話題:妄想を語ろう
平日の朝の駅のホームは、いつも同じ顔をしている。
眠たそうな学生や、疲れの抜け切らない顔をした会社員etc.etc.
かく云う私も、その内の一人で‥今もこうして、会社へと向かう電車を寝ぼけ顔で待っている。
昨夜の帰宅が午前1時。それが、朝の7時には、こうして駅のホームに並んでいるのだから‥
やはり私は、典型的な真面目人間なのだろう。
真面目人間。久し振りに思い出した言葉に、内心苦笑いしていると‥
「間もなく、一番線に上り快速列車が到着しま―す」
聞き慣れたアナウンスが流れたかと思うと、ほとんど間を置かずに、いつもの通勤快速がホームに到着した。
デジャヴでも何でもない変わり映えしない朝の光景。
今日もまた、いつもと同じ1日が始まったのだ。
ところが‥
半ば機械的に列車に乗り込もうとした時、不意に私は奇妙な感覚に襲われたのだった。
それは、ふわっと体が宙に浮くような感覚と、逆に体が落下して行く感覚を同時に合わせ持つ不思議なものであった。
そのせいで、乗車口の前で一瞬立ち止まる形になった私は、後ろから次々と乗り込んで来る乗客たちに押しのけられる格好になり、瞬く間にドアの前から弾き出されてしまった。
何とか列車に乗り込もうと身を乗り出すも、何故か体に力が入らず、ただの一歩が容易に踏み出せない。
そのくせ、体自体はやけに軽く感じる。私は焦りながらも妙に落ち着いていると云う、何とも説明し難いおかしな感覚をその瞬間感じていた。
ホームの端に立つ駅員が、怪訝そうな目で私を見つめている。
(アンタ‥乗るの?乗らないの?)
駅員の無言の顔は、私にそう語りかけていた。
乗ります!
乗ります!
心の中で小さく叫ぶ。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に、私の体はピクリとも動こうとはしなかった。
やがて、駅員が呆れ顔で首を振ると、乗降口のドアはピーシャッと冷徹な音をたてて閉まり、鈍い車輪の回転音を響かせながら、列車はゆっくりと走りだした。
遠ざかる列車を見送る朝のホームには、結局、私ただ一人だけがポツンと取り残されていた。
今の今まで人で溢れていたホームに突如として訪れた、デッドスポットのような無人の瞬間。
ようやく体が動かせるようになった私は、仕方なく、ホームに備え付けの簡素なベンチに腰掛けて次の列車を待つ事にした。
そう言えば昔、似たような場面を何かの小説で読んだ事がある。
あの主人公は確か、ついぞ乗った事のない下り列車に乗り換えて、今まで見た事のない新しい風景を探しに行くのだっけ…。
しかし、現実と小説は違う。だからこそ、小説の価値があるのだけども…残念ながら私には、小説の主人公のような勇気はない。
ちょっとしたハプニングがあろうとも、こうして次の列車を待ち、また普通の1日に戻って行くのだ。
それにしても‥
通勤ラッシュの時間帯だ。次の列車は数分とおかずに到着するだろうと思っていたのだが、不思議と列車が来る気配が全く感じられない。
《続きは追記ページに》
2011-10-23 19:20
見知らぬ朝の通勤列車。
そればかりか、ホームには私以外の人間が誰一人として居ない。
これは少し変だ。
見れば、つい今し方まで明るい声で新聞やらジュースを売っていたキオスクのオバサンの姿まで見えなくなっている。
云いようのない不安が私を包み込んでいた。
しかし、此処を動くわけにはいかない。
私は、ベンチで一人うつむきながら、さほど興味もない携帯の天気予報を眺め、気を紛らわせつつ次の列車を待ち続けた。
ところが‥
二十分が過ぎても、列車は来ない。
このままでは遅刻してしまう。いや、もう既にギリギリかも知れない。
朝一番で重要な会議があると云うのに‥。
私は取り敢えず、会社へ電話して、もしかしたら少し遅れるかも知れない旨を伝えておこうと考えた。
短縮ダイヤルを指先で軽く押す‥。
『はい、三笠商事でございます』
あ、すみません。営業二課の鈴木守‥
『営業二課の鈴木守ですね。はい、先ほど出社されております。ただ今お繋ぎ致しますので、このまま少々お待ちください』
えっ!?
