【超頭脳に】AIお悩み相談室【お任せ】


話題:妄想を語ろう



◎AIお悩み相談室

貴方のお悩みに世界最高峰のスーパーコンピューターを搭載した人間型人工知能【インテリ源ちゃん】がお答えする[AIお悩み相談室]。今回は当ラボラトリーに届いた約3万8千件の相談の中から無作為に4件を選び、源ちゃんにお答え頂こうと思います。それでは、待機電力もばかになりませんので早速相談の方に参りましょう。


――――――――

◇第1のお悩み◇

44才の證券マンです。実は、脱サラしてラーメン屋を始めようと考えているのですが、どこぞの有名店で修行を積んだ訳でもなく、何から始めれば良いのか全く判りません。ちなみに、ラーメンはおろか家で料理を作った事もありません(カップラーメンの作り方も知らない)。もちろん自営業の経験もなく、開店や運営に関するノウハウもありません。膨大なデータ量を誇るAI源ちゃんにお訊きします。まずは何から手をつけるべきでしょうか?スープの出汁の取り方でしょうか、それとも麺の打ち方でしょうか。宜しく教えて下さいませ。

〜傷だらけの天使(44才)ショーケン会社勤務。


【AIの解答】

カップラーメンも作れないのに、当然のように麺を自分で打つ前提で話している所に“天然”を感じますが、それは良いとして、結論から言います。最初に手をつけるべきはスープでも麺でもありません。それは「宣材写真」を撮る事です。

ラーメン店の主人のプロフィール写真には定番の構図があり、それをマスターする事が一流のラーメン屋になる第一歩であると、ビッグデータは語っています。その定番の構図とはこうです。

「胸の前で腕をくみ、斜に構えて、カメラに向かってガンを飛ばす(睨みつける)」。それが基本。さらにトッピングとして「タオルや鉢巻きを頭に巻く」、「屋号、もしくは、あいだみつを的な詩句の入った紺色か黒色のTシャツを着る」等があります。まずは必要なアイテムを揃え、鏡に向かってポーズを決める所から始めれば良いでしょう。

ただ、今や日本全土がラーメン激戦区。この群雄割拠の時代にラーメン屋を始める事自体、正直、無謀です。では(麺類に限定するとして)何屋を開くべきか?ビッグデータが弾き出した答えは、ずばり「マカロニ料理専門店」。
ショーケンだけにマカロニ。←判らない人は太陽に向かって吠えて下さい。それはともかく、マカロニ専門店なら競合も少なく成功する確率が高いと言えるしょう。健闘を祈ります。



◇第2のお悩み◇

この前、初めて冷麺というものを食べました。プースーは美味しかったです。問題は麺。何だか輪ゴムを食べているとしか思えませんでした。もしかして冷麺とは輪ゴムを茹でて冷やしたものでしょうか?そこで、AIの源ちゃんに質問です。冷麺と輪ゴムが同じものでないのなら、その違いを教えて下さい。

〜ラーメン、つけ麺、僕オーメン(666才)苦学生。


【AIの解答】

冷麺と輪ゴムが同じ物体だというのは双方に対して失礼です。限りなく似てはいますが二つは異ります。違いは簡単で…

食べられるのが冷麺。

必死になれば食べられるのが輪ゴム。

となります。それ以外に違いはありません。

それよりも、スープをプースーと呼ぶのはやめた方が宜しいかと思います。感情を持たない筈のAIの私ですら軽くイラッとしてしまったので。


◇第3のお悩み◇

自分、インスタント袋麺の明星チャルメラ醤油味がメチャメチャ好きなの。もうね、朝昼晩三食すべてチャルメラ醤油味(勿論、おやつも夜食も)。平日は職場の厨房、旅先でも旅館とかホテルの調理場を借りて自分でチャルメラってるわけ。気がつきゃ、ここ3年間、チャルショー以外の物を全く口に入れてないという(笑)。いや、1年9か月前に一口だけナシゴレン食べたか。ま、いいや。で、自分としては今の食生活に満足してるんだけど、周りは事ある毎に「そんなんじゃいつか体壊すから今すぐ食生活を見直せ」って、メチャうるさく言うの。でも、人間の言う事っていまいちアテにならないでしょ。時代によって常識が変わったりしてさ。その点、源の字ならブレないかなあ〜って。やっぱ、皆が言うように食生活を見直すベッキー?どうなのよ?

