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桜舞う随想【三十五幕 勇猛なる強さ】







「冬の方、御一つ御伺いしても宜しいでしょうか。」

全てを聞き終え、広間を後にした冬姫に幸村が声を掛ける。

冬姫は、歩みを止め、ゆっくりと幸村を振り返る。

「何をお聞きしたいのでしょうか。」

「はい、冬の方も、五徳の方も、直政殿をそれぞれ『ダメ政』『ダメ男』と呼称しておりますが、それは何故でしょうか。」

幸村の問いに冬姫の表情が険しくなる。

そして、其の険しくなった冬姫の表情を見た政宗と早川殿は、周りの空気が瞬時に冷たく一変した事を感じ、無意識に歩みを止めた。

一気に冷たくなった空気感に幸村は聞いてはいけない事だったのか、と感じ、少し恐縮する。

冬姫はゆっくりと幸村、政宗、早川殿を見渡す。

後に口を開く。

「…‥幸村殿、逆にお聞きします。例えば、貴方の親、昌幸殿がずっと、周りのご機嫌を常に伺い、常に誰かに頭を垂れ続け、口を開けば、『ごとき』『なんか』、そして、意味の無い謝罪を言葉にし続ける様を見て、どう感じますか?」

「え?其れと是と関係は…‥」

甲斐姫は、質問を質問で返した冬姫に対し、不愉快さを感じ、咄嗟に口を挟んだ。

「大いに関係が御座ります、甲斐殿。然し、今は少し口を閉じていて下さいますか?私は、幸村殿に聞いておるのです。貴女の答えは所望してはおりませぬ。」

が、冬姫は甲斐姫の言葉を途中で遮り、甲斐姫を一喝した。

「…‥どう感じますか?」

言い澱む幸村に、冬姫は再びキッパリと問い質す。

真っ直ぐに見つめてくる冬姫の瞳に、幸村は首筋がぞくり、と栗立ったのを感じた。

(信長公と同じ眼光…‥)

幸村は無意識に生唾を呑み込んだ。



誤魔化せない。



幸村は直感で感じた。

「…‥正直、肩身が狭く感じますね。そして、そんな光景を見ると、苛立ちます。」

幸村が緊張した面持ちで、正直に素直に答えた。

冬姫はじ、と幸村を見つめる。

幸村も緊張の面持ちで、冬姫から目を離さず、真っ直ぐに見つめ返す。

そして、幸村の答えに満足したのか、不意に冬姫がふ、と笑う。

「それが、私達が直政殿を『ダメ政』『ダメ男』と呼称する理由です。」

「…………‥?」

幸村が首を傾げる。

そして、政宗も、早川殿も、甲斐姫も、幸村と同じ様に首を傾げた。

「…‥貴方は、貴女達は、何不自由無く、生き育ったのですね。…‥いえ、若しくは、信之殿や氏康殿、輝宗殿が貴方方が不自由無く、生きられる様に常に守り、泥を全て被って来たか…‥」

冬姫は、眉間に皺を寄せ、本当に分からないと言わんばかりに首を傾げる幸村達を見て、羨ましそうに、少し、困惑した様に苦笑いを浮かべて呟いた。

「冬の方?」

「いえ、何でもありません。頭主とは其の家の顔で御座います。頭主がダメなら周りもダメになり、周りから見下され、罵られる対象になります。直虎殿は其れを全く理解しておりません。外交も、商売交渉も、足下を掬われれば終わりです。佇まいも、立ち振舞いも、語らずとも相手を畏縮する。そんな頭主でなければ、乱世で家を存続させる等、夢幻です。」

「だからこその貶し呼称か。」

冬姫の言葉に政宗が納得した様に頷いた。

「其れもありますが、要は、直虎への見せしめです。」

「見せしめ?」

「ええ、そうです。直虎殿の目の前で、直政殿を態と貶し罵る事で、貴女が態度を省みないせいで、周りの部下も、養息(ようそく)も、此の様に貶され続けているのですよ、と…‥」

