヴィンテージ"かも知れん。もしそうなら、売れば金になる・・・!」

 砕蜂は、真顔で乱菊を制した。
 その言葉を受け、桃はテンションを上げ

「えっ!だったら売って、みんなで甘いもの食べにいきましょうよ!」

「おおっ!!いいわね・・・!」

 乱菊は桃の案に賛同すると

「・・・っとは言っても、あたし[スカジャン]興味ないからな・・・。これが"ヴィンテージ"なのかどうか・・・」

 乱菊は、ゴミトングでつまんだ袋を持ち上げ、マジマジと見つめた。

「なんじゃい・・・。皆て真剣な顔をして・・・」

「夜一先生っ!!」

 砕蜂はワントーン、声が高くなると、顔を赤らめながら、近づいてきた教師の名前を呼んだ。

「んっ?[スカジャン]・・・。どうしたのじゃ・・・?」

「部室にあったんです・・・。けど、処分していいのかどうか・・・。 もしも "ヴィンテージ"だったら・・・」

 困り顔の桃とは反対に砕蜂はてモジモジしながら

「よ・・・、夜一先生・・・。本物かどうか判りますか・・・」

「どれっ・・・、儂に任せろ。それなりに目利きはいいほうじや・・・」

「流石です。夜一先生っ!」

 砕蜂は興奮しながら夜一を褒めると、うっとりと夜一を見つめた。

「・・・どうですか? "ヴィンテージ"だったら売っちゃって、みんなで何か食べに行こうって・・・」

 ファスナーや刺繍糸、ステッチなどを、マジマジ見つめている夜一に、桃は話しかけた。
そんな桃に夜一は首を左右に振り

「こりゃあ安物じゃな。売っても100円程度にしかならん・・・」

 夜一は肩を竦めた。

「えーっ![消費税]程度じゃないですかーっ!・・・ じゃあ、燃やしていいですね?」

 何の迷いもなく、乱菊は袋ごと[スカジャン]を焼却炉にポイッと放り入れた。
 こうして[スカジャン]は、他のゴミと一緒に春の青空の中、煙となり天高く登って行った。
 

 彼女たちは知らない。
 その[スカジャン]が、嘗て[護廷高校]の不良番長、初代"山本元柳斎"が愛用していた[スカジャン ]であることを 。
 それを巡って、古より男達の熱きロマン(バトル)が繰り広げられていることを。
 そして男達は知らない。
 嘗て[護廷高校]の不良番長、初代"山本元柳斎"が愛用していた[スカジャン]が、本当に"幻し"になったことを。
 彼らは今も無意味(アホ)
なバトル(喧嘩)を繰り広げていた。
(おしまい)