チャルメラッパー(27才)DのJ。


【AIの解答】

その馴れ馴れしさはいったい何処から来るのか……超頭脳を誇る私がいくら考えてもさっぱり判りません。さて、お悩みの件ですが、単刀直入に言わせて頂くと、大方の皆さんが言うように「明らかにその食生活は改めた方が良い」と思います。チャルメラッパーさんの食生活はあまりにも偏り過ぎています。このままでは体調を崩すのも時間の問題でしょう。

大切なのはバランスです!

チャルメラオンリーではなく、サッポロ一番とか出前一丁、中華三昧やチキンラーメン、正麺など様々な種類のインスタント袋麺をバランス良く食べる事を強くおススメ致します。味も、しょう油に限らず味噌、とんこつ、塩などバランス良く摂って下さい。そうすれば栄養士からも満点を頂けるでしょう。


◇第4のお悩み◇

裏庭に大蛇が出ます。それが並の大蛇じゃないんです。とんでもなく巨大な、ヤマタノオロチ級の蛇なんです。先日もお祖父ちゃんが「捕まえちゃる!」と息巻いて対峙しましたが、あっけなく丸呑みされてしまいました。お祖父ちゃんは背が190pもある大男で空手の達人ですが、アッという間の丸呑みでした。この先がとても心配です。源ちゃん、いったい私はどうすれば良いのでしょうか。

サッちゃん(8才)投資ファンド経営。


【AIの解答】

それは心配ですね。私はAIなので不安や恐れといった感情はありませんが、蓄積されたデータから、サッちゃんの不安は十分に理解出来ます。人を一人―それも大男を―丸呑みとは只事ではありません。しかも武骨という事は当然、かなり骨ばって筋ばって肉も固いはず。それをよく噛みもせずに丸呑みですから、これはいくらレジェンド級の大蛇と言えども流石にキビしい。サッちゃんが心配するように、今頃、大蛇が胃もたれで苦しんでいる可能性はかなり高いと考えます。

今すぐお近くのドラッグストアに行き、胃薬を大量に買い込んで下さい。そして、次に大蛇が現れた時に飲ませてあげて下さい。その際、大蛇が粉薬を飲むのが苦手(幼子などに多い)な可能性もありますので錠剤、チュアブルタイプも用意して置くと良いでしょう。なお、投与する量については店の薬剤師さんに相談して決めて下さい。それにしても、大蛇のお腹の調子を心配するなんて、サッちゃんは本当に優しい子ですね。どうか、その優しさをいつまでも大切に。



――――――――

〜相談を終えて〜

四つの相談を終えた人工知能インテリ源ちゃんに軽くインタビューを試みた。

――源ちゃん、お疲れさまでした。

『機械なので疲れてはいません。ただ、ちょっと頭が熱をもってボーッとするので冷えピッタンをおでこに貼って貰えると助かります』

――これはこれは、気がきかなくて済みません。はい、ペッタン。

『ありがとうございます』

――さて、四つの相談を受けた訳ですが、どのような感想を持ちましたでしょうか。雑感で良いので教えて下さい。

『はい。何と言っても、無作為に選んだ4つのお悩みが全て麺類に関してのものだったという所に大変驚きました。確率的にはほぼ有り得ない事です。もしかしたら近い将来、人類は麺類に取って代わられる日が来るのかも知れない。或いは、人類と麺類が融合して新たに人麺類が誕生するのかも知れない。そんな感想を持ちました』

―――お言葉ですが、最後のお悩みは麺類は関係ないのでは?

