話題:SS

顔のない顔をした男が不思議な顔で覗き込む一枚の鏡には不思議な顔で覗き込む男の顔のない顔がなく、代わりに一台の鳩時計が映っていました。

壁に掛けられた姿見の全身鏡以外には何もない、小さな色をした間取りの白い部屋です。

鏡と云う存在が鏡の前に存在する物を反転させつつ映し出す存在であるならば、男と鳩時計は反転した同一の存在と云う事になってしまいます。

そこで男は、今まで男だとばかり思っていた自分が実は男などではなく“自分の事を男だと思い込んでいる鳩時計”に過ぎない可能性について考え始めました。

男の頭の主観では男はやはり男でしたが、鏡の客観は男は鳩時計だと云っています。鏡の垂直な地平を挟んで対峙する男と鳩時計。男の頭と鏡は、どちらが存在を正しく伝えている存在なのでしょうか。

男は考え続けました。当然、鏡の中では鳩時計も同じ事を考え続けていました。

鳩時計は今まで自分の事を鳩時計だと思っていましたが、本当は“自分が鳩時計だと思い込んでいる男”なのではないか、と。

やがて迎えた午前0時。鏡の中の時計の針がピタリと重なり合った瞬間にトゥルットゥと鳩時計から飛び出したのは鳩ではなく男の顔でした。逆に顔のない男の顔からは鳩が飛び出していました。

そして、それぞれ勢いよく飛び出した鳩と男の顔が鏡面の境界線上でぶつかり合うと、その衝撃で鏡は粉々に砕け散ってしまったのです。

顔のない男は砕け散り、鳩時計もそれと一緒に砕け散りました。二つの存在が消えるのと同時に、粉々になり散らばっていた鏡の破片も消えてしまいました。

ところが、砕けた鏡の下にはまた別の鏡があったのです。

その鏡を顔のない女が覗き込んでいました。ですが、鏡の中に女の姿はありません。そこに映し出されていたのは、銃口を此方に向けた形で台座に固定された小型のベレッタピストルでした。

顔のない女は考え始めました。もしかしたら自分は、自分を女だと思い込んでいるだけの…。


ここは、壁に掛けられた姿見の全身鏡以外には何一つない、小さな色をした間取りの白い部屋です。

顔のない貴方の部屋です。


【おしまひ】。



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季節の変わり目はどうしてもシュールな物が欲しくなりますよね♪(*´∇`*)

―――そんなの君だけです。

今日の夕飯、おでんの竹輪の穴の部分と、入れ忘れた大根がとても美味です♪(*´∇`*)