「知らしめる為、ですか?」

幸村の答えに冬姫が満足気に頷いた。

「でも、ちょっと、回りくどいんじゃない?そんな事しないで、直虎に直に言ってあげれば…‥」

「本当に御目出度い頭をしていらっしゃるのですね、甲斐殿。貴女の脳ミソは御花畑で出来ている様ですね。」

冬姫は、悪びれも無く、清々しくもニッコリと笑って毒舌な言葉を甲斐姫に投げ掛ける。

「Σんなっ!?Σ( ̄ロ ̄lll)」

冬姫は、はぁ、と甲斐姫に聞こえる様に態と大きな溜め息を吐き出した。

「其れでは意味が無いのですよ、甲斐殿。」

冬姫の後ろから響いて来た別の声。

幸村達が振り向くと、其処には、昌幸が立っていた。

「確かに甲斐殿の仰有る通り、こうですよ、貴女は間違ってますよ、と直に言えば、直ぐに分かる事です。ですが、其れが効果的なのは、其の方に『何かをしてもらいたい』時か、或いは、誰かに『伝言』を頼んだ時ぐらいしかありません。」

「…‥意味分かんないんだけど。」

甲斐姫が少し拗ねる。

「では、甲斐殿。貴女にお聞きします。貴女は生まれて今日まで、一体何人の『言葉』を覚えておいでか?」

「え?何人って…‥そりゃあ…‥」

昌幸の言葉に、甲斐姫が考えを巡らす。

「…‥え…‥あれ…‥何で…‥?」

甲斐姫が困惑し始めた。

覚えていておかしくない人の言葉を一切頭に残っていない事に甲斐姫は慌てた。

「思い出せましたか?」

「え?そんな…‥嘘…‥思い出せない…‥姿や会話したって事は思い出せるんだけど…‥内容が思い出せない…‥‥」

「其れが直で言っても意味が無い、という答えですよ。」

甲斐姫の様子を昌幸は、柔かく笑みを溢しながらそう告げた。

「でも、何で…‥?」

「答えは簡単です。其の人の言葉に、貴女自身が、『重要性』を感じなかったからですよ。何気無い日常会話なんて、一言一句間違う事無く覚えている人なんて何人居ますか?然も、其の命尽きるまで沢山の人と交わした会話の内容等。」

「確かに…‥」

昌幸の言葉に、甲斐姫が納得した様に頷く。

「恨み節や旨の内に残る様な事は覚えていても、普通に交わす言葉は不思議と頭に残っていないんですよ。」

「ならば、もし、冬の方が直虎にそう警言(けいげん)しても、直虎自身が『重要性』を感じなければ警言も無駄になる、という事じゃな。」

昌幸の言葉に政宗がそう付け加える。

「その通りです、政宗殿。御理解がお早いですね。流石は伊達家御頭主で在られまする。ただ、小さい身成故に頭の中身も小さいかと懸念しておりましたが、そうでは無さそうで安堵致しました。」

「…………………………………‥本当に余計な一言が多い姫君じゃな(ー"ー#)」

にっこりと笑って、何気に政宗の触れてはいけない事をしれっと平気で言い切る所は矢張り、父親譲りである。

「ですが、此所までしても、気付いておらぬ御様子。是は、少し痛い目に遇ってもらわねばならぬ様ですね。」

「………………‥ふ、冬の方?」

ふふふ、と笑う口元は信長の魔王が取り憑いたか?と勘違いしそうな程の畏怖感を醸し出していた。

「御手柔らかに御願い致しますよ、冬の方。あくまで直虎殿は井伊家頭主ですので。」

「大丈夫です、昌幸殿。少し火傷を負わせてやる程度ですよ。」

「………………‥」

「………………‥」

((め、目が笑っておらぬ(いません)っ!!!(T▽T;)))