電話からは、【エリーゼの為に】の電子メロディが流れ出していた。
えっ!?
営業二課の鈴木守は、私だぞ!今此処に居る私が会社に居る訳ないだろう!
だが…
『はい、お電話代わりました。営業二課の鈴木ですが‥‥もしもし?』
その声は紛れもなく、私のものだった。
私は思わず電話を切っていた。
どういう事だろう。
まさか、私が二人いるとでもいうのか?
その時だった。
「間もなく、一番線に各駅停車の上り列車が到着しまーす」
アナウンスと同時に、列車がホームに到着した。
おや?
この車両は確か、一昨年から使われなくなった旧車両だったはず‥いや、本数が減らされただけか‥。
少々混乱したまま、反射的に開いたドアから飛び乗ると、列車の中は疎らに人が座っているだけで、殆どガラガラと云って良い状態だった。
この時間に、こんなにも空いてる列車があるとは‥。
深緑色のシートに座ると、徐々に気持ちが落ち着いてくるのが判った。
列車の中、私は少し硬い座席の上で揺られながら、電話に出た“もう一人の自分”について考えを巡らせ始めた‥。
あの、ふわっと風が吹いて体が動かなくなった瞬間‥
もしかしたら、もう一人の私が、体から抜け出し列車に飛び乗ったのではないだろうか?
もう一人の私は、どんなに疲れていようとも、会社に向かおうとする私。
そして、無意識に出社を拒否した私が、今ここに残っている私。
いや、まさか‥
馬鹿馬鹿しい!
私は考えるのを止め、目を閉じたまま列車に揺られ続けた。
列車は特に変わった様子もなく目的の駅へと到着し、私もいつも通りに改札を抜け、会社へと歩いた。
本社ビルの正面玄関を潜る時に腕時計を確認すると、案の定、会議の開始時刻を十五分ほど回っていた。
遅刻か‥。
上司たちの冷たい視線を想像して、私は少し憂鬱な気持ちになった。
それで、申し訳なさそうに身を縮めながら会議室のドアを二度ノックした後、おずおずと開けると‥そこには、ちょっと意外な光景が広がっていた。
会議室にいる皆が、それぞれ勝手にお茶を飲んだり新聞を読んだり、やけにリラックスした雰囲気で過ごしていたのだ。
いつものピリピリと張り詰めた空気とは明らかに何かが違っている。
『やあ、鈴木くん。風邪でもひいて、寝込んでるのかと思っちゃったよ♪』
笑いながら声を掛けて来たのは、直属の上司にあたる営業二課長の西岡だった。
すみません。なんか列車遅れたみたいで‥。
『まあまあ、いいさ。元気ならいいのよ』
ユルい空気の会議室に入りながら、私は思っていた‥。
もしかしたら‥
今この会議室にいる課長や他の出席者たちも、私と同じように、それぞれの体から抜け出した、云わば“分身”なのではないだろうか?
いつ、どのタイミングで抜け出したのかは判らないが‥私と同じ、あのガラガラの各駅停車に乗って、それまでよりは少しユルいこの世界に辿り着いた。
いや、それは逆で、分身に抜け出られた“脱け殻”が流れ着いたと云うべきか。
だとすれば‥
分身たちは、今どこか別の世界で、昨日までのようにピリピリした空気の中で会議を続けているに違いない。
いや、待てよ‥
考えてみれば、この私だって、別の自分から飛び出した“分身”に過ぎないかも知れない。
何だか考えれば考えれる程、余計に判らなくなってくる。
ただ一つだけ、ハッキリしているのは‥
どちらにしても、これからは、この世界で頑張って行くしかなさそうだ、と云う事だろう…。
私は、椅子にゆっくりと腰を下ろすと、テーブルの上に何故か置かれているクラムチャウダースープの白いカップにそっと手を伸ばしたのだった…。
《終わり》。
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いやいやいや
それ、意外と核心をついてると思うよ
パラレルワールドの鍵は 一人一人の心の中にあるんだと 私も思う
そう
世界の命運を握る鍵、世界ジクゾーパズルのピースは 我々みなが一つずつ持っているに違いないのだ
で…
板塀 裸電球 電信柱の 西洋辻斬りは…完全に梶井パラレルワールドの中の私像ですから――
あの時代のサラリーマンの姿も含めて‥サザエさんの世界だった
車もマイカーなんて言って(笑)‥だんだん 一家に一台 持つようになって来てさ
今から思うと 凄く不思議な時代だったけど、確かに 現代のような閉塞した悲しみは 感じられなかった気がする
PKディック!