『いえ、蛇は細長いので麺類です』

―――以上でインタビューを終了させて頂きます。有り難うございました。

『どういたしまして』

流石は世界最高峰のスパコンを搭載した人工知能。その回答は従来の人間の常識を遥かに超えたものであった。今後の源ちゃんの活躍に期待は膨らむばかりである。

〜おしまひ〜。


あなたが竹輪を食べるまで。


話題:突発的文章・物語・詩



『あなたが竹輪を食べるまで』

竹輪の穴に何を詰めるのか、それが問題だ。

暗闇に包まれた深夜の台所。半開きの冷蔵庫から放たれた薄ぼやけた灯りが床にこぼれている。その小さな光溜まりの中、あなたはしゃがみ、片手に持った竹輪の穴を見つめている。

見詰めれば見詰める程その深淵に吸い込まれそうになる。竹輪の穴は心の穴。だとすれば何かで埋めなければいけない。

何事においても素材選びは大切だという事をあなたはよく知っている。だから慎重になる。今現在、竹輪の穴を埋めるに相応しいものは何か。気温、湿度、体調、星座の位置、その全てが素材選びの重要なファクターとなる。

あなたの脳裏に真っ先に浮かんだのはスティック状のチーズだ。やはり、これが一番か。いや――あなたは小さく“かぶり”を振る――それでは当たり前田のクラッカーだ。ならば野菜か。ただし、細長いもの、細長く出来るものがいい。キュウリ、ニンジン、ゴボウ……あなたはイメージを連ねてゆく……細長いもの……エノキ、カイワレ大根、セロリ、山崎まさよし。あなたは俯(うつむ)く。駄目。どれもありきたりで新鮮味がまるでない。

竹輪には穴が開いている。あなたはそれを十分過ぎるぐらい知っている。しかし――冷蔵庫の光に眩しさを覚えたあなたはあなたは薄目になって考える――自分は本当に竹輪の穴の事を知っていると言えるのだろうか、と。

穴があるから竹輪という名がついたのか、それとも逆に竹輪という名前だから穴を開けたのか。ニワトリと卵だ。どちらが先でどちらが後か。あなたはそれを知らない。それでも竹輪には穴がある事をあなたは知っている。だが、それを知った日付をあなたは覚えてはいない。何歳の時の何月何日か。あなたはまるで覚えていない。それどころか初めて竹輪と出会った日の事すら微塵も記憶していない。結局、あなたは竹輪について何ひとつ知りはしない。その事実に愕然としたあなたの目は光り溜まりの中で更に細くなってゆく。闇の中で視る光の眩しさに“竹輪初心者”という真実の放つ眩しさが加われば、もう、ルクスでは計り切れない眩しさとなる。眩しい、眩しい、眩しい……極限まで目を細めたあなたは、ふと何かに気づく。そして、不敵な顔でこう囁く。

――倍返しだッ。そしてニヤリ。

意図せずして堺雅人氏(半沢直樹)の表情モノマネを会得したあなたは幾分気を持ち直して再び竹輪の穴と対峙する。が、思い浮かぶのは月並みなものばかり。夜の寒さが身に沁みる。こんな事ならカーディガンの一枚でも羽織ってくるのだった。

不意にあなたの中に一つのイメージが飛び込んで来る。カーディガンの袖に腕を通すイメージだ。カーディガンの袖は竹輪に似てはいないだろうか?ならば、カーディガンの袖に腕を通すように竹輪の穴に指を通すのもありなのではないか?

あなたは意を決したように竹輪を握りしめる。そして、婚約指輪を嵌めるように竹輪を薬指に近づけてゆく。「結婚してください」。「はい」。「ヤメルトキモー、スコヤカナルトキモー……」。そう、ここは教会。今日は結婚式なのだ。深夜だから許される一人芝居。牧師まで登場してとても良い雰囲気だ。その刹那……

ヒーックシュン!

