話題:突発的文章・物語・詩
『かれこれ二十年になりますか…道楽で日本各地のお城を巡っておるのです』初老の男は幾分照れ臭そうに云った。彼は元教師で、長年、高校で日本史を教えていたらしい。
春らしい暖かい光に照らされた五月の小田原城址公園。目前には風格に満ちた小田原城の姿がある。
彼とは偶々この場所で一緒になっただけでもともと知己の間柄ではない。どちらからともなく話しかけたのは、ほかほかとした陽気のせいに違いなかった。もし、これが凍るように寒い真冬の一日であったなら、こんな風に心は緩まず、従って口が緩む事もなかっただろう。
『お城巡りですか。なかなか良いお趣味ですね、風情がある』。私が云う。
『いえいえ。他にこれといった趣味がないだけのお話でして…』
私たちの会話はそんな風に始まった。
『二十年と云いますと、さぞかし色々なお城に行かれたのでしょうね』
『はい。青葉城、姫路城、二条城、首里城、五稜郭、松本城、それと姫路城ですか…数だけはそれなりに重ねておるかとは思います』
姫路城が二回登場したが、そこは、まあ気にしないでおこう。
『となると、もう殆んどの…あ、もちろん日本国内に現在残っているお城という意味ですが…お城を巡られたのではありませんか?』
二十年もお城巡りを続けているのなら全城を網羅…いや制覇と言うべきか…をしていても不思議はないように思える。ところが、元教師は『とんでもない』と云った風に大きくかぶりを振ったのだった。
『いやいや、制覇どころか、せいぜい二割から三割、そんなものでしょう』
『えっ、そうなんですか?』
『そうですとも。あなた、日本にお城どれぐらい残っていると思います?』
『さあ、どうでしょうか…』
日本に現存するお城の数。そんな事は考えた事もなかった。
『およそ見当もつきませんが、まあ、各都道府県に一つずつあるとして、トータルで五十ぐらいですかね』
すると老人は〈ムンクの叫び〉のポーズをとった。
『それ、桁が二つ違いますわ』
『二つと云いますと…四桁…えっ!千個以上の数のお城が今も残っているんですか!』
『ね、驚きでしょう?』
まったくもって彼の云う通りだ。よもや、そんなにも現在の日本にお城が残っていようとは。夢夢思ってもみなかった。
『いやはや千以上とは…正直、驚きました。まさに、ライオンズマンションもびっくりの軒数ですね』
すると元教師は、やや不自然な沈黙の後、『……ええ、タイガーマスクもびっくりです』と云い返してきた。
ん?もしかして、私がライオンと云ったので、それに対抗してタイガーを出したのだろうか?確かめるべく別の動物で誘いをかけてみる。
『はい、確かに…エレファントカシマシもびっくりです』
私の推察は当たっていた。
『ええ…ビーバーエアコンもびっくりですな』
間違いない。彼は私に別の動物で対抗しようとしているのだ。
『なる(ほど)…クロコダイルダンディーもびっくりです』
『うむ…ハワード・ザ・ダックもびっくりです』
ああ、この人も私と同じく、ことくだらない事に関して負けず嫌いなのだろう。
『ええ…ライオン丸もびっくりです』
私が云うと、元教師はニヤリと笑った。
『はい、あなたの負け。ほら、同じ動物を二度出したらダメな訳ですから』
えっ、そういうルールなのか。何だか微妙に悔しい。が、まあ、何はともあれ老人は機嫌よさそうだし、これはこれで良かったのかも知れない。こういう不毛なゲームはどちらかが大人になってわざと負けて終わりにするしかないのだ。私は悔しさを押し隠して爽やかに話の方向転換を計った。
『しかし…千以上のお城を巡るとなると完全にライフワークという感じですね』
『確かに。困難な目標、高い壁、それだけにやりがいがあると云いますか、人生のモチベーションになっているのは間違いありません』
ふと思った事を訊ねてみた。
『時に、今までで一番印象に残っている“城”って何ですか?』
『そうですね……』
老人は晴れ晴れとした空を見上げ、少し考え込むようにして答えた。
『もう随分と昔になりますが、サッカーのオリンピックだかワールドカップだかをテレビで観戦していた時、不意に耳にした【城は良い選手だけど、負けてるのにヘラヘラ笑ってちゃダメ!】というとても厳しい言葉。それが、私の中で最も印象深い“城”でしょうか』