冬姫の表情は確かに笑っていた。

だが、完全に目付きは魔王を降臨させていた。

其れを見た政宗と幸村は、ただならぬ戦慄を覚え、思わず後退った。

「…‥私は、ただ、許せぬだけです。」

暫くして冬姫が口を開いた。

「直虎殿を見ていると、嘗ての父上の立場を思い起こして、苛立つのです。徳も、信忠義兄上も、永も、幼い頃からずっと父上の背中を見て育ちました。周りの者は何時も父上を罵り言、貶し言、恨み言を口にしていました。矛先は、私や五徳、義兄上や弟妹達にも及びました。『此の子は一体、誰に孕ませた御子か』『奥方様は子等成せぬ身体であるのをいい事にどこぞの馬の骨とも分からぬ女に孕ませるとは、女遊びの激しい御頭主だ』…‥もう、うんざりするぐらいに言われ続けました。」

冬姫が唇を噛み締めた。

「………………‥」

「………………‥」

幸村と政宗は、冬姫の悔しげな言葉に投げ掛けてやる言葉が見つからず、ただ黙って冬姫の悲悔の言葉を聞いていた。

「此の時ばかりは徳も、私も、永も、女子の身である事を強く恨みました。もし、男子であれば武器を奮い、威厳ある言葉で周りを蹴散らし、父上を敵対視する者達から守る事が出来たのに、と。」

冬姫は強く瞳を閉じ、強く唇を噛んだ。

「冬の方…‥」

「そう思っていたのですが、義兄上が私達に向かって言ったのです。」



『お前達は何もしなくても良い。其の役目は嫡男である俺の仕事だ。今はまだ力は無いが、何時か日ノ本全土に俺の名を轟かせてやる。甘い噂では無く、父上の様に畏怖する噂をな。今は耐えろ。何時かお前達にも父上の為に出来る事が必ず在る。其の何時かの為に知恵を、力を蓄えろ。いいな。』



「私達は、義兄上の言葉を信じ、耐えました。気が遠くなるぐらいの時を。」

冬姫の力強い言葉と迷いの無い真っ直ぐな気高い表情に、嘗ての正史の未来で冬姫と面通しした時の事を思い出し、昌幸の隣で黙って聞いていた信之は小さく、くすり、と笑った。

「兄上?」

突然、聞こえて来た笑い声に幸村が首を傾げた。

「いや、少し未来で会った冬の方の事を思い出してな。」

「未来?まだ、過去に遡っていない時のですか?」

「ああ、私が冬の方と初めて会ったのは、大坂の戦いが終わり、半日過ぎた後だった。突然、冬の方が私を訪ねて来たのだ。」

そう言うと、信之は其の時の冬姫を懐かしむ様に瞳をゆっくりと閉じた。




『冬の方?突然、如何なされましたか?』

『…‥少し、信之殿とお話しを致したく。』

『私と?』

『はい。』

冬姫は、氏郷、息子の秀行亡き後、髪を斬り(当時は此の漢字が正解)、出家し寺隠した。

其れ以来、表立って姿を見せる事無く、世の中を静観していた。

そんな冬姫が突然、自身を訪ねて来た事に、信之は少し驚きを覚えた。

『お話しとは?』

『…‥大坂での戦いで、幸村殿が討死し、豊臣家が滅亡しました。』

『……………………‥』

『そして、信之殿、貴方が生き残り、真田家は貴方の願い通り、存続しました。貴方の願いは成就致しました。信之殿、今の御気分は如何ですか?』

真っ直ぐに、率直に、言葉を濁す事無く、問い掛けてくる冬姫に信之は正直、心が揺らいだ。

『………………‥』

『幸村殿を討つ事で、泰平を脅かす者、豊臣家を討った事で、守られた真田家存続、どんな御気分ですか?』

『…‥っ!』

冬姫の声質が変わった。

信之は周りの空気が冷たくなったのを肌で感じた。

まるで…‥

(信長公が目の前に居る様だ。)