ああ、【地図にない町】って読んだかなあ〜‥なんか 読んだ気がするなあ〜‥うう…覚えてない
なんかまた久し振りにディック 読みたくなってきた
で…
駅員や携帯の天気予報の部分‥いいとこ見てるなあ〜
この手のテイストの話は、ストーリー全体が不思議だから こういう細かいところの描写(心理的なもの含め)は逆に写実的にいった方が、より話全体にリアリティを与えられだろうと思って
いやいや、若いってのは嬉しいな
肉体が衰えるのは仕方ないけど、気持ちは別だからね(って絵文字は思いっきり衰えてる)
なんかディックの地図にはない町思い出した(*´∀`*)
現代の勤め人がもつ透き通ったあおい悲しみにスゴク共感できるなあ‥【アンタ‥乗るの?乗らないの?】いるいる!こーゆ駅員さんカタカナ表記のアンタがメチャリアルさほど興味のない携帯の天気予報を眺めつつ‥ここもすげぇリアルさりげなくかかれているけれど‥
その昔板塀裸電球のついてる電信柱舗装されてない土の道でひとり黙々とフェンシングの練習をしていたひとが書いたとはとても思えないんですけど
【もう岳(がく‥椎名誠の息子さん)の髪を切らせてもらえないんだな‥と思いつつ素麺の残り汁を流しに捨てた】みたいなおっさん臭さ(あ、椎名誠さんは好きです)が全然滲みでてねぇいや―、今更だけど様の若々しさに感動したッ向井理が書いたって言われたら信じちゃうぐらい
盾フ勤め人の通勤風景はどうだったんだろう‥高度経済成長期テレビ冷蔵庫洗濯機憧れのハワイ旅行終身雇用に年功序列制
幸せって何だっけ‥?
それはクラムチャイダースープの味なのさ♪
この物語は新聞に載ったらいいのになって切実に思った今の世の中は余裕がなくてピリピリしてる‥思いやりが不足しがち‥世の中がどんどん先に進んでいくついてこれない者はおいてけぼり‥
もしこの物語が新聞に載ったら【あれ‥このままの世の中でいいのかな?】って思うひとがいっぱい出てくると思う社会って大勢のひとのこころが集まってできてるから【そういえば、最近ギスギスしてるかも】【もう少しゆっくりと、丁寧に生きてみたい】
って思い出すひとびとが増えてきて実際に世の中が少し変わっちゃうかもしれない
そんなもうひとつのパラレルワールドを想像してみたり‥
梶井が普通な世界
梶井がやさしい(笑)世界
おお世界がしょ〜もないレベルで変わったぜヽ(≧∇≦)ノ゙
でも、親切なんてや〜めた(・_・)ってなったらまた、元に戻る訳で‥
‥となると、ダック
パラレルワールドの切り替えはひとのこころがカギを握っているのかも
なんかドキドキしてきたぜo(〇)o゙
そうですねぇ
パラレル世界の自分…私も会ってみたいです
いや…こっそり覗くぐらいの方が 良いのかも知れませんけど
いえいえ…私も己の未熟さを常に感じながら生きております
ちょっとね、ナンセンスさをセーブして、割と写実に近い感じで現代小説ふうに書いてみた
たまには、こういう落ち着いた感じもいいかも知れない
そうだねぇ…
私はそこまで飲んだくれた事ないけど…もしかしたらパラレルな感覚に陥ったりするのかも
パラレルワールドですな
ふと、私も別の世界に訪れてみたいと思う時が有ります
と云うより
まだまだ違う自身に出会ってみたいと思うのです
更に云えば…
私しゃ、好まない方々に果てし無くイヤな態度、近寄るなオーラを後光の如く発するのです
まだまだ、未熟な自分が情けなっている次第です
なるほどぉ〜
うんっ!うんっ!
