人形シリーズ番外編。人形じゃない方の真田と古本屋の柳の話。
二人が出会うまでにいろいろあったんですが、すっ飛ばしてます^^;いきなり始まってます。
軽く説明すると、不思議な日記(真田が別の世界で書いた日記)を古本屋の柳が受け取って読み始めてから、しばらく経った頃の話です。こっちの真田は王子(元人形)が住んでた城にいます。
蓮華といえば蓮華かもしれない。一応腐向け注意です。
ちょっと切なめ。王子の従者も登場してます。
「やっと会えたな、蓮二」
「お前は…ああ、そうか。お前が、真田弦一郎なんだな」
「…なんだその言い方は」
ふわふわとした感覚で、足を前に出して近づいた。
初めて会ったはずなのに、もっと前から知っていたような。
ずっとそばにいたような。
「ここは?」
「俺が呼び寄せた。ここは俺が世話になっている城の中だ。魔法使いからもらった薬で、お前を連れてきた。材料が貴重なため、今晩飲んだ一錠しか無いのだ。こうして会えるのはこれきりかもしれない」
「そうか…で、その一錠の薬を使って、お前は俺に何の用だ?」
「……」
日記の筆者である少年…真田弦一郎は、なぜか悲しそうな目でこの柳を見やる。
そして、その目を見ると、俺は苦しくなる。
「そちらに王子の俺がいるはずだ。そいつを、元の世界に返す手伝いをしてもらいたい」
「元の世界…お前が世話になっているのは、王子の弦一郎がいた所…ということか?」
「そうだ。話せば長くなるのだが、もう一人の俺が帰ってこなければ、俺もそちらの世界に帰ることができないのだ。この国の人間も、従者のレンジも、永遠に時間が止まったままだ…」
「お前は、自分の意志でこちらに戻ることはできないのか?」
「何度もそうしようとしていたのだが、上手くいかなかった。だから、お前に頼みに来たのだ」
「…なぜ、俺に?」
「それは…」
カタンッ
部屋の外から小さな物音がした。
コンコンと扉を叩く音も。
『何かあったのか、弦一郎様?』
俺と同じ声の、男。
「いかん、隠れろ!」
「!?」
隠れろと言われても…と部屋を見渡せば、クローゼットがあったので急いで中に入った。
埃っぽいが少しだけの我慢だ。
クローゼットの扉ごしに、二人の話し声が聞こえてくる。
『なんなのだ、こんな朝から…』
『それはこちらの台詞だ。こんなに朝早くから、誰かと話されていたのか?』
『俺は知らんぞ?…寝言でも言っていたかな』
『フフッ…珍しいな、貴方が冗談を言うとは。寝言にしては大きかったようだが?』
『俺とてそのくらいは…ともかく、出て行ってくれ。後ほど朝食をとろうと思う』
『そうだな。こちらも用意をしておくとしよう。では、失礼』
バタン
俺に似た男は、ようやく出て行ってくれたようだ。
「危なかった…まさかもう起きていたとは」
「なぜ俺を隠した?」
「俺にもよくわからないのだが…別の世界の人間とここにいる人間が会うのは、大変まずいらしいのだ」
「…なるほどな」
興味深い話を聞いた。
前にそのようなことを本で読んだ記憶がある…
過去の自分と未来の自分が同時に存在しないことと、同じようなものかもしれない。
「先ほどの男…話し方は多少違うが、やはり…?」
「ああ、もう一人のお前だ。王子の従者をしている」
「ほう…俺がお前の従者か」
「俺ではなく、王子の俺だ。お前を従者のように思ったことはない」
「そうなのか」
「そうだ」
目の前にいる弦一郎は、この柳蓮二のことを知っている。
立海大附属中のテニス部にいた俺のことを。
「友人…だったのか?」
「少なくとも、俺はそう思っていた。大切な部の仲間だ。しかし…お前は覚えていないのだな」
「…すまない、弦一郎」
「そんな顔をするな。覚えていないことがあるのは、俺も王子の俺も同じこと。お前を責める気はない」
「弦一郎。また、会えるだろうか」
「そちらの俺が無事に戻ってこれれば、だが」
「お前はどうしたいんだ?」
「俺は…戻りたいと思っている。最初から、ずっとそのつもりだ。それが世話になった従者のお前のためにもなると信じている。あまり態度に出さないが、ずいぶんと心配しているようだからな」
「優しい奴だな、弦一郎は。従者の俺が羨ましいよ」
「…自分に嫉妬してどうするんだ」
呆れながらも、少しだけ笑みを浮かべる少年・真田弦一郎…
彼との時間も、もうすぐ終わりだ。
あと5分で、俺は目を覚ますだろう。
「また会おう、弦一郎」
「うむ…待っていろ、蓮二」
夢の中で、二人は最後に約束を交わした。
叶うかどうかは、わからない。
だが、この弦一郎はそれを叶えるためにに努力してきたのだろう。
その約束は、今そばにいる元人形の王子・弦一郎との別れを意味する。
あの弦一郎は、どこまでわかっているのだろうか。
知るのが怖い。
しかし、このままではいけないことは、前からわかっていることだ。
弦一郎が望むのなら、協力しようと思う。
それがたとえ、俺にとって悲しい結末になろうとも。
end.
・・・・
夢の中での再会。
この時点で真田は魔法使いに会ってます。そのへんも書いてから公開しようかと思って取っておいた話でした^^;
従者じゃない、友人としての蓮二に会えて、真田は本当に嬉しかったんだと思います。でも、この蓮二は自分のことを知らないことをわかっているから、できるだけ態度に出さないようにした…という裏話です。