ぶるっ。加トちゃんばりのクシャミで正気に返ったあなたは身震いと共に慌てて竹輪を指から遠ざける。竹輪に指を突っ込むなど常識ある大人のやる事ではない。危なかった。ホッと胸を撫で下ろしたあなただったが、結局、事態は何も進展してはいない。振り出しに戻っただけだ。

ここで一度、細長いものという縛りを捨ててみる。マヨネーズやケチャップなどの調味料。昨夜の残りの冷やご飯。福神漬けやしば漬け。鰹節フレッシュパック。候補は無限に存在しそうに思えてくる。頭を使ったせいか、小腹の空き加減が増している。もはや一刻の猶予もない。すぐにでも竹輪を食べなければならない。しかし―あなたは未だ迷っている―いったい何を積めれば良いのだろう。

瞬間、あなたの脳天に閃光が走る。

竹輪だ。竹輪を詰めれば良いのではないか。灯台もと暗しである。あなたは目を閉じてイメージ像を結んでゆく。竹輪Aの穴の中にそれより細い竹輪Bを詰める。竹輪Bにも穴が開いているので何かを埋めなければならない。そこで登場するのが竹輪Bの穴よりも少し細い竹輪Cだ。竹輪Bの中により細い竹輪Cを詰める。更には、竹輪Cにも穴があるのでそこに竹輪Dを詰める。そのような感じで竹輪D→E→F→G……と詰め込んでゆく。どこまで詰めても竹輪には必ず穴があるのでキリがない。つまりは無限に竹輪を詰め込んでゆく事になる。

無限に進む竹輪詰め作業、その穴の中ではアキレスが亀を追い掛け走り続いている。しかし、いつまで経ってもアキレスは亀に追いつけず、あなたが竹輪が詰め終わる事もないのである……。


〜おしまひ〜。


*追記*

一般的な書物で見かける文章はほぼ【一人称】か【三人称】ですが、此所では久しぶりに【二人称】というものを使ってみました。これは、「あなたは……している」のように読んでいる者を主体にするもので、一時期流行ったゲームブックなどで使われていた書き方です。たまには、こういうのも宜しいでしょう。

カタカナに弱い富士山太郎くん。


話題:文字や言葉


滝壺小学校6年2組の富士山太郎くんはとても優秀な生徒ですが、名前が和風なせいか、カタカナ言葉に弱いという弱点がありました。先だっての自由作文を読んだ担任の竹之内ヘニング良枝先生はそれが少し気になっていました。


◆良枝先生の感想と添削◆


山太郎くんの自由作文『僕の素敵な家族』を読みました。山太郎くんはバラエティ豊かで優しい家族や親戚の方たちに囲まれていて幸せですね。作文自体も素直な文章と圧倒的なボリュームで、とても良く書けているなあと感心しました。

ただ、一つだけ気になる点があります。それはカタカナ言葉のちょっとした間違いです。山太郎くんは前に「カタカナ言葉をずっと見つめ続けていると文字が勝手にうにょうにょとミミズみたいに動き出す」と言っていたけれど、それが原因なのかな。一箇所二箇所ならともかく、結構な数の間違いがあるので、うっかりミスだとは思うけれども、一応その部分を指摘して訂正したいと思います。

まずは山太郎くんのお父様の話。お父様はこの4月から誰もが名前を知っている某IT企業の宣伝戦略部門の【特別バドワイザー】に就任したと書いてあるけれど、それはバドワイザーではなくて【アドバイザー】だと思います。先生、大和くんのお父様がバドガールの衣装(ぴっちぴちのボディコン)をつけて授業参観に来ている姿を想像してちょっと血の気が引いちゃいました。お父様の名誉の為にも次からは間違えないであげて下さいね。

次は、冬物の服を家族みんなで買いに行った部分。なるべく重ね着をしないよう「保温力の高いビートイットの肌着やTシャツを買った」とあるけれど、それは【ヒートテック】の間違いじゃないかな、って先生思います。ビートイットはマイケルジャクソンの30年以上前の古いヒット曲です。ご両親が聴いていて、それで知っていたのかな。

