話題:ネタだろ…www
「肝だめしの招待状を貰ったのだけど、一緒に行かないかい?」
ある夏の午後、道でばったり遭遇した友人のA君が久しぶりの挨拶もそこそこに突然そう切り出してきた。A君は高校時代の級友、私とは同い年。という事はつまり、二人とももう良い歳である。
「肝だめしって、君…僕らはそういう歳でもないだろう?」
少しばかり飽きれ気味に私が云うと、A君は夏の空を見上げ、眩しそうに目を細めながら云い返してきた。
「そうは云うけどねトキノ君、今は夏の盛りだよ。肝だめしと云えば君、夏の風物詩ではないか」
確かに、それはその通りである。夜風にカタカタと揺れる卒塔婆、ぼんやりと無気味に辺りを照らす和提灯、白い三角巾を頭に巻いて幽霊に扮した大人たちが“うらめしや〜”と子供たちを怖がらせる。エアコンなど無い時代の夏の涼である。
ここは一つ、童心に戻って肝だめし遊びに興じるのも悪くないかも知れない。私は少しばかり乗り気になっていた。ところが、ここにきてA君がまた奇妙な事を云い始めた。
「いや、むしろ逆にね…僕らはそろそろ肝だめしに行くべき年齢だという気がするよ」
何とも不可解な台詞である。肝だめしは基本的には子供の遊びであろう。困った私は、取り敢えず、A君のもとに届いたという招待状を見せて貰う事にした。
「君ゝ…これは“肝臓検査の通知書”ではないか」
するとA君は、この暑さだと云うのに極めて涼しい顔で云ったのだった。
「うん、肝臓検査…つまりは肝だめしだ」
暑さで脳が少々やられているせいだろうか、彼の云い分にも一理あるように思えてきた。
「でもA君、やはり肝だめしは怖くないと駄目だろう?単に病院に検査に行くだけでは“肝だめし”とは云えない気がするけどね」
「いや、酒飲みの僕としては肝臓の検査は十分恐ろしい。トキノ君、これは長年お酒を飲み続けてきた人間が味わえる大人の怪談だよ」
成る程。そう云われてしまうと私としては返す刀がない。どうか、お大事に…。
怪談とは怪しい談(話)の事である。そういう意味では、この話もぎりぎり怪談と云える気がするのであるが…どうだろうか、君?
【終わり】
この話は当然フィクションである。そして、肝だめしをレバー・トライアルと英訳してはいけない…。