話題:妄想を語ろう


知る人も知らないと云われる幻の禅寺が日本の某所にある。

寺の名は凸凹寺と云うらしいが、何宗の系統なのかは寺の住職ですら知らないらしい。

さて、その凸凹寺の石庭を臨む一室、板張りの廊下に、何やら神妙な面持ちで座禅を組む五人の男女の姿がある。

この五人こそ、自薦他薦問わず、日本中から集められた[今年のだらしない人たち]であった。


《禅日本 だらしない人選手権》

毎年十二月、密やかに行われる此の伝統的な祭事の意味と目的は、先ず第一に‥座禅を組んで、己のだらしなさを反省してもらう事。そして第二に‥その年で“最もだらしなかった人間”を決める事と、そのような物であった。

座禅を組む五人の背後には、十人の禅僧が警策(きょうさく‥俗に云う叩き棒)を手に無表情で立っている。

この十人の禅僧が審査員となり【最優秀だらしな大賞】を決定するのである。

因みに、各僧侶はそれぞれ十ポイントを所持しており、ポイントの範囲内で候補者に対し警策を打つ事が出来る。

よって、最高得点は【10ポイント × 10人 =100ポイント】となる。

これは、モノマネ番組の採点システムを思い出して頂ければ、これ以上の説明は、ひたすらにやぶさかであろう。


開催時刻が近づくにつれ、凸凹寺に流れる空気はいよいよ張りつめたものとなっていた。

寒い冬の石庭には、審査員の資格をまだ持てない下僧たちが、候補者と同じように座禅を組みながら祭事の開始を待ち続けている。

その数、およそ八百人…流石に、この人数では石庭に納まり切らないので、ピラミッド体操の形で詰めている。

座禅を組みながらのピラミッド体操…この一事を持ってしても、この凸凹寺が【幻の禅寺】と呼ばれる所以が理解出来るであろう。

因みに…シルク・ド・ソレイユを立ち上げた人物は、実は、この禅寺の出身者であったと云う噂もある。

さて、寺の説明はこの辺りで切り上げるとして…いよいよ、《禅日本 だらしない人選手権》の幕開けである。

総合司会は勿論、凸凹寺の住職であり、禅を極めた名僧中の名僧と謂われる大和尚【滝音】(タキオン)だ。

そして、廊下に置かれた壊れかけのトランジスタラヂオから、スジャータが午前10時をお知らせすると共に、ついに《禅日本 だらしない人選手権》が開始されたのであった‥。