私……私。
A……私の幼なじみ。
B……その友人。
とある広場。声をかけられて私が顔をあげると、手を振るA。その横で微笑むB。私は数秒おいて、Aに話しかける。
私「久しぶり」
A「やほー」
私「びっくりしたー」
私、Bの方を見て、
私「あ……」
B「あっ…………」
A、私に声をかける。手をあげて、
A「もう行くね、じゃ」
私「うん、またね」
歩き出すA。Bもその場を立ち去ろうとするが、
私「あ……」
B「あ……」
私「……またね」
B「うん」
手を振りあう私とB。
しかし、Aが立ち止まって、
A「え?知ってたっけ?」
(Bと私の二人を交互に指差しながら)
私「……知っ……」
B「………知っ……」
私「えっと」
私「誰?」
A、笑う。Bも苦笑する。
(自信がなさそうに)
B「でも、おんなじ高校だよね……?」
私「……名前おしえて」
B「B」
私「……でも、おんなじ高校だよね……」
(微笑みあう)
A「一年のとき何組だった?」
私「クラスは一緒じゃなかった」
B「うん。でも顔は覚えてるから……」
私「ごめんね」
B「ううん」
私「もう覚えた」
B「うん」
A「よかった」
あらためて別れのあいさつを交わす三人。
閉幕
私がクソということしか伝わらないとおもうのですが私にとってはよい出来事でした。素直に誰?って聞けてよかった。
一年のとき何組だった? と尋ねられて(あっ、Aって同じ高校だったんだ)と思い出した。
この感覚、伝えにくくて書こうかどうしようか迷ったけど(書くけど)Aのことが嫌いだとか仲が良くなかったとか印象薄かったとかいうことはけっしてなくて、むしろAは今までもこれからもずっと覚えている人のなかに入るような存在のはずなのに、高校が同じということに関しては不思議と記憶に信頼がおけなかった。高校の校舎で話した記憶はあるのに、同じ高校だったということにどうしても確証が持てない子だった。
近い昔に一度、Aのことを思い出したときがあって、そのときはじめてその記憶の曖昧さに気がついた。
小学校が同じ、中学も同じ。でも高校だけ記憶が弱い。
同じ高校だったように思うけど、近くの別の高校の制服を着ていたような気もする。
重ねていうが私はAのことが今でもけっこう好き。
でも十代後半のことはよくわからなくて、それがなぜなのかもわからない。魂が少しずつあのころから遠ざかっている。ポエジー。
Bとはまた会いたいと思う。Aはおそらく何もせずともまた会える。
Aのことは中学のときのほうがよく覚えていて、好きなものやことが私と似ているのに私よりずっと器用な子だった。生きるのがうまくて、その点で私とは大きく違っていた。
「いきなり、すぐ、殺さないでね」
辻村深月『オーダーメイド殺人クラブ』
辻村深月は読める周期と読めない周期があって、この本もずーーーーーっと、一年くらいためこんでいて、ようやく読むことができた。
辻村深月が読みづらいのは、読んでいる過程で受ける苦しさが心の呼吸をつまらせるからなのだけど、この人の話はつらくてもただつらいだけのつらいじゃないんだよな。って今回この本を読みながらだんだんと思い出していった。そうそうこの感じ。かさぶたがはがれる喜びまできちんと書きつらぬく、一筋縄ではいかない胸の痛み。
最後にすべて救われるとしても、それがそれでまたつらくてやっぱり辻村深月は読みづらい。希望はないとあきらめたほうが楽なときもあるじゃん。
あの……褒めています。
あらすじ
学校では明るい女子のグループに属しながら、心の奥底では暗く残忍なものに惹かれ、猟奇的な事件に対してひそやかに憧れを抱く少女・小林アン。ある日アンは、冴えないクラスメート・徳川が血の付いた袋を蹴り飛ばす場面を目撃する。袋の中には生物の死体らしきものが入れられており、アンはその出来事に激しく心を揺り動かされる。徳川の持つ本性を知ったアンは、秘めていた願いを彼に依頼する。
「私を、殺してくれない?」
そして二人は前例のない、唯一無二の殺人計画を企てはじめる……。
イカネタバレ!くコ:彡(←イカ)