信之はゆっくりと顔を上げた。

そして、息を呑んだ。

其処には、穏やかで麗しい『女』である冬姫では無く、刺す様な鋭い眼差しを称え、真っ直ぐに威厳のある凛々しい『信長』の表情を持った冬姫が居た。

『…‥そうですね…‥確かに、私の願いは成就しました。ですが…‥此所が寒いのです。』

信之は自らの胸に掌を添え、ゆっくりと語りだした。

『此所に、大きな穴が空き、其処に冷たい風が吹きすさび…‥寒いのです。』

『…‥後悔しておりますか?』

『後悔は…‥して…‥』

『自身を偽る言の葉は申されるな。』

信之が吐き出すであろう言葉を悟り、冬姫はぴしゃり、と言い止めた。

『冬の方…‥』

『此所には、猪女(稲姫の事)も、腹太狸(家康の事)も居りませぬ。私は、偽りの信之殿と話に来たのではありません。真実の信之殿と話に来たのです。』

冬姫は、きっぱり、と言い切った。

そして、信之は悟った。

冬姫は、自身の心の奥底に隠し続けた自身の本心を炙り出しに来たのだ、と。

『此所に永く隠し通して来た真心を曝け出しなさい。』

冬姫は自らの掌を、既に胸に当ててある信之の掌の上に重ねた。

そんな冬姫に、信之は我に返り、うなだれて俯いた。

そして、呟いた。

『私は…‥幸村を…‥父上を、信長公を失いたくはなかった…‥っ!』

信之には似合わない弱気が含くまれた声。

『…………‥』

『幸村が、父上が、信長公が居なくなって…‥私だけが残されて…‥私はどうすれば良い?』

冬姫は信之の弱気な言葉に、顔を背ける事をせず、真っ直ぐに信之を見つめ、呟かれる彼の弱音を黙ったまま全てを聞いていた。



――――幸村や昌幸と過ごした想い出が、信長との想い出が一つずつ、泡の様に記憶の底から浮かんでくる。



信長と初めて会った日の事。

幸村と桜を見上げて、楽しく談笑した事。



幸村が、昌幸が、信長が、直ぐ自分の傍に居たから、気付かずにいた。



――――其れがどれ程大事なものだったか。



『信之殿…今この部屋には、私しか居りませぬ…』

冬姫は静かに口を開いた。

『誰も見ておりませぬ。故に、気を緩めて下さい。明日になったら…‥皆の前では、平気な顔、しなくてはいけないのですから。今は平気ではない顔をしても、構いませぬ。』

冬姫の気遣った言葉に、信之は微笑もうとした。

だが、顔が強張った。

『…‥有難う、冬の方。』

そう呟いた途端、胸の奥に熱いものが込み上げて来た。



――――堪え切れなかった。



唇をギュッと固く噛んだが、其れでも止められなかった。

視界がぼやけ、信之はうなだれた。

頬に涙が伝う。

声を殺して、信之は泣いた。

涙の滴が、頬を伝い静かに落ちた。

冬姫は、黙って信之の身体を抱き締めた。

そして、幼き子をあやす様に、ポンポン、と優しく背中を叩いた。

信之は冬姫の肩に顔を埋める様にして、また、声を殺して泣いた。





「…‥強き方でした。」

信之が清々しい笑みを浮かべた。

「その様じゃな。流石は信長の娘、と言ったところか。」

全てを聞き終えた政宗達が感嘆の溜め息を吐いた。

「強過ぎですよ(^_^;)」

幸村がそう呟いた。

「強くなければ、冬姫殿を取り巻く環境は過酷で生きるには難しかったのでしょう。」

幸村の呟きに、信之はそう言いながら目を細めた。

「…‥ですが、過去が変わった今、冬姫殿達は『あの時』よりは女性らしく生きておられる様だ。」

「そうですね、私もそう思います。私は幼い冬姫様しか会った事が御座いませんが、私が会った時と今の時とは表情が全然違います。未来が変わる前に出会った時の冬姫様の眼(まなこ)は人を全く信じていない刺す様な輝きがありましたから。」

