「・・・あ、あの・・・。矢胴丸
[隊長代理]?松本[副隊長]・・・?」

 ルキアは恐る恐る訊ねた。
 既に苺花は、その様子に怯え、母親のルキアにしがみつき、胸に顔を当て埋まっていた。

「苺花ちゃーん、コンニチハ。お姉さんの名前は"松本乱菊"ってゆうのよ。よろしくね!」

 乱菊は膝を曲げ苺花の目線に合わせ[自己紹介]した。
 にっこりと微笑みを浮かべていたが、完全に苺花に媚びているのが誰の目から見ても明らかであった。

「"お姉さん"は、矢胴丸リサって言うんだ」

 当然こちらも口元に笑みを浮かべているが、口の端は
ひきつっていて、[眼鏡]の奥は射抜くような視線を苺花に向けていた。
 苺花はチラッと二人を見るとガチガチ歯を鳴らし

「おかしゃま(お母様)。この、お"ば"・・・、ヒッ!!」

 苺花は恐怖で喉を鳴らした。
 苺花には見えていた。
 いや、苺花だけではない。
 苺花に"お姉さん"と呼ばれた面々も見えていた。
 乱菊とリサの背後に[文字]となって表れたドス黒い[霊圧]を。
 ちなみにその[文字]は、『あーっ!この餓鬼、あたしを[おばさん]なんて呼んでみろ・・・。どうなるか(理)解ってんだろうね』である。
 さすがの破蜂も、その迫力には圧迫され、その場にいる面々は苺花の耳元で囁いた。

「お姉さんだ。お姉さんた。お姉さんだ・・・!」

 苺花は歯をガチガチ鳴らし、震える声で「お姉"イ"さん」と呼んだ。
 その言葉に満足した二人は

「良い子ね、苺花ちゃんは・・・」

 そう言うと、二人は苺花の頭を撫でた。
 既に苺花からは[魂]が抜けていた。
 その夜、苺花は[ハブ]と[マングース]に絡ま(揖斐ら)れるという悪夢に魘された。




数年後、

「ゲッ!矢胴丸の"ババア
"・・・!」

苺花はリサを目に止めると、サッと木陰に隠れた。
 一方のリサは

「んっ?今、朽木とこの餓鬼の[霊圧]を感じたけど・・・、気のせいか?」

「ふーっ。危ない危ない。見つかるとこだった・・・」

 苺花は額の汗を手の甲で拭った。

「あんた(苺花)何やってんの?こんなとこで・・・」

 目の前には、苺花の目線に身長に合わせて、しゃがみ込む乱菊がいた。

「ワアーッ!!」


ーーー・・・松本の"ババア"ッ!!

 乱菊は ニコニコと、人畜無害な笑顔苺花に向けていた。
 瞬間、苺はカチンコチンに固まった。

「コンニチハ、松本の"オネイ様」

 ワナワナと震えながら、
挨拶をした。
 幼い少女に[トラウマ]を与えた乱菊とリサであった。
(おしまい)