それから、ファッション業界にいらっしゃる叔母様の紹介で原宿にある芸能人やモデル御用達の美容室に行った時の話。「通常、予約が2年待ちのカラスミ美容師に髪を切って貰った」と書いてあるけれど、言う迄もなくカラスミではなく【カリスマ】美容師が正解でしょう。体から珍味の匂いを発している美容師さん、ちょっと嫌です。それにしても、山太郎くんのスポーツ刈り、前よりちょっとお洒落な感じがしたのはそのせいだったのですね。

それと、もう一つ。そのお洒落な叔母様の服装に関して。山太郎くんは【エレガント】と書いたつもりなのだろうけど、「エレファント」になってしまっています。エレファントは動物の象さんです。でも、もしも「エレファントカシマシっぽい服装」の意味であって間違えた訳ではないのならば先生謝ります。ごめんなさい。

他にもけっこう間違いがありました。

本場イタリア仕込みのピザ屋で食べたのは「ボンジョビの窯焼きピザ」ではなく、恐らく【アンチョビ】のピザでしょう。ボンジョビはアメリカのロックバンドでピザのトッピングには適していません。もし出来たとしてもかなりお金が掛かると思います。

「日曜日、よく晴れていたので家族みんなで家の大掃除をしました。ウーパールーパーが大活躍でした」

はい。活躍したのはウーパールーパーではなく【クイックルワイパー】ですね。普段から先生も使っているのでこれはすぐに判りました。

「商店街の福引きで宿泊券が当たったので家族揃って高級ホテルとして名高いセンチメンタルホテルに泊まりました。物凄く快適でずっとここに住みたいと思いました。チェックメイトする時は少し寂しい気持ちになりました」

思うにセンチメンタルホテルは【コンチネンタル】ホテル、チェックメイトは【チェックアウト】が正しいのでは。センチメンタルホテルでチェックメイト(詰み)、何だか絶望的な恋愛模様を想像して、先生、ちょっと胸が切なくなりました。

「従兄弟の和男さんが空き巣の疑いで警察の事情聴取を受けました。でも、犯行時刻のアリババが証明されたらしく直ぐに解放されました。冤罪事件にならなくて良かったです」

それは災難でしたね。さぞや皆さん心配された事でしょう。無実が証明されて本当に良かったです。でも、アリババは【アリバイ】の間違いなので、今度誰かが事情聴取された時には間違えないよう気を付けて下さいね。

「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが東南アジア旅行から帰って来ました。タイのお土産のカレー(レトルト)を晩御飯に皆で食べました。いつも家で食べているお母さんのカレーとは少し違うエースコックな感じで美味しかった。マッチョマンカレーというらしいです」

なるほど。【エスニック】な【マッサマンカレー】、美味しくて良かったですね。

「たまたま聴いたFMのお洒落な洋楽特集で、番組のアリゲーターを努めていたお姉さんが英語ペラペラでとても格好良く、ちょっと憧れました」

それは間違いなくアリゲーターではなくて【ナビゲーター】でしょう。アリゲーターは鰐(わに)です。ちなみに、アリゲーターとクロコダイルの違いは……長くなりそうなので止めておきます。

「土曜日のお昼にパスタ料理を作りました。スパゲティは耳たぶの固さに茹でるのが良いと教わりました。耳たぶの固さ、専門用語でデルモンテというらしいです」

デルモンテではなく【アルデンテ】ですね。スパゲティ、美味しいですよね。先生もパスタ料理は大好きで自分でもたまに作ります。

「パスタ料理のソースにはアルモンテのケチャップを使いました」

そっちが【デルモンテ】です。アルモンテは中日ドラゴンズの髭もじゃ外国人選手です。

「家族でカラオケに行きました。お母さんが唄うのを初めて聴いたけれど、上手くて驚きました。曲もサブちゃんからジャパネット・ジャクソンまでとレトリバーの広さにもビックリした一日でした」

まあ、山太郎くんのお母さま、昔、歌手を目指していたのでしょうか。先生もお母さまの歌を聴いてみたくなりましたが、ジャパネットは通販なので正しくは【ジャネット・ジャクソン】。レトリバーも【レパートリー】の間違いです。

