話題:詩


雨の降る水曜日は決まって動物園にキリンを見に行く。

他の動物は見ない。檻の前の雨晒しのベンチに傘をさして腰かけ、キリンだけを眺めて過ごす。

すると、キリンの首が長いのは誰かの事を首を長くしてずっと待ち続けているからだと云う事が自然と判ってくる。恐らくダーウィンは、こうして雨の降る水曜日のベンチに一人きりで腰かけてキリンを眺めた事が無いのだろう。

雨の降る水曜日の動物園に人の姿はほとんどない。

キリンの檻から少し離れて停まっているカラフルなポップコーン屋のワゴン車では、売り子のオジサンが暇そうな顔で客が来るを待っている。

傍らで雨に打たれているジュースの自動販売機は誰かが硬貨を入れてくれるのを待っている。

雨の降る水曜日の動物園は、誰かが何かを待ち続ける為に用意された、たった一つの待ち合わせ場所なのだと思う。


雨の降る水曜日は決まって動物園にキリンを見に行く。

キリンの檻の前の雨晒しのベンチで一人、私もきっと、誰かを何かを待ち続けているのだろう。


〜終り〜。


☆☆☆☆☆


「余計な番外編ポエム」


雨の降る水曜日はダーウィンも形無しの進化論の外側にある。

檻から顔を覗かせる、雨もしたたる良いキリンに、こっそりこそっと呟いてみる。

旦那さまの名前はダーウィン…
奥様の名前はサマンサ…
二人はごく普通に恋をし…
ごく普通に結婚を…
でも、ただ一つ違っていたのは…
奥様はマッチョだったのです。

キリンの冷ややかな眼差しが水曜日の雨と共に頭上から降り注ぐ。

どうやら、こういう感じの物はあまりキリンさんの好みではないようだ。

ポップコーン売りのオジサンは大ウケしている。

そして、自動販売機からはお金を入れてもいないのに勝手にレモンスカッシュが飛び出していた。



雨の降る水曜日の動物園には、水玉模様の心がよく似合う。


〜終り〜。