秋の背中の小さな詩。

話題:詩



枯れ葉のような時間が積もる
秋の終わりの喫茶店。

熱帯魚の甘くて小さな唇が
明日の雨を告げていた。

夕焼け窓の向こう側
秋の背中に一厘の

秋桜
風に揺れている。


雨の降る水曜日のキリン。


話題:詩


雨の降る水曜日は決まって動物園にキリンを見に行く。

他の動物は見ない。檻の前の雨晒しのベンチに傘をさして腰かけ、キリンだけを眺めて過ごす。

すると、キリンの首が長いのは誰かの事を首を長くしてずっと待ち続けているからだと云う事が自然と判ってくる。恐らくダーウィンは、こうして雨の降る水曜日のベンチに一人きりで腰かけてキリンを眺めた事が無いのだろう。

雨の降る水曜日の動物園に人の姿はほとんどない。

キリンの檻から少し離れて停まっているカラフルなポップコーン屋のワゴン車では、売り子のオジサンが暇そうな顔で客が来るを待っている。

傍らで雨に打たれているジュースの自動販売機は誰かが硬貨を入れてくれるのを待っている。

雨の降る水曜日の動物園は、誰かが何かを待ち続ける為に用意された、たった一つの待ち合わせ場所なのだと思う。


雨の降る水曜日は決まって動物園にキリンを見に行く。

キリンの檻の前の雨晒しのベンチで一人、私もきっと、誰かを何かを待ち続けているのだろう。


〜終り〜。


☆☆☆☆☆


「余計な番外編ポエム」


雨の降る水曜日はダーウィンも形無しの進化論の外側にある。

檻から顔を覗かせる、雨もしたたる良いキリンに、こっそりこそっと呟いてみる。

旦那さまの名前はダーウィン…
奥様の名前はサマンサ…
二人はごく普通に恋をし…
ごく普通に結婚を…
でも、ただ一つ違っていたのは…
奥様はマッチョだったのです。

キリンの冷ややかな眼差しが水曜日の雨と共に頭上から降り注ぐ。

どうやら、こういう感じの物はあまりキリンさんの好みではないようだ。

ポップコーン売りのオジサンは大ウケしている。

そして、自動販売機からはお金を入れてもいないのに勝手にレモンスカッシュが飛び出していた。



雨の降る水曜日の動物園には、水玉模様の心がよく似合う。


〜終り〜。

デジタル暮色に染まる町。

話題:詩

頼りない記憶の地図帳。
膨大な演算処理の果ての果て。
遠い町では誓いも遠い。

朝顔の蔓に絡まる女の
地上波デジタルつけ睫毛。

鉱石ラヂオと真空管アンプが
人目を忍ぶ日蔭茶屋。

切り絵の紳士が風に舞い
ロイド眼鏡に陽が落ちる。

時の流れはパラパラ漫画。
アップデートで明日が来る。

ボーカロイドの竿竹屋(リバーブ内蔵)。

アンチウィルス紙芝居(トロイの木馬が検出されたお話)。

街角に座る靴磨きの少年はハッカーです。

街角に立つマッチ売りの少女はシステムバグです。

飛び出す絵本の立体駐車場は
車体の重さに耐え切れないので
車の影のみ駐車可能。

ダウンロードした恋心が
どうしても削除出来ずに
データ量だけが増えてゆく。

犬のネットポリスさん。

1600GB の荘厳な夕焼け。

哀しみさえ何処かマテリアルな

デジタル暮色に染まる町。

近くに思えて遠い町。


〜終〜。

夜の困ったポエム。

話題:詩



埋蔵金と

My 雑巾は

やはり別物

そう考えた方が

良いのだろうね。



カイゼル髯の紳士が

チョビ髯のバーテンに語る

お洒落な BARのお洒落な夜は

夜景がとても

ブルーズィだから


今夜だけ貴女に

カルピスを

ツーフィンガーで。


今夜だけ私に

青汁を

フィンガーファィブで。



「あちらのお客さまからです」

カウンターを滑って

メンソレータムが届く。



初恋の人は

顔の形が

ポーランドに

とても良く似ていて

ちょうど

ワルシャワの位置に

ホクロがあったの。


少し酔いの回った

孤独な女の口から

思い出話も飛び出して。


「乾杯…ワルシャワ条約機構に」

「乾杯…牛乳を拭いた雑巾に」

「乾杯…マントヒヒに噛まれた傷に」


そう云えば…

今宵もまた

ナントカ座のナントカ群が

誰かの心に降り注ぐらしい。

少し寂しい瞳の方が

流れ星は綺麗に映える

そんな宇宙の不思議を

貴女は知っているのだろうか…。



〜終わり〜。


「自由律一行悲しみ現代ポエム」のお時間です。

話題:暗い詩

悲しみも躊躇いも戸惑いも、全てはたった一行の物語。

現代を生きる悲しい大人の為の自由律一行悲しみ現代ポエム。


☆★☆★☆★☆★


1992年のランバダクイーンのトロフィーがゴミ置き場の片隅で最後のダンスを踊っている冬の朝。





衣替えで出した冬物のコートのポケットに入っていた、出し忘れた去年の年賀状を懐かしく読み、黙って破り棄てる。





急に姿を見せなくなった爺さんがいつも打っていた52番台に“故障中”の札を貼り、無事の戻りを待ち続けている、常連ばかりの小さな町のパチンコ屋。






試着室の“実際よりも痩せて見える鏡”に嘘と知りつつ慰められてみる。







右膝のお皿を自ら指先でさわさわとくすぐって、笑って、虚しくなって、泣きそうになり、左膝のお皿にスイッチして、またくすぐって笑って、また少し楽しい気持ちに戻る…一人の時間だから出来る事。





赤いのじゃなくて白い方をお願いしますと云ったら「畏まりました、ボンゴレ・ロッソではなくボンゴレ・ビアンコですね」と冷たい目のギャルソンに云い返されたイタリアンレストランの午後。







当たり前のように玄関の鍵穴に車のキーを差し込もうとしている自分をちょっとだけ愛おしく思えたマヤ暦最後の夜。





☆★☆★☆★☆★



人生とは、帯には短くタスキには長い、たった一行にして唯一無二のオリジナルポエムである。


By ワーノルド・シュアルツェネッガー(詩人。シュワちゃんとは別人)。




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