「妹の和美のピアノの発表会に行きました。ちゃんと弾けるか心配だったけれど、和美は本番に強いみたいで練習よりも上手にシートベルトの曲を弾き、会場から大きな拍手を貰いました」

妹さんのプレッシャーに対する強さ、先生ちょっと羨ましいです。シートベルトは【シューベルト】だと思うけれども、違っていたら後でこっそり教えて下さいね。

「車好きの叔父さんが真っ赤なオープンカーに乗って遊びに来ました。古いイタリアの車でアロンアルファのスナイパーというらしいです。夏の海岸通りに似合いそう」

先生、車にはあまり詳しくないけれど、アロンアルファが瞬間接着材だという事は知っています。そこで少し調べました。叔父様の車は多分、【アルファロメオ】の【スパイダー】だと思います。

「お父さんが〈政官民・大癒着ゴルフコンペ〉で優勝。大きなアルフィーを持って帰って来ました。お父さんはゴルフがとても上手で部屋には記念アルフィーがたくさん並んでいます」

アルフィーではなく【トロフィー】ですね。アルフィーはメリージェーンなどの曲で有名な三人組のバンドです。癒着云々は…家庭訪問の時にちょっと気まずくなりそうなので、見なかった事にしておきますね。

…あ、ごめんなさい。メリージェーンではなくて【メリーアン】でした。メリージェーンはつのだじろうさんです。

…あ、あ、ごめんなさい。つのだじろうさんは漫画家のお兄さんの方でした。正しくはつのだ☆ひろさんでした。何だか先生ちょっと混乱して来ました。

「両親が、中学生になったらスマホを持って良いと言ってくれました。将来はチューバッカになりたいので、スマホを買ったらたくさん動画を撮って練習したいと思います」

それは良かったですね。先生も山太郎くんの撮った動画を観てみたいな。【ユーチューバー】デビューも楽しみです。たくさん練習すると良いと思います。それと一緒にカタカナ言葉の書き取りも練習してくれるともっと嬉しいです。チューバッカはスターウォーズに登場する毛むくじゃらの人でハン・ソロ船長の相棒です。

最後に、これは厳密に言えばカタカナ言葉の間違いではないのだけど、気になる箇所があるので指摘しておきます。

「南米のペルーを旅行中のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんから絵葉書が届きました。絵葉書の写真は有名な父母湖で、とっても綺麗な湖だなあと思いました」

ついこの間タイから帰って来たと思ったらすぐさまペルーですか。山太郎くんのお祖父さまとお祖母さま、活動的で羨ましいです。ただ、【チチカカ湖】を父母湖と書く、そういう表記方法は何処にも存在しないので次からは気を付けましょうね。


さて、色々と間違いを指摘して来ましたが全体的には良く書けていたと思います。何よりも家族への愛情がしっかり伝わって来て、先生、それが嬉しかったです。いかに正確で技巧に優れていても心が伴っていなければ、「仏作って魂入れず」で意味がありませんものね。正すべき所は正し、伸ばすべき所は伸ばす。弱点があるという事は逆に伸びしろがあるという事でもあります。次の作文も楽しみにしています。


〜おしまひ〜。

誰も知らないプチ都市伝説(投稿お国自慢編)


話題:都市伝説


小腹が空いた時に軽くつまみたい、そんな小さな都市伝説があります。都市伝説と言うには物足りない“妙な噂”程度のお話。そのようなものが読者投稿で届いておりますので、それを都道府県の地域別に分け、その中の一つを、今回、お国自慢編として紹介する事に致します。なお、都市伝説研究家として有名だという噂もある「又聞きのトシちゃん」さんの一言論評付きとなっております。



【茨城】

ニセ黄門さま登場の回(ファッション印籠訪問販売業)さんからの投稿。

――友達の友達が友達の友達の友達から聞いた話なんですけど、茨城県の或る隠れ里で行われている秘祭では、何と神事としてバンジージャンプが行われているんだそうです。しかも、ただのバンジージャンプではなく、とても普通では考えられないような物を紐――いや、紐代わりですかね――として使うらしい。

