話題:創作小説
ソイツは感慨深そうな声で言った。
『それにしても…あの時以来かぁ…なんか、つい昨日みたいな感じがしますよ…』
いや、だから“あの時”とは“どの時”なのだ?そして、“つい昨日”のようだというのは“いつ”を指すのか?俺としては、そこをハッキリさせて欲しいのだが…。
『ああ、俺も嬉しいよ。まさか、こんな形でまた会えるとはな』
そんな気持ちを隠して適当に話を合わせると、ソイツはとても嬉しそうな顔をした。
『いやいや本当に…。初めて会ったのが“ああいう形”で、再会が“こういう形”…不思議な何かの力が働いてるとしか思えませんよね』
“ああいう形”と“こういう形”の結び付きを“不思議な何かの力”をヒントに逆算すると…ダメだ。やはり、さっぱり判らん。
『で、例の人とはその後もまだ会ってるんですか?』
なんと!ここでまた新たな登場人物が!
しかも今度は“例の人”ときた…。またもや考え込む俺に、ソイツは少し同情するような顔をした。
『まあ、あんな事があった後ですから…なかなか“直ぐには”って部分はあるでしょうし』
お前は、いったい“どんな部分”の話をしているのだ?
『あ、そう言えば…彼女はどうしてます?』
彼女って…
ダレジョだ?
『ほら、彼女は彼女でア色々とまたアレだったじゃないですか。その絡みで結局、アノ人ともあんな感じになったし…まあ、何やかんやで結局最後はアレでしたけど』
“彼女”にも“アノ人”にも全く心当たりのない俺は、仕方なく、また適当に話を合わせる事にした。
『ああ、彼女は元気でやってるみたいだよ。アノ人もね。…もっとも、それもこれも全て“例の人”に聞いた話だから、本当かどうかは判らないけどね』
などと言ってみたは良いものの…俺は思っていた…“例の人”とは何処のどいつなのだ?
すると、ソイツは飲みかけていた水をブハァッ!と勢いよく口から吹いたのだった。
『ええーっ!“アノ人”の事、“例の人”に聞いたんですか!?…いや、それ本当だとしたら大変な事ですよ!うわ、怖いなあ〜』
ふむ。
どうやら、“例の人”に“アノ人”の事を尋ねるのは、かなりマズいらしい…。ここは何とかして取り繕わなければなるまい。
『いや、冗談さ。そんなの俺にも無理だよ』
すると、ソイツは明らかにホッとした顔で言った。
『ああ、良かった。もし、それが本当の話だったら何が何やら全くワケ判らなくなりますからね〜』
そうか。…まあ、俺は既に十分ワケ判らんが。
『…という感じで、アレからの事は正直よく判らないんだ』
『いやいや、それは仕方ないです…何たって、手にしたモノがモノだけに、おいそれと“はい、そうですか”という訳には誰もいかないだろうし…』
……。
ますます判らん。いったい“誰が何処で何を”手にしたというのだ?
そして“誰が誰に対してどんな理由で”、“はい、そうですか”とは言えないのだ?
謎はますます深まるばかりだったが、今さら、“何がどうなってるのか実は判らないので教えてください”とは言えなかった。
素直に最初に名前を聞いておけば良かったのに…君はそう思うだろうが…そこはそれ、つまりはアレだ、俺にはそれは無理な相談なのだ。今この話を読んでいる君なら、俺のソノ辺の心情を宜しく理解して貰えるだろうと思う。
『とまあ、そんな具合なんだ』
『判ります!』
俺は判らん。
『それは嬉しいな』
『確かに、あの時は事情が事情でしたから…アッチからもソッチからもコッチからも…みたいなところがあったし。その気持ちも何か判る気がします』
俺にも判らない俺の気持ちを誰だか判らないお前が判るとは大したもんだ。
《続きは追記に》。
俺が感心し始めたその時、ソイツの携帯がピロロン♪と鳴った。
『あ、スミマセン。ちょっとアレしていいですか?』
これは判る。つまり、“電話に出て良いか”という事だろう。
『ああ、もちろん構わないよ』
俺が言うと、ソイツは申し訳なさそうに少し潜めた声で電話に話し始めた。
『あ、どうも…峰岸です』
何っ!?
峰岸だと!?
