歌って踊って滅亡す



これは何十…いや、何百年前に書かれた物だろうか?

パプスプルク家・秘蔵図書館の奥棚に【年代物の旅行記】を見つけた私は、極めて軽い気持ちでそれを読み始めた。

それは随分と古そうな日誌で、作られた当時は極めて立派な物であったであろう革張りの表紙も、今となっては所々が剥がれ落ちてしまっていて、取扱いには細心の注意が必要なようであった。

乾ききった頁も慎重に捲らなければならない。

貴重な書物を台無しにしないように、私は少なからず緊張しながら、ゆっくりと日誌を読み進めていった。

どうやら作者は冒険家であるらしかったが、末尾の署名の印字はすっかり薄くなっており、まともに読めたのは【フニャ‥】と云う謎の言葉のみであった。

フニャなんとか‥それが作者の名前なのだろうか?

そんな事を思いながら更に先を読む。

本の内容は、実に奇想天外な冒険譚の連続で、私はいつの間にか時間を忘れて読み耽っていたのだが…

その中の一編に【一夜にして滅亡した幻の古代都市】の話があった。


冒険の途中で作者が偶然に立ち寄ったその都市は、気候も温暖で人々もみな陽気な、非常に豊かな都市であったらしい。

ところが、作者が足を踏み入れた翌日、途轍もないカタストロフィが街を襲ったと云うのだ…
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シャーペンオタクからの超絶的飛躍。



遥か昔‥

遠い異国の地にひとりの“シャーペンオタク”が居ました。

彼は当然のようにヘタレ人間だったのですが、ひょんな事から[伝説のシャーペン]の在処が描かれた古地図を手に入れたのです。

地図に拠れば、[伝説のシャーペン]が眠っている場所はアラビア海の真ん中、やや右下辺りに存在する絶海の孤島の洞窟で、どうやらその洞窟へは海側からしか入れないようになっているらしい。

オタクは迷いました。

何せ、これまでの彼の人生における最大の遠出が隣町の文房具屋でしたから、絶海の孤島など彼にしてみれば夢のまた夢だったのです。

しかし、彼は普通のオタクではありません。筋金入りのシャーペンオタクです。

『後悔するぐらいなら航海へ出よう!』

ついに、シャーペン欲しさが冒険の不安に打ち勝ち、これまでコツコツと貯めたお金でレンタル船を借り、同時に何人かの船員を雇い入れ、いざ航海へと旅立ったのでした。

初めての船旅。彼は出航から僅か2分で、もうデロデロに船酔いしてしまい、以降、船室のベッドに釘づけのまま過ごす事47日間…。

その間には、伝説の怪物クラーケンから危機一髪で逃げ延びたり、未曽有のハリケーンに襲われたり、数多くの困難があったのですが…

シャーペンオタクは、その間中ずっと船室のベッドで極度の船酔いのため意識朦朧としていたので、旅の苦難の事など全く何も気付かずに居たのでした。

そして迎えた48日目…。

ついに一行は、宝の地図に描かれた孤島を発見したのでした。

通常の航路から大きく外れたその小さな島の西側の絶壁の下には洞窟が見えています。

どうやら船のまま入る事が出来そうな入り口の大きさです。
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伝説のエース



【ダジャレ千夜一夜物語 第2夜】


『伝説のエース』


某年、夏の選抜高校野球大会地方予選決勝。

その決勝当日の朝、あろうことか、枕投高校の選手全員が酷い風邪を引いてしまった。

そして、運の悪い事に‥選手の中で一番症状が重かったのがチームの大黒柱、エースで四番の佐々々々木君で、症状が腸に来た彼はトイレの個室から離れられない状態となっていた。

それでも、監督や他の選手全員は、自分たちも風邪でヘロヘロ状態であるにも関わらず、トイレに籠もる佐々々々木君を、試合開始の時間ギリギリまで待ち続けた。

この日の為に一年間、ツラい練習を皆で耐え抜いてきたのだ。

晴れ舞台には全員で上がろう!

ところが…佐々々々木君は一向に出て来ない。

仕方なく、チーム全員でトイレを壊し“便器に腰掛けているエース”をその状態のまま、マウンドまで運んで行く事にした。

マウンドの上に便器が運ばれて来るのを見た観衆は、口から心臓が飛び出るぐらいに驚いた。

中には本当に心臓が飛び出てしまい、慌てて飲み込んで事なきを得た人も何人か居たらしい。
しかし、そんな観衆を更に驚かせたのが、便器に座ったまま投げ続ける佐々々々木君の快刀乱麻のピッチングだった。

実に9回表まで相手チームを、味方のエラー一つのノーヒットノーランに抑え込んでいたのだ。

それにはちゃんと理由があった‥
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お、お侍さま! そ、その芳しいかほりは!!



昔‥

そう‥あれは、もう随分と昔になるのですが‥

或る夜の事です。団子屋の前の四ツ辻で、何やら一人のお侍さまが行き倒れているのを、たまたま通りかかった私が見つけまして…

まさか、天下のお武家さまが倒れているのを放って置く訳にも参りませんので、そのまま、私の家まで連れ帰って‥麦飯と味噌汁という粗末な献立ながら、一応 お食事も用意して差し上げたところ…

何とか、お侍さまは息を吹き返されたようで…私としてもホッと安堵の息をつきながら、次にお風呂にも入って頂いたのですが…

お侍さまの浸かる湯から、何やらプゥ〜ンと良い香りが漂って来るではありませんか!

日本人の心を揺さぶるような芳しいかほり。

私は思わず、そのお侍さまに尋ねていました。

お、お侍さま!

お侍の正体はいったい‥!?

すると、湯船の中からこんな返答が帰って参ったのでした。

『拙者か?拙者はカツオ武士である!』

やはり!私は納得しながら、更に名前を尋ねました。

『名字か?それなら、本田と申す!』

次の朝、本田さまは大層なまでに感謝の意を示され、私の家を後にされたのでした。

そしてそれ以来、私はカツオには恵まれ続けた人生を送っているのです。


それは、もしかすると…あの本田と云うお侍さまが、あの夜に放った芳しいかほりの魔法のお蔭ではあるまいか、と私は思っているのです。

そして、あの夜の事件は私の一族の間で…

カツオ風味の本田氏 事件

そう呼ばれているのです…。




夜も更けて参りました…と云う事で今夜のお話はこの辺で。

それでは皆様、

ご機嫌よう‥。

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