それは何か?何を使うのか?。

正解は、まさかの納豆!納豆の糸引き、あるじゃないですか?あの、納豆を箸で持ち上げる時にネバ〜ッと伸びる白い糸状のもの。そのネバ〜ッを紐代わりにして崖や吊り橋の上から跳ぶんだそうです。

もちろん、使用する納豆は特殊な製法で作られた、茨城県のごく一部以外、世間一般には知られていない特別な納豆で、それは江戸時代に水戸黄門の名で知られる徳川の水戸光國公が「もしも将来、幕府が亡び、江戸時代が終わるような事になったら、この納豆を使って徳川幕府を再興して欲しい」との言葉と共に製法を残したと伝えられているそうです。その際、「徳川御三家秘伝の納豆の凄さをよく“見とけ”!……“水戸家”だけに」と、言ったとか言わなかったとか。

秘祭では、特殊な製法で作られた納豆を里の人々が代わる代わる、何と、江戸時代中期から約300年間、1日も休まず不眠不休でかき混ぜ続けており、その糸はスパイダーマンもびっくりの強烈な粘り気を持つと言われているそうです。

なお、この隠れ里の存在場所は不明で、行政に問い合わせても「担当の者がおりませんので……」との常套文句で、はぐらかされてしまうらしい。


◆又聞きトシちゃんの一言論評◆

さすがは納豆の本場、茨城県。ものが違うと感心しました。茨城県は、皆さん御存知のように未だプテランドンが普通に空を飛んでいるような土地柄ですから、今回の話にもかなりのリアリティを感じます。と同時に、納豆の糸に身を任せられるなんて、よほど強くて深い信頼を納豆に対して持っているのだなあ、と胸が熱くなりました。もし太宰治がこの話を知っていたら「走れメロス」の続編として「跳べナットウキナーゼ」を執筆した事でしょう。

水戸と言えば、尾張、紀伊と並ぶ天下の徳川御三家の一つ。このような秘伝の納豆を隠し持っていたとしても不思議ではありません。徳川幕府の再興を目論む水戸家の流れを汲む人々が存在するのでしょうね。もしかしたら行政、官権の一部にも紛れ込んでいて、情報を隠蔽しているのかも知れません。もっとも、どうやったら納豆で幕府を再興出来るのかは皆目見当がつきませんが。

ともあれ、貴重な情報を有り難うございました。ニセ黄門さま登場の回さんのよく判らない交遊関係も素敵です。あと、ファッション印籠の訪問販売という良い意味での胡散臭さにも惹かれました。


〜おしまひ〜。

【次回】(予定)…北海道?、静岡?その他?(←宛にならない)。

不自然なところを直しなさい。


話題:大丈夫



ら抜き言葉、語尾上げ発音、「全然――ある」など、かねてより近年における日本語の乱れを憂いていた[聖ジャポニカ学園中等部国語教師]龍川芥之助(たつたがわあくたのすけ)は、3年β組現代文の授業中、やおら白墨を掴むと黒板に次のような一文を力強く書き込みました。

『――逃げた逃亡犯を追いかけていた青木刑事であったが、逮捕寸前、突然お腹が急な腹痛に襲われたせいで犯人を取り逃がしてしまったのだった――』

そして、ギロリと生徒たちに一瞥をくれた後、厳(おごそか)かに言いました。

「不自然なところを直しなさい」

「ハイッ!」。それにいち早く反応したのは学園のオピニオンリーダーであり生徒会長でもある等々力賢太郎くんでした。等々力くんはツカツカと黒板まで歩くと白墨を掴み、『逃げた逃亡犯』という箇所にアンダーラインを引きました。そして、「逃亡犯というのは既に逃げている訳ですから、その前の“逃げた”という言葉は必要なく、そこが不自然だと思います」

