話題:妄想話


以前に、『無人島に流れ着く妄想をたまにする』といった話をした事がありましたが…実は、その話には少しばかり続きがあるのです

不慮の出来事により無人島に漂着した私は、先ず『何という事だ!無人島に流れ着いてしまった!』とショックを受け、しばし絶望的な気分に陥ります。

…もっとも、島に流れ着いた時点で“そこが無人島である”などと判るはずは無いのですが、そこはまあ、どうでも良いのです。砂浜に《無人島》と書かれた看板が立っていた事にでもしておきましょう。

そして、いつまでもショックを受けている訳にもいかないので、取り敢えず、島内の探索を開始します。救助を待つにしても、その間、この無人島で何とか生き延びなければなりません。その為に必要となるのは何と言っても水と食糧です。

そこで、水と食糧を求めて、漂着した海岸から無人島の中央を占める山の中へと移動します。変な動物や虫、食人花などに遭遇しない事を祈りながら、山の奥へと進むのです。

すると、小川を発見。小川と言っても人間の小川さんではありません。小さな川です。そして川の中に微生物的な生き物が居るのを見つけ、それが清流である事を確信します。どうやら、飲料水は何とか確保出来たもよう。取り敢えずホッと一息つきます。調子にのってメダカの学校も探しますが、残念ながら、それは見つかりません。

さて、次は食糧。食べられそうな果実のなる木を探し、鬱蒼と茂る森の中を山頂を目指しながら進んでゆきます。

すると…森がぽっかりと口を開けている不自然な場所に出ます。そこには見るからに妖しげな異形の建造物が!いつの時代に建てられたとも知れない遺跡のような石造りの建物。朽ちかけてはいるものの、どうやらそれは寺院であるらしい。

無人島に存在する廃墟と化した謎の寺院。妄想的観点からして此処を素通りする訳にはいかないので、当然、寺院の中に足を踏み入れます。辺りに立ち込めるかびの生えたような古い匂い。入り口の扉から続く通路の両側には動物とも人ともつかない異形の石像が立ち並んでいます。

すわ!邪教の寺院か!

もしかしたら私はトンデモない場所に足を踏み入れてしまったのかも知れない……。などと少し青ざめながらも、ここで立ち去ると妄想も終了してしまうので、先を進みます。

明かり取りの窓から差し込む太陽光のお蔭では寺院内はそこそこ明るく、探索に苦労はありません。因みに、入り口の扉は最初から開いている事にします。閉まっていても良いのですが、そうなると、閉ざされている扉を開ける為の謎解きが必要となり、妄想に使うカロリーが一気に跳ね上がってしまいます。気力と体力が十分でない時は、入り口の扉は初めから開いている事にしておいた方が無難でしょう。

妄想のスタミナが足りていれば、隠し部屋を見つけるなど寺院内でのイベントを増やすなど更に妄想を膨らませる事も可能ですが、ここは一先ず中途を割愛し、妄想の最終段階に進みましょう。


やがて私は、廃墟の寺院にはまるで似つかわしくない物体を発見します。

その物体の正体…。

それは、周辺の大気中に存在する分子と物体内に保存されている特殊な分子を使ってありとあらゆる料理を作り出す、神秘の古代機械なのです。

判り易いイメージで言いましょう。

目の前に扉の閉まった電子レンジがあるとします。中には何も入っていません。その電子レンジに向かって食べたい料理の名前―例えばオムライス―と言います。すると、レンジが作動。チーンという音と共に扉が開き、中からオムライスが出てくるという。つまり、機械に向かって料理の名前を言うだけでその料理が出現するのです。勿論、それは実際に食べられる本物の料理です。

とにもかくにも、これにて食糧の心配もなくなりました。無人島から脱出するのに何年、いや、何十年かかるのか判りませんが、水と食糧さえあれば何とかなるかも知れません。絶望的な状況に、一条の光が差し込みます。勿論それはヨード卵光ではなくて希望の光です。

ところが、喜びも束の間、この古代機械には一つ大きな問題が…製造されてから相当な年月を経ているせいで、機能が十分に働かなくなっているのです。具体的に言いますと…『現在、調理可能な料理は一種類のみに限定されている』…という事です。

古代機械に向かって私が何かしら料理の名前を告げます。例えば、幕の内弁当と。すると、この機械はそれ以降、幕の内弁当しか作れなくなってしまう。

無人島から無事に脱出するまでの間…もしかしたら数十年という時間を、私は一種類の料理のみで過ごさなければならない。これは由々しき事態です。もっとも、無人島に流れ着いた時点で既に由々し過ぎる事態な訳ですが、まあ、そこは良いでしょう。とにかく、私は“その一種類の料理”を決めなければならない状況になりました。

そして、実はそれこそが今回の妄想の核なのです。

『もしも、この先数十年、一種類の料理しか食べられないとしたら…果たして私は何を選ぶのだろうか?』

カレーライスか寿司か、はたまた、定食類か…。下手をすれば、一生、それだけを食べて過ごす事になるのです。これは悩みます。

私は何度となく妄想の中でこの事を考え続けましたが、いまだに結論は出ていません。何故なら…大体この妄想は夜ベッドの中でするのですが…考えている内に眠ってしまうからです。

もしも、この先、一つの料理しか食べられないとしたら…皆さんは何の料理を選ぶのでしょうか?

それがこの妄想の終着点です。

考えてみれば、そこが無人島である事や、廃墟と化した謎の寺院が登場する必然性はまるでないのですが…そこは妄想なので、特に問題はないでしょう。単なるオプションです。


【終わり】


余談……スマホは相変わらず不調なりf(^_^)