嫌なことがあると私は玉ねぎを炒める。玉ねぎがすうっと透き通るように私を取り巻く空気もすうっと密度を薄くする。消える、消える。玉ねぎも私も消える。右目や、左目や、時には両目からじわりと涙が溢れる。眼球の埋まっている場所が痛い。見下ろすフライパンに私の涙がぽとり、ぽとりと落下する。透明な玉ねぎと透明な涙は混じり合ってなくなる。気の遠くなるほどの時間をかけて玉ねぎを炒めていると、玄関のドアが開いてあなたが帰ってくる。「おかえりなさい」「ただいま、良い匂いだね」「もうすぐできるわよ」出来上がったメインディッシュをテーブルに並べて、あなたが口へと運ぶスプーンの動きを見詰める。お行儀の良い食べ方。「おいしい?」「うん」私の涙入りのお料理をあなたはいつもおいしいと言って食べている。

みじかいの