目の見えないあなたとするセックスはなぜかとても美しかった。

「昔は口でしてくれなかったのに」

そう言うあなたはいつもの無表情で、でも声の調子で笑っているんだとわかる。

「だってあの頃はあまりセックスをしたことがなかったから」

私の初めてがあなただなんてことをきっと知らないでしょう。これから死んでいくつもりのあなたはもう知らなくていい。

「あなたが覚えてくれてると思わなかった」

「君を忘れたことなんてなかったよ」

もうすぐここは爆破される。この盲人たちだけの地下帝国で一生の内の大半を過ごしたあなたは、ここと一緒に死ぬつもりなのだ。

外から来た私たちは収穫なく帰らなくてはならない。盗むつもりだった品物はどこにあるのかわからずじまいだ。

ずっとずっと昔、私がまだこの仕事を始めたばかりの頃に私は一度ここを訪れている。その時は仕事の全容も掴めず、与えられた仕事をこなすだけの毎日だった。

爆破予告のあと、逃げる人々は地上へと繋がるエレベーターに我先にと乗り込んだ。閉まりきらないエレベーターのドアが何人かの体を挟んでいるのが見えた。
反対にここに残ることを決めた人々は家中からお酒やご馳走を出してきて宴会を始めた。私たちは手近の一つの塊に混ぜてもらった。今から死ぬことを知っている男たちはどこかネジが外れたように陽気で楽しく、私たちはずっと笑っていた。

あなたはその塊の一部で、お酒が回ってみんなが管を巻き始めた頃にようやく私のいるであろう方向を向いた。伸ばされた手を取って、その辺に転がる人の体を跨いであなたの胸に飛び込む。

口の中をあなたでいっぱいにして、喉の奥まで付きそうなほどにくわえるとあなたは小さく呻いた。そんな声を出してくれることが嬉しくて、苦しいのはわかっていたけど、何度も何度も繰り返す。

私は今幸せだと思った。




地上へ戻り、迎えに来ていたヘリに乗り込む。運転席にはNo.5が乗り、私は後ろの席を与えられる。助手席には調査役が座り、さっそく「今回の成果と被害状況を」と言った。私は答えるつもりもなく、No.5に任せることにして目を閉じる。
成果らしい成果もなかった今回は被害ばかりが甚大でいくつかの道具は大がかりな修理が必要になるかもしれない。

「あ、今回パターンBの調査をしていたのはどっちですか」
「あたしー」

No.5が答える。パターンBは文字通り体を使って情報を収集する役割で私はもうずっと前に卒業した。それよりはパターンAやパターンCなどの分かりやすい仕事の方がやりやすい。ひたすら能力を使い、殺し、奪う。

「不思議なんですけど、対象から手紙、というかメモを渡されまして」

調査役は我々に同行し、本部からの連絡を受けたり、また逆に本部へと情報を送る。普段は対象との接触は極力避けるが、恐らく今回は相手が盲人だったので表に出てきていたのだろう。

「セックスのうまくなった子にあげてくれ、だって」

「なんて書いてんのー?」

「えーと、君がいつもしていたリングを送り、て、ちょっと壱さん!」

奪い取った手紙には下手くそな似顔絵が描かれていた。昔、まだ子供だった私があなたに描いてあげたものを真似したのだろう。
あなたは昔も今もその見えない目でいろいろなものを見ていた。似顔絵も指輪も指でなぞり、私が説明をしただけのものを完璧に捉えて、理解して、頭の中で思い描いていた。

別れるときに渡したリングは安物で、いつもしていたのはたくさんいるパターンBの女たちの中で、手を繋いだときにあなたにわかってもらいたかったからだった。私だけを特別に覚えていてほしかった。

「渡された指輪、ある?」
「え、あ、はい、これです」

年月が経ち、安物のリングはひどくくすんでいた。そっと薬指に嵌めると途端に膨大な感情の波が押し寄せてきた。嗚咽を漏らす私を前の席の二人が心配そうに見ている。

指輪を外してヘリの窓から投げ捨てた。さよなら、私の初めてのひと。

ヘリはぐるぐると野生の動物が唸るような獰猛な音を発てて、東へ向かって飛び去った。

みじかいの