光秀も信之の言葉に初めて冬姫と会った時を思い出しながら、今、目の前に居る冬姫を眩しそうに見つめた。

「冬姫殿の為にも、信長公の存在を日ノ本に認めさせよう。」

「はい!」

信之は、昌幸の言葉に、幸村が力強く返事を返す音を聞きながら、静かに顔を上げ、青天を見上げた。

そして、誰も悲しまず、誰も傷付かず、皆が幸せに笑って暮らせる、そんな日ノ本を造りあげよう、と決意を新たにしたーーーー…‥










ーーnext

桜舞う随想【三十四幕 蝕む消滅への挑戦】







漆黒の美丈夫は、少し驚いた様に目を見張っていた。

昌幸、信之の提案を聞き、ただ、ただ、驚きを隠せずにいた。

「予は、日ノ本より『絶対悪』として認識された存在。消えるは必然と思うておったに。」

「一人で勝手に決め付けて、一人で勝手に消えようとするでないわっ!」

そう呟く美丈夫に、政宗が堪らず叱責した。

「確かに、此の世の中、『絶対正義』を示す為には『絶対悪』は必要ではあります。ですが、其れを決めるのは『人間』ではありません。決めるのは、『天』であり、世界を造りもうた『神』です。御屋形様、貴方は決して『神』に『消滅』される存在ではありません。」

政宗の言葉に、氏郷が胸に掌を当て、祈る様に美丈夫にそう告げる。

「じゃが、現に消されようとされておるではないか。」

「『神』が人を消そうとするのは、『絶対悪』としてだけでなく、時の流れを正しきものに戻す為、『未来に居ない筈の者』を正しき過去に戻す為に消滅させる時も御座います。御屋形様の場合は後者で御座います。」