俺の心に希望の炎が燃え上がった。しかし…
『…なぁんて冗談ですよ。峰岸は今日はずっとアチラでして。で、その節はアレやコレやで何かとお世話になりました。はい、もちろん、それはそのように…はい、いつも通りな感じで…まあ、アノ人はいつもあんな感じなのでアレですけど、ソノような事はアレですのでソノ点に関しては、コチラの方でしっかりとアレしてアレしてアレさせて頂きますんで…え?アチラからそんな事を言われたと?…う〜ん…ソレはコチラやソチラというよりアチラ側のアレのような……ああ…なるほど、ソレはそうですね。判りました、自分、今からすぐアレしますんで、はい、はい…では、ソノような感じで宜しくどうぞ〜』
ガチャリ。通話を終えたソイツは、俺に向かって手を合わせながら言った。
『という事情なんで…スミマセン、ちょっと戻らなきゃならなくなりました。相変わらずこんな感じの毎日で…あ、注文したアレ…どうしよう』
この店は客の注文を受けてからアレするので、どうしてもアレなのだ。
『いいよ、ソレも俺がアレしとくから』
『ああ、そのアレなところ…本当に会えて良かったっす。それじゃ、また何処かでお会いしましょう。失礼しま〜す』
そう言い残して、ソイツは店を出て行った。
結局、アイツが何処のどいつで俺と何時何処で知り合い、どういう関係なのか、その謎は全て謎のまま残ったのだった。
名前に関しては名刺の一枚も貰えば済む話なのだが、ソコはそれ、俺的にやっぱりソレはアレなのだ。
ただ、アイツが連絡先を残していかなかった事を考えると、どの道、俺たちの関係は元々大したモノではないのだろう。
また何処かでばったり出会ったら、その時はまたその時で、ああしてこうしてああするさ…。
むしろ謎が解かれなかった事に俺がちょっとアレ的な満足感を覚え始めた時、マスターが“いつものやつ”を運んできたのだった。
『アレ、お連れの方は?』
マスターがテーブルの上に“いつものやつ”とアイツが注文したソレを置きながら言う。
『ああ、アイツは何かちょっとアレみたいで先に帰ったよ』
俺の答えに、マスターがニヤリと笑う。
『やっぱり、アノ人もアッチ関係の方なんですか?』
マスターの妙な勘ぐりを俺は慌てて否定した。
『違う違う。証券取引法違反みたいなアレは一切ないから』
しかし、マスターはまだアレを疑っているようだ。そこで俺は話題を変える事にした。
『あ、そう言えばマスター…あの話はあれからどうなったんだい?』
俺の問い掛けに、一瞬口黙るマスター。そして、明らかに歯切れの悪い口調でこう言った。
『ああ…あの話ね。いや、お陰様でナンとかカンとか…』
俺は直ぐにピーンときた。マスターは“あの話”が“どの話”なのか判っていないのだ。にも関わらず、ソレを隠して何とか俺に話を合わせようとしている…。
ソレならば…
俺の悪戯心がむくむくとアレしてくる。
ソレならば…
マスターが何処まで俺に話を合わせられるか、ちょっと遊んでみるのも面白い。
その為には、出来るだけ具体的な名詞を出すのは避けて、そう、全て代名詞で話をするのだ。
そんな事を考えながら、俺はテーブルの上に置かれている“店のアレ”をじっと見つめたのだった…。
“店のソレ”に味わいの深いフォントで書かれているコノ店の名前は…【It is that】。
それはつまり、【それはあれである】というものだった。
《終了的なアレ》。
という事で、約3年振りとなる【幻の前衛文学】第2弾をお届けした訳ですが…
考えてみれば、第1弾となる【幻の前衛文学】『ぷ』を 読んだ事がないという方も大勢いらっしゃると思います。
そこで、もしリクエストがあれば、その【幻の前衛文学】『ぷ』を加筆修正して改訂版アーカイブとして再掲載したいと考えておりますので、“ちょっと読んでみたい”という方は気軽にコメントでお申し付け下さいませ。(o^∀^o)
わわっ!
なんでココにコンナ物が!
あ、アイツが持って来たんだな!
ま、いいや…アレしときますわ
で…
ナヌっ? アノ話がソンナ展開に!? それは早速アレしなければ!
ああ、ありますねぇ
具体的に内容を想像してみると 怪しい事この上ない
確かに確かに
英文は代名詞を多用する傾向があるような気がしま
確かにお年寄り同士とか夫婦、仲間内なんかではよく『アレコレソレ』みたいな代名詞のオンパレードありますよねぇ
この話は 片方だけが内容を理解していて、もう片方にも読者にも全く判らないという…言わばシーンは見えるのに話は見えないという、ちょっとモヤモヤする実験的なのでした
トキノさん、あんなところにそんなものがぁ〜
そういえば…
アレがああなって、こうなったので、ヨロシク
…何の話だ
とか、
この英文を訳せ
ビルは隣人のアレをコレでナニして・・
怪しすぎる(笑)
よくご年配にょカタにょ話によくよく登場ちゅるアレにソレ
アレがああだからソレがこう
コハルにわまったく理解不能れもまちゃにわかりえる仲にょ人にわ解るおちょるべちアレソレれちゅニャリンよんアレソレ
れも結局誰かもわからにゃいままに謎をのこちて終わりまちたれちゅニャリンからぁコハル気ににゃてぇ気ににゃてぇ
今夜わ寝れるかちらん
ありがとうございます
一応、『話はちゃんと進みながらも、話されている事の具合像は全く見えない』というテクスト上の実験なのですけど…【前衛】と銘打った以上もっと大胆に進めても良かったかも
という事で こちらこそ宜しくお願いします\(^ー^)/
はて 何の事やら?
………
これからもチェック宜しく(絶対またやらかすから)
出てきたときの
わくわく感も
すっかり消え失せる
ようにお話を終える
トキノさんって
やっぱりすごい(^w^)
今日から3月
春が待ち遠しい私
ですが(^。^;)
今月もどうぞ
よろしくお願いします
(^w^)
前編?
これも不思議なポケットの仕業かしら