話題:夜景

深夜の大通り。

存在しない深夜バスが錯覚のバス停にゆっくりと停車する。

虚構の灯りが静かに夜を照らす時、現実の夜は更なる静寂で虚構の灯りを映し返す。

都会の夜を見つめる私と私を見つめる都会の夜。


バスの降車口からぞろぞろと降りて来た一団は、皆一様に煌びやかな装飾の衣服に身を包んでいた。

やがて彼らは、シャガールの絵画の人物のようにふわりと宙に浮かび上がると、漂いながら夜の向こう側へと姿を消した。


「つまり、彼らはフユウ層なのさ!」

満月の上で暇を持て余している道化師が私に話し掛けてくる。

月上の道化師が吐く薄ら黄色い溜め息は、仄かに虚構の香りがした。

「時に‥君。詩と駄洒落の両立は可能と思うかね!?」

見れば、道化師の姿は何時の間にか、サーカス団の猛獣髭団長へと代わっている。 


Moon Shine!!


私が自分の扁桃腺を触りながら適切な返答を考えていると、満月の存在しない隙間からスルスルと空中ブランコが降りて来たので、掴もうと手を伸ばした瞬間、ブランコはぽわんっと煙になって消えてしまった。

『さあさあ皆様、始まってもいないアクロバットの華麗なるフィナーレで御座いま〜す』

月上から響く不戯けた声の持ち主は、今やサーカス団長ではなく、算盤片手のトニー谷だ。

『さあさあ、私に教えるざんす♪アナタのお名前、何てぇーの?』

ぽわんっ。

‥あらら

無責任にも質問だけ残して、トニー谷は空中ブランコと同様に煙となってしまった。

すると‥

ぽわんっ。


今度は満月迄もが煙となって消えたのだった。

然るに、後に残されたのは、トニー谷の消滅と共に私の足元に落ちて来た算盤だけ‥。

ああ、つまらない。つまらない。

それなら私も、サッサと消えるとしましょうか。


何故なら私もまた、嘘の登場人物に他ならないのだから。

そう‥

全ては、孤独な都会の夜が退屈に任せて吐いた華やかな嘘なのだ。

ではでは‥算盤にゆっくりと手を伸ばして私も…


ぽわんっ。




《終わり》