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あぶく

ああ、息苦しい。なんだって今日はこんなにも辺りの酸素が薄いんだ。息苦しい、息苦しい。透明なボックスにわたしは閉じ込められている。呼吸をする度に空気中から酸素が消えていってしまう。はく、はく、とわたしはイキをする。嫌みったらしい目付きで以て、外界を睨めば辺り一面鏡張りで、同じように嫌みったらしい目付きでわたしを睨むわたしと目が合った。ああ、ちくしょう。なんだって今日はこんなにも。雨降りで湿度が高いからよ、と誰かが分かった風な口をきく。大丈夫、大丈夫、ダイジョウブ。わたしを傷付けた人間はみーんな不幸になるから大丈夫。他人の不幸を願うわたしは悪い子なのかしら。わたしは理性と冷静さを持ってわたしにとって有害な人間を呪うのです。

うみにおちるちょうちょ

海に落ちる蝶々の話、知ってる。

そう、小雪が言った。うみにおちるちょうちょ。海を泳ぐでもなく、海を渡るでもない。

知らない。

答えると、小雪は満足そうに鼻を鳴らして「お前はほんと、何も知らねえな。教えてやるよ」と笑った。

わたしは、それでよかった。何も知らないことを幸福だと思った。小雪に、手を取り、足を取って、世界について教えてもらえることが、わたしにとってはこの上ない幸福だった。

潤。

小雪が名前を呼んだ。にやにやとして顔を上げると、小雪はきれいな顔をくしゃっと歪めて、また、ふんと鼻を鳴らした。

溺れたなんて思ってるのは人間だけだぜ。

風がごうっと吹いて小雪の制服のスカートがひらひらと豪快に舞い上がる。

蝶々は自ら海に落っこちるんだ。

そう言った小雪の目はいつものように爛々と輝いていた。

みじかいの

無題

そら豆を剥きながら思い出す思い出なんてどうせ碌でもないに決まっているわ。

この家のいいところはベランダが深いところだ。

退屈にはもう飽いた

私の通う職場のビルは、高いビルの立ち並ぶこの辺りのオフィス街でも群を抜いて高く、単なる事務職派遣の身には少し高すぎるな、という感が否めない。
目も眩むような高みから地上を歩く豆粒のような人間たちの頭を見下ろしていると、分不相応の優越感を抱いてしまう。
煙とナントカは高いところが好き、とはよく言ったものだ。自分の単純な優劣意識に笑いが起きる。

そのビルの最上階にある食堂からは隣のビルの屋上がよく見えて、時々昼間の日差しに照らされた鉄のドアが開いて色んな人間がそこから出てくる。
一人で、あるいは二人で。煙草を吸いに出てきていたり、または少しの色事を楽しみに。

今日も食堂のひどく美味しくはない天ぷらうどんをもそもそと食べながら、ぼんやりとそちらを見ていると、ぱっとしない制服に身を包んだ髪の長いかがふらふらとドアから出てきた。
一目見た瞬間から何かが妙だな、と思って、でもそれは明確にこれがおかしいと断定できるほどの違和感でもなく、うどんの汁を飲み干しながら眺めていると、女はひょいとフェンスに足を掛けた。
そのまま、私が何かを思う間もなく、女は地上にまっ逆さまに落ちていった。

女が高いビルの屋上からアスファルトに叩きつけられるその瞬間まで、私はそれを見ていた。
無声映画など、今だかつて見たこともないというのに、一連の出来事は音のない映画の一コマを見ているようだった。

下を見下ろすと、赤黒い染みの中に何かの塊がそこにあった。
物体としての女がただそこに、あった。

私はなにか面白いものを見たような気になって、そのあとすぐにそう思った自分にゾッとしたのであった。

みじかいの

告白

気が狂いそうで止められない
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プロフィール
kさんのプロフィール
性 別 女性
系 統 アキバ系
血液型 O型