……真面目な顔をして、いったい何を云っているのだろうか、この人は。
《続きは追記からどうぞ》
『あの……それ、“おシロ”じゃなくて“ジョー”ですよね。と云うより、解説していたラモスさんの印象じゃないですか』
『まあ、それは冗談として、こうしてお城の前に無心で立っていると普段の生活では思いもしないような事がふと頭に浮かんだりするのです』
『閃き、のような感じですか?』
『閃光というよりは、ふと心に浮かぶ、そんな感じでしょうか。因みに、今お話しした、サッカーの城選手とお城を巧みに引っかけたオーバーヘッドジョークも実は二条城の前で思いついたものなのです。ジョークとしてはスーパーゴール級。それで私の中ではとても印象に残っている。だから、あながち嘘という訳ではないのですね』
なんか強引な気がするが、彼の中では自然な着地なのかも知れない。それよりもオーバーヘッドジョークって何だろう?更に云えばスーパーゴールというよりもオウンゴールという気がしないでもないが、そこは云わずにおこう。
『やはり、歴史のある場所や由緒ある建物には、年月と云いますか、古い時間が場の記憶として積み重なっているのでしょうな』
一転、真面目な事を云いだす。
『雨がコンクリートに染み込んでゆくように場の記憶が土地や建物に染み込んでゆく。記憶と云うのはつまり、生きとし生けるものたちの想いですから、堆積した様々な時代の様々なものたちの想いが、その場に立って無心になる事で時を遡り流れ込んで来るのかも知れません』
『逆流した場の記憶が無心の心に浮かび上がってくる、と』
『ええ。私がお城巡りを続ける理由もそこにあります。日々の暮らしの中ではなかなか出会えない感覚、考え、想いを感じたい。まあ、そういう事です』
『ああ、それは少し判る気がします。私、小田原城は初めてですけど、今、とても新鮮な気分ですから』
同意する私に元教師の男は嬉しそうな表情をみせた。
『でしょう?こうして、歴史ある城の前に立ち、虚心坦懐の心で目を閉じる。すると、悠久の時間が心の中に流れ込んで来るような気がするです』
元教師は穏やかな表情で静かに目を閉じた。私は彼が目を開けるまで黙って待つ事にした。ほどなく、その二つの瞼が音もなく開かれた。何かしら心に浮かび上がるものがあったのだろうか?
『どうです?』
元教師は微笑みながら頷き、おずおずと口を開き始めた。
『小田原城を……』
積み重なった時間の想いは初老の男の虚心坦懐の心にいったい何をもたらしたのか。私は黙って言葉の続きを待った。すると……
『小田原城を片仮名にしてオダワラジョーと書くと……オダギリジョーとちょっと似てる』
……えっ?
『心に浮かんだ事って、それですか?』
これには北条時宗もびっくりだろう。完全に拍子抜けした私に、諭すような口振りで彼が云う。
『あなた、贅沢を云っちゃあいけません。釣りで考えてごらんなさい』
『はあ、釣りですか…』
『真鯛や平目の立派なやつが五分おきに必ず釣れるような釣りはつまらないでしょう?釣り糸を垂らしてひたすら待ち続ける。やっと掛かったと思ったら腐りかけた海藻とか長靴だったりする。それを経るからこそ大物を釣り上げた時の喜びが大きくなる』
『つまり、今回は長靴だったと』
『いや、ちょっといい長靴です。側面に稲妻がデザインされているような』
それは良く判らないけれども、まあ、いいか。
『それと、とても大切な事なのですが、これはやはり、小田原城だからこそ思いついたネタだと思うのです。これまでの人生で小田原城とオダギリジョーさんを結びつけて考えた事など一度もありませんでしたから』
『確かに。それは私も同じです。小田原城に来たからこそ得られた経験と云えるのかも知れません』
元教師は満足そうに頷いた後、帽子をかぶり直して云った。
『兎にも角にも、これで小田原城を無事クリアする事が出来ました』
ライフワークとも云うべき人生のパズルが、また一ピースはまったのだ。さぞかし嬉しいに違いない。ここは素直に称賛するべきだろう。
『おめでとうございます。全城制覇へまた一歩近づきましたね』
