話題:童話


七色の輝きを持つ小さな球体状の空間、とでも云うのでしょうか。それは非常に説明の難しいものでしたが、この時ラマン巡査は、彼がまだ幼い頃、母親が寝物語に話してくれた或るお伽話を思い出していました…。

それは、【虹泥棒】と呼ばれる大怪盗が居て、世界中の虹を盗んで万華鏡に閉じ込める、と云ったようなお話でした。

もっとも、幼いラマンはいつも話の途中で眠ってしまうので、結末を聞く事はなかったのです。その内、ラマンも大きくなって独りで寝るようになり、結局、【虹泥棒と万華鏡の物語】の結末は聞かず仕舞いのままになっているのでした。

今の今まですっかり忘れていた思い出が何故いきなり蘇ったのか、それはラマンにも全く判りません。

それでも、もし“虹泥棒の万華鏡”を覗いたら、この【キラキラした落としもの】のように見えるのではないか? ラマンはふと、そんな事を思ったのでした。

もしも、虹泥棒が本当に存在していて、何かの拍子に万華鏡から盗んだ虹の欠片が零れ落ちてしまったとしたら…それは、この【キラキラした落としもの】の正体としてはピッタリかも知れない…。

しかし、幾らなんでもその解答は、あまりにメルヘンが過ぎるでしょう。あくまでも虹泥棒は物語の中だけの存在なのです。ですから勿論、ラマン巡査もその事を口には出しませんでした。

(それにしても…)

そのキラキラした丸い空気を持ち上げた時にラマンが掌に感じた“不思議な温かさ”と“少し懐かしいような気持ち”が気にかかります。

(私は何処かでこれに出逢った事が…)

すると、。

「おかしな事を言うようですが、この【キラキラ】には以前、何処かで出会った事があるような気がしてならないのです…」

まるでラマンの気持ちを代弁するかのように老男性が云い、婦人にチラりと目くばせをしたのです。

婦人も同意するように小さく頷きながら「実は私も主人と同じで、見た事があると言うか知っていると言うか…そんな気がするのです」と続けて云いました。

 何という奇遇でしょう!

それは、まさに、ラマンが現在感じているのと同じ気持ちではありませんか!

ラマンは【キラキラした落しもの】を机の上に戻すと、二人に向かって自分が感じた事を素直に告白しました。

「それが実は…私もお二人と全く同じ事を、たった今、思ったばかりなのです…」

さて…

老夫婦とラマン巡査の不思議な感覚の一致が単なる偶然かどうかは、ひとまずさて置く事にして、問題は、この不思議な“落としもの”をどう扱うかです。

普通ならば、拾った人間の名前と住所を控えて落とし物を保管し、落とし主からの連絡を待ちます。

しかし、これが“物”かどうか判らない以上、拾得物として預かる事が果たして適切な処理と云えるのか? 第一、拾得物の名目欄には何と書けば良いのでしょう?

少しの間、そんな逡巡を重ねたラマン巡査でしたが、取り敢えず、老夫婦の名前だけは聞いておく事にしました。

そうして、“老夫婦”はフランツ・マルグリット(夫)とセシリア・マルグリット(妻)の“マルグリット夫妻”となったのでした…。


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ええ…

もしかしたら、明日はちょっとアップ出来ないかも知れませんp(´⌒`q)。

でも、出来るかも知れません♪\(^ー^)/

明日のアップが有るか無いかは…

ケニアの天気次第です(゜∇゜)。