芥之助先生が「ウン」と軽く頷くと、周囲から小さな拍手が上がりました。ところがそこに、「ハイッ」、もう一人、手を挙げる者が現れたのです。学園きっての秀才である綾瀬川秀文くんでした。綾瀬川くんは等々力くん同様、黒板まで行くと、「等々力くんの解答は正しいと思います。しかし、敢えて言わせて貰うなら、逃亡犯は確かに既に逃げてはいるけれども、その“逃亡”は犯行現場とか警察署、拘置署など特定の場所や施設からの逃亡――仮に第一次逃亡とします――を指しており、その前の“逃げた”は、その後、追いかけてきた刑事から逃げた事――つまり第二次逃亡――を表している可能性がほんの若干ではありますが有ると思います。そうなると厳密には間違いとは言えず、それよりも、その後に続く、“腹が腹痛に襲われた”という部分と“突然お腹が急な”の二箇所の方が明らかに意味が重複しており不自然だと思われます」と、敢えて現在修得中であるブルックリン訛りの英語で言いました。

綾瀬川くんの発言に投げやりな拍手が起こります。英語なので意味はさっぱり解らないけれども、あの綾瀬川が言うのだからどうせ当たっているのだろう、というある種の諦感がこもった拍手でした。

何はともあれ、これにて問題は解決、誰もがそう思いました。それは芥之助先生も同様でした。ところが、そこに、「は〜〜い」やや間延びした声が響いたのです。

声の主は学園きってのモテ男、ニヒルで風来坊の九条隼汰くんでした。九条くんは額にハラリとかかる前髪を軽くかき上げながら「むしろ……」と椅子に座ったままハンサムな声で言いました。

「むしろ、僕が気になったのはその時の状況なのさ。普通、刑事というのは最低でも二人一組で動くものでしょ?だから、青木刑事が腹痛で離脱したとしても相棒の刑事が犯人を追いかけるはず。ところが、それには全く触れていない。不自然と言えばそれが最も不自然に僕には思えたんだけど、どうですかね?」

言葉ではなく状況の問題。これは盲点です。さすが九条くん。感心したような拍手が上がります。が、当の九条くんは何事もなかったかのように、指の上で器用にペンを回しながら、何事もなかったかのように、窓ガラス越しに流れる雲を見つめています。その端正な横顔にクラス全員の胸が男女問わずキュンとなりました。それは芥之助先生も同様でした。

さすがにこれ以上の答えはないだろう。う思われた時、「ハイ♪」よく澄んだ美しい女性の声が上がりました。

そのオペラの歌姫のような美声の持ち主は、学園のマドンナであり日本を代表する財閥のお嬢様でもある西園寺百合絵さんでした。

クラス全員の視線が集まる中、マドモアゼル百合絵は傍らの学友たちにいちいち「ご機嫌よう」といちいち声を掛けながらゆっくりと黒板まで歩を進めます。なんとも優雅な光景です。それにしても、百合絵お嬢様はいったい何を語るつもりなのでしょう。先の三人により答えは出尽くしたように思えます。クラス全員が固唾を飲んで見守る中、百合絵お嬢様は黒板の前に立つと、突然くるりと振り向き、芥之助先生の頭に手を伸ばしました。

むんず。

そして、その頭髪をむんずと掴み上げると、水平方向で左に約15°ほど回転させたのち、再び頭髪を頭皮に着地させました。それを上から押さえつけるようにポンポンと軽く叩くと、涼しげな眼差しを湛えて言いました。

「この方が自然に見えますわ」

これは盲点中の盲点でした。なんと、事件は会議室(黒板の上)で起こっていたのではなく、現場(頭皮の上)で起こっていたのです。

確かに、教室にある中で“不自然なもの”と言えば、芥之助先生の髪の毛の生え際の浮き上がり方や色つや形が最も“不自然なもの”です。「フッ、こいつは一本取られましたね先生」九条くんが声を掛けると、石像のように固まっていた龍川芥之助先生の頬に赤みが差して来ました。そして、

「四人とも正解です」

その瞬間、嵐のような拍手喝采が教室内に巻き起こりました。しかし、それが誰に対する何の拍手なのかは拍手している本人たちにも判らないのでした。


〜おしまひ〜。

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