心もとない不安な心持ちになりながらもっ
人間らしい世界だなぁ〜…
そんな世界で生きてゆきたいねっ
でもっ、みぃうは、現実の満員電車に詰め込まれて、ピリピリした会社に真面目に通う側だなっ
多分…現実以外は不安っ
ふと、アルコールいっぱい飲む人って…
こうゆう感覚味わっているのかな?と思っちゃったっ
そのトリップは
‥私にも経験があります
それはそうと
不思議空間と云って頂けるのは非常に嬉しいです
ありがとうございます
ああ
不思議感覚を味わって貰えたなら、とても嬉しいです
やっぱり
自分がいま存在する世界とは少しだけ異なる世界が すぐ隣にあるような不思議な感覚が
日常のふとした瞬間に訪れる事…
あるような気がします
ありがとうございます
ふと、こういうちょっと不思議な感覚になる時‥
ありますよねぇ
別次元旅行
そう言って貰えると非常に嬉しいです
ありがとう
やっぱり‥もーりーさんって何か大きな力に守られているような気がします
で‥今回の場合はほぼ同じ世界だから、何となく自然に受け入れられたのでしょう
南方先生の場合は‥信じられないぐらい大変だと思います
まさか、そう来るとは!
ああ 残念
キテレツくんの第3巻24ページは‥来年の昨日のラッキーアイテムなのでした
なんと
そのお話…真に迫って伝わって来ました
間違いなく本当の話かと‥
あの時代の証券マンと云えば‥一分一秒を争う生き馬の目を抜く世界でしたから(今もそうでしょうけど)、精神の張り詰め方は恐らく半端なものではなかったと思います
バブル崩壊…退職
精密機械のような生活…ゆとりのある暮らしぶり
う〜ん
もしかしたら、その時…本当に何かが少し変わったのかも知れません
なんか不思議です
ね
ありますよね
ふとした瞬間に、なんだかすぐ隣に別の世界があるようなそんな感覚に襲われる事
トイレ‥判るような気がします
私も‥トイレから出る時なのですけど‥出たら別の世界になっているんじゃないかって思った事、幾度となくありますから
忍者ハットリくん第3巻の24ページはですね……
今度調べてきま〜す
自分の家でお昼ご飯食べた後 気がつくと時間がたっているとぐある
異次元旅行をしているらしい
異次元空間をワプちて会社に出勤ちたトキノ伯爵
きっと真面目れぇ責任感にょちゅよいトキノ伯爵にょ気持ちがちょんにゃ異次元空間ワプをカノウシマイにちたに違いありまちぇん
ちょっと不思議にゃお話今夜も天才紳士トキノ伯爵にょチュテキワルドをタップリ堪能いたちまちたん
何か
分かる気がする
別の次元にもう一つの世界、あると本当に思えてしまうお話でした。
でもJINの南方先生のように苦悩せず、あっさり引き受けて生きることを生きるのは、時代が同じだからかなあ(*^o^*)なんて思ったりして、それもまた面白いかもとワクワクしましたよ。
身体が動かないとき何度となくことをし損ねるとき…
そんなときは私、手を止め、あっさりとそれを止めることにしてるんです。
そしたら、本当に何か、あるんです。
それをしないで良かったと思えるようなことが(^_^;)
でもまだ別の電車のお迎えはこないです(笑)
なるほど
そういうことでしたか
ブタゴリラがキテレツ君に・・
あっ、これキテレツ君だっ!
私の叔父の話です
叔父は証券会社に勤めていて時計の様に几帳面で真面目を絵に描いた様な人物なんです
あまり冗談も通じず会話するのもチョット気を使うほどなんですが…
そんな叔父が激務続きのある日、帰宅の電車を待っていたそうなんです
すると体がふらつき意識が遠くなっていくのを感じたそうなんです
はっとして気付くと自分が倒れている状況を自分が見ていたそうで…
大事には至らなかったのですが真面目で堅物な叔父が真剣に言っていたので私的には
ホゥ〜
と云う感じで聞いていたのですが…
もしかしたらこのお話の様に違う時間軸でそれぞれがそれぞれの生活をしているのかもと思ったりして
で…ですね
オチなんですけど
ある程度の地位に付いていたのですがバブル崩壊後会社を依願退職しまして…
その後今に至るのですが時間を気にせず悠々自適な生活を送っているんです
こんばんは(^-^*)/
これまたトキノさんならではの、ミラクルな世界へご一緒させていただきました
こういう世界って、本当はあるんじゃないかって、想像が膨らんじゃいます
子供の頃、トイレのドアを開けたら別世界に行ってしまうかもしれないと、いつも勝手に緊張してました
ところで
忍者ハットリくん第3巻の24ページに何が書いてあるのか、すごく気になるんですけど