話題:だめだ、こりゃ


「今ちょっと読んでる本があるんだけど、これがなかなか凄いんだよ」

「へぇ、そうなんだ…ジャンルは?」

「ええと…何だろな…推理物というか人間ドラマ?…いや群像劇かな」

「相変わらずアバウトだね。で、何が凄いのよ?」

「そりゃ何と言っても、圧倒的な登場人物の豊富さだな。登場人物の数では、もしかしたら世界一かも。兎に角、次から次へと新しい人が出て来るわけさ。しかも、人物同士の相関関係がまるで不明という…」

「ほほう、そいつは随分とミステリアスだね…私も読んでみようかな。…タイトルは?」

「…タイトルなんてあったかな?」

「いやいや、普通あるでしょう、タイトルぐらい」

「あっ、そうだ、思い出した。ちゃんとタイトルあったわ」

「何?」

「確か…【タウンページ】ってタイトルだったと思う」

「……」

「……」

「…それ、本じゃないと思う」

「えっ、そうかな?」

「少なくとも推理物ではない」

「でも、探偵はけっこう出て来るぞ」

「そりゃ、出て来るでしょうよ、職業別なら探偵社が。だけど、肝心の犯人がいないんだから」

「そうかなあ…これだけ数多く名前が載ってれば、一人や二人、何かの事件の犯人がいても不思議じゃないと思うんだけどなあ…」

「……まあ、それはそうかも知れないけど」

「いま半分くらい読み終わってるんだけど、全部読み終わったら、次貸そうか?」

「いや、遠慮しとく…というか、うちにもある」


【終】。