幻のセンチメンタル相模湾ポエム『ブルースの似合う女』。


話題:センチメンタル


潜水服で箱根のイロハ坂を登るのが私の夢なの!

高校の卒業文集にそんな事を書いていた夢見る少女は長い長い旅の果て、流れ着いた横浜で、ブルースの似合う女になっていました。

明日の夢を幾つも束ねた三つ編みヘアはいつしかセピア色した写真の中に。

今は千円カットの理容ハウスで髪を切っています。

私は夜の街に堕ちたんじゃない。そう…夜の海に潜っただけ。

心にそう云い聞かせて、彼女は今夜も厚木シロコロホルモンに舌鼓(したづつみ)を打ちながら、ちょっとだけニンニク臭い時間を過ごします。

でも、そんなのは自分を偽るための単なるB級の言い訳。

彼女が本当に行きたかったのはハワイのワイキキビーチで、イロハ坂はダミーでした。

アロハオエならハワイアン。

アオエミナなら港のブルース。

伊勢佐木あたりに灯がともる。

デュデュビデュビデュビ崎陽軒…。

美味しい焼売(シウマイ)…デュビデュブワァ〜。

港湾団地にバヤリース色した夜明けが訪れて、昇る朝日、彼女は眉毛をキリッと八の字に結び、誰にも聴こえないほど小さな声で未来の夢を語ります。

いつか…
そう、いつか…

根府川の駅前付近に小さな一戸建ての家を買おう。

根府川なんてマイナー過ぎて誰も知らないだろうけど、私は知ってる。それでいいの。

いつか、この夜の海から浮上したら…浮上だけに…プジョーに乗って根府川のネーブル畑に突っ込むの。

だから私は願うのです。

脱輪したままで構わない。このまま真っ直ぐ道を行け…と。

夜霧にむせぶブルースの夜は、燦々と太陽輝く夜明けのネーブル畑へと繋がっているのだから…。

例え、次の日の朝、グレゴール・ザムザが毒虫に変身していようとも、毒蝮三太夫から返信メールが届く事はなく…

ネーブルをつつく明日のツグミは、朽ち果てる事など永遠に知らない愛の詩を、酸味たっぷりに唱い続けるのです。

【終わり】。



その物語と、あの結末。

話題:詩


その物語の始まりを私は知りません。

その物語の途中、どのような悲しみや苦しみや苦難があったのかも、私は知りません。

しかし私は、

その物語の結末だけはちゃんと知っているのです。

それはこうです‥。


『数々の困難を乗り越えた皆は、その後、いつまでも幸せに暮らしました‥』

そして、

“その物語”とは、私の知る“全ての物語”の事なのです。


全ての物語は、このように終わるべきだと私は思うのです。

もし、悲しい終わり方の物語も必要だと云うならば、それは、例え描かれずとも、その先に必ず“あの幸せな終わり方”が待っていなければなりません。


全ての作者は、

全ての作者は、


それがどれほど、困難で難解なストーリーであろうとも、ただひたすらにそれを目指し、例え己の身が滅しようとも【あの幸せなたった一つの結末】に辿り着かなくてはいけないのです。


『そして皆は、いつまでも幸せに暮らしました…』


――――――――


この物語は、天へ向け、送信するものです。

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