『有り難うございます。あなたと話せたお陰でとても楽しい時間を過ごせました。こういう一期一会もお城巡りの醍醐味の一つです。では、私はこれで……』
立ち去ろうとする老人の背中に声をかける。
『時に、次はどちらのお城を目指すおつもりですか?』
老人は振り返って『そうですね……姫路城あたり……ですかな』と云うと、再び頭を下げ去って行った。
姫路城は三回目では?もしかすると彼は、仮面ライダースナックなどでオマケの怪人ガードがやたらとダブってしまう、そういうタイプの人間かも知れない。何となくそんな事を思った。いずれにしても、全城制覇はどうやらまだまだ先の話になりそうだ。
私たちが過ごしたこの取るに足らない時間も、一つの歴史としてこの場所に染み込んでゆくのだろうか?そうしていつか、小田原城の前に佇む未来の誰か、その虚心坦懐の心に何かをもたらしたりするのだろうか?遠い未来の誰かが小田原城の前に立った時、ふいに『オダワラジョーとオダギリジョーは少し似ている』事に気づいたとしたら、それは、私たちの今の会話が年月を経て染み出して来たものかも知れない。そう考えると少し楽しい。
相変わらずの五月晴れ。日もだいぶ延びた爽やかな空を見上げながら、私は軽く呟いていた。
『そうか、同じ動物を二度はダメなのか……』
〜終わり〜。
あああーーそうだったあーーー!10周年!!\(◎o◎)/
いやあ…年明けぐらいは、もうすぐ10周年だなあ〜と若干意識してたんだけど、いざ、その時になったら完全に忘れてるっていう(笑)(泣)(/▽\)♪
いやいや、昔から変わらず本当にありがとう♪
やっぱり自分ひとりだったらここまで続けて来られなかっただろうと思うのさ♪m(__)m
世間とは違う時間の流れ、リズム、テンポを造り出していきたいという気持ちはずっと持ってやってるから、そう言って貰えるのは非常に嬉しい♪ρ( ^o^)b_♪♪
これからもまた、心の小旅行みたいな時間と空間を築いていけたら良いなと思っとります♪>゜)))彡
あ、いいね〜、そのキャスティング♪|^▽^)ノ
谷原さん、こういった地方の旅情ある風景似合いそうだし♪…あ、やっぱり浅見光彦のイメージが若干残ってるのかな♪(゜◇゜)ゞ(照) で、平泉成さん(笑)ヾ(*T▽T*)…いや、笑うとこじゃないんだけど、なんか可笑しくてさ…やっぱ、あの声だよね(笑) ああ、あの声で演じて欲しいなあー♪ 動物バトルのところとか絶対面白いゾヾ(*T▽T*) 谷原さんの真面目ハンサムとの対比も面白いし♪ 平泉さんを小野武彦さんにしても元教師っぽい感じが出ていいかも♪
と言うか…その動物対抗チキチキカードバトル、やってみたいぞ♪(゜◇゜)ゞ(笑) そのライオンズマンションのカードなんて滅茶イカしてるではないか(☆o☆) ライオンの目が菱形の白目なんてカッコ良すぎ!……とか思ってしまう私は、やっぱり厨2病なのか!?(汗)(゜ロ゜;
そう、パラレルだとまた少し展開になってるんだろうねえ♪物語を書くというのは、そういう無数のパラレルワールドを旅するという事でもあるだろうなあと改めて思った♪(-。-)y-~ スカッと晴れた抜けるような青空…風景ってやっぱり見るものの心を映すよね♪
初老の男・・平泉成 JAFの通販で買った折り畳める帽子、センタープレス入りのスラックス(アイボリー)、靴、ショルダーバッグ等を身に着けている。
↑そんなイメージ♪自分は松江城が印象に残ってる♪コンクリートとか使ってなくて400年前の姿がそのままで残っているところが素晴らしい!天守からは松江市街や宍道湖が一望できて殿様気分が味わえる♪入母屋破風の屋根が羽を広げたように見えるから別名「千鳥城」とも呼ばれ、白鷺城と対をなしているらしい〜♪♪
弟一回チキチキ動物対抗バトルは、カードバトル物で再現された♪ ライオンズマンションのカードが厨二病全開のデザインなの(笑)メタリックゴールド&レッド&ブラックの配色でライオンの目が白目の菱形(笑)で、ライオンのタテガミの毛の流れごとにラメ入り銀泊の角度を微妙に変えているっていうね♪♪
もし寒い天候のパティーンだったら・・私「いい景色ですよね、どちらからおいでになられたんですか?」初老の男「・・群馬です」私「わりと遠くからいらっしゃったんですね〜」初老の男「では、私はこれで・・」三寒四温の時期だから 、そんなパラレルワールドも十分アリエ〜ルエリエ〜ルなんじゃないかな♪隣接する世界なのにおじさんのテンションが全然違うところが悲しい(笑)
↑橙々色を帯びた優しい青空を想像した♪いいことがあった午後3時の空は、いつもそんな色をしている気がする。軽やかで澄んだ気持ちになれるいい文章だな〜♪世間ではあっという間に10年が流れてしまったけれど、この場所はいつもゆったりした時間が流れている☆この現象をトキノタイムと名付けよう(笑)三泊四日の小旅行をした気持ちになったもんな〜(^v^)
▽▲▽▲▽▲
▲ブログ開設▽
▽I 周年※▲
▲おめでとう ▽
▽▲▽▲▽▲
▽ ・・レモンイエローのヴィンテージタイル(イタリア製)
▲・・藍色のヴィンテージタイル(イタリア製)
↑TM様の迷宮回廊時代の壁紙の配色を参考にした(笑)そういえばTM様もピコ太郎みたいな豹柄のシャツ持ってたよねwwwたしかヴァイオリンのレコードの下に敷いてたwwwそれでブルーのカラコンしてたって聞いて、あの時代既にカラコンがあったのだなあ・・(詠嘆)と同時にhideみたいだ!!とまたもや大爆笑してしまったというwww
新年が自由で充実した一年になりますように♪♪ラッキーフードはジュージューカルビ、ラッキーハーブはタイムでキマリ!!(>▽<)b
新聞のラテ欄に乗っていた「オダギリジョー」の名が疲れて霞んだ目に一瞬「オダワラジョー」と映り、その瞬間、この話が出来上がったのでした♪ 疲れ目も悪い事ばかりではないな、と(笑)ヾ(*T▽T*)
小田原城の耐震改修工事は確か四月いっぱいまでで、五月イッピからオープンだったような記憶が……あ、でも、うろ覚えなのでちょっと自信ないです(汗)(/▽\)♪
改築後の小田原城、是非この瞬間を思い出して下さい♪きっと、そこから何かが始まる…… 鴨(o^-')b
たしかにオダギリジョーに似てる(笑)
大発見ですね( ☆∀☆)
小田原城
去年行ったら改築してて。
もう工事終わったかな。
でも今度行ったら絶対この話を思い出しちゃう
(*≧∀≦*)
一晩二晩で造って用が済んだら速効でバラすような城もあったしね〜♪ まあ、何にしてもお城には色んなものが染み付いていそうだ(/▽\)♪
(^_^;)
言えやしない、言えやしないよ……
まあ、更地の城跡はさすがに現存する城というよりは記念碑的な史跡として除くとしても結構な数の城が残っていますよね。その辺もちょっと考慮に入れて一応、公式資料を元に、千“以上”としてみました。(*^^*)
お城にまつわる怪談も、当たり前と云えばそうかも知れませんけど、日本のみならず結構ありますよね♪へ(^^へ)
道原かつみのジョーカーシリーズは名作ですよ。
江戸時代に藩が300〜400そこら有って、
そもそもその前の戦国時代に城は一国に出城とか山程有って、……などと考え出すと、完全更地状態な城跡なども入れたら果たして千で足りるのかな、と言う気もしないでは無いです。
城に纏わる怪談と言うと、私は姫路城の他には鳥取城、福山城、萩城、江戸城、松江城などの逸話がパッと思い浮かびます(西日本棲みですけに)。
※ 鳥取城と江戸城(の一部)と萩城の話は眠れなくなる可能性が高いので深夜にググっちゃダメですよ。
……郡山城の森山狐の話は健気可愛い(しかも集団モフモフな)だけだから、きっと怪談分類じゃない。←
実は、姫路城、一度も行った事ありません(汗)ヾ(・◇・)ノ…子供の頃、姫路城の天守閣にまつわる怪談を読んで以来ずっと気に掛かってはいるのだけど。
動物ゲームをやる際には同じ動物を二度言わないよう気をつけたいものです♪(←そんな機会はまず無いと思うけど)(笑)(゜ロ゜)
姫路セントラルパークに行ってからみにいこ
→おなじどうぶつはダメらしー
やっぱり何か自分の中だけでの決まり事みたいなものがあるんでしょう♪自分ルールみたいな(笑)(‘ー‘)/~~
ジョーカー待ちはちょっと格好良いかも♪
ちなみに、浄化待ちは格好悪い(゜ロ゜)
動物は二回言っちゃ駄目なのにお城はいいとか(笑)