「成る程、ならば、信長公は『完全消滅』ではなく、本来の正しき史に戻す為の『未来消滅』となるのか。」

「はい、そうなりまする。」

氏郷の言葉に、政宗が納得して腕を組む。

「然し、どちらにしても消滅する事には変わりありません。」

信之が険しい表情でそう告げる。

「消滅させない為に私達は…‥」

「分かっておりますよ、信之殿。私としましても御屋形様が此のまま消えてしまうのは本意ではありませんから。」

氏郷が信之に柔らかく笑ってそう告げた。

「私も父上が此のまま居なくなるのは絶対に嫌で御座います。」

「だからこその『謀叛』で御座いますよ、冬の方。」

昌幸が氏郷の正室であり、信長の娘である冬姫にそう語り掛けた。

「昌幸殿、『ダメ政』、連れて来ました。」

「ん?『ダメ政』?」

「…………‥誰の事でしょうか。」

政宗と幸村が顔を見合せ、首を傾げる。

昌幸の言葉の終いを見計らった様に、一人の女性が一人の男性を連れて、其の問いに答えるかの様に部屋へと入って来た。

「『直政』だ!五徳、其の呼び名は止めろと何度…‥っ」

「は?直政じゃと?何で、ダメ政…‥?」

政宗が徳姫が何故、直政を『ダメ政』と呼ぶのか疑問に思い、徳姫に其の疑問をぶつけた。

と同時に、『ダメ政』と聞いて、誰を連れて来たかを察した冬姫が少しため息をする様な笑いを浮かべ、女性の後ろに居る男性を見た。

「『ダメ男』まで協力させるのですか?」

「Σは?!今度は『ダメ男』?!Σ( ̄ロ ̄lll)」

冬姫の言葉に、政宗は更につっこむ。

「直政です!な・お・ま・さっ!冬の方まで何ですかっ、其の呼び名はっ!!俺の名は、直政ですよ!!!直政っ!!!」

選挙宣伝の様に、直政は自身の名を何度も徳姫と冬姫の二人に向かって連呼する。

「…‥いや…‥じゃから…‥何で…‥ダメ男に……ダメ政……………‥」

「………………‥あの……え、と……‥」

三人の漫才の様なやり取りに、政宗が呆れ、幸村が声を掛け辛く苦笑いを浮かべる。

「………………‥五徳の方、御説明は?」

昌幸も少し苦笑いを浮かべながら、本題を問い掛ける。

「五徳から、色々と説明を受けた。」

徳姫が応えるより早く、直政が昌幸の問いに答える。

「御協力は?」

「ええ、俺の力が必要とあらば。」

男性・直政は昌幸の問いに即効に力強く返事を返した。

「有り難う御座います、直政殿。」

昌幸は直政に、そう御礼をすると深々と頭を垂れた。

「頭を下げる必要はありません、昌幸殿。信長公は井伊家を救い、井伊家が仕えるべき今川家をも救って下さった。その恩返しが出来るのですから、是非もありません。」

直政がそう毅然と語る。

「………‥きちんと昌幸殿の策を成功に導く為に完璧に遂行出来るのですか?」

「冬の方、俺を御疑いか?」

「…………………‥」

冬姫と直政がじ、と見つめ合う。

其の様子を幸村と政宗がハラハラしながら見つめ、信長と昌幸、そして、信之が何時もの事と柔らかな表情で見つめていた。

「…‥愚問だったか。普段は全てにおいてダメ男だが、やる時には確実にやる男だったな。」

ふ、と目を細めてそう言えば、冬姫は小さく笑った。

「…‥余計な一言が多かった気がしますが、信を貰えた様で安心しました。」

直政もそう言い返すと、ふ、と表情を和らげて小さく笑った。

「本当に大丈夫なのですか?」

「…‥俺の力は、信長公の忠臣として傍らに居られる時点で証明されたかと思うが?」

「……………‥父上の強さが目立って、逆に役に立ってない様に見えます。」

「Σなっ!?Σ( ̄ロ ̄lll)」

徳姫がぼそり、とそう呟いた。

「……………………‥なぁ、幸村。」

「何でしょう、政宗殿。」

「五徳の方は、直政の正室だった様な気がするのじゃが…‥」

「ええ、確かそうだった……………‥筈ですが。」

直政と徳姫の二人のやり取りを見ながら、政宗と幸村は苦笑いしながら、確認し合う。

徳姫は、未来では家康との同盟の証として息子の信康の正室として徳川へと輿入れした。

が、過去を変え、家康との同盟が無くなった現在(いま)、直政を信長の忠臣として迎える証として、徳姫は直政の正室として井伊家へと輿入れした。

だが、先程の一連の会話を聞く限り、夫である直政を自身の父親・信長と比べて貶しまくっている。

「…………………‥直政を全く起(た)てとらんの…‥ιι」

「あ、あははは…‥ιιι」

何とか、直政の肩を持ちたい気持ちがある二人だが、下手に口を出すと、徳姫の加勢に冬姫の口撃(こうげき)が参戦する事は目に見えて分かっている為、口を挟む事が出来なかった。

徳姫と顔見せ(現在の結納式)の為、直虎と直政、そして、信長や其の親類が集まった席でも、直虎が恐縮して『すみません』等を連呼した事に冬姫は堪忍袋を切ってしまい、

『『ごとき』『すみません』『なんか』等、自身を卑下にする言の葉を吐くのは止めよ!貴女は井伊家の御頭主なのでしょう!ならば、頭主らしく、顔を上げ、胸を張り、堂々と威厳を持ちなさい!自身に誇りを持ちなさいっ!貴女がそんな気弱だから、直政殿は何時まで経っても『ダメ男』なのです!』

と啖呵を切った程。

更に…‥

『今度、そんな自身を卑下する様な言の葉を発すれば、それ相応の罰を与えますよ!!宜しいですね!!直虎殿!!!』

『Σええぇっ!!?Σ(T▽T;)』

と、ぴしっ、と言い切り、直虎を泣かせてしまったのだ。

其れ程、冬姫の口撃は半端無く、恐ろしいのだ。

「徳、冬、其れぐらいにしておけ。」

「父上。」

「話が進まぬと昌幸が困り果ててしまうぞ。」

「あ、申し訳御座いません、昌幸殿。」

父・信長の一声で二人は静かになる。

鶴の一声、とは正に此の事であろう。

信長は、そう冬姫と徳姫に告げると、口を閉じ、暫く思案に耽る。

「…‥生きるのじゃ、信長公。此所に居る者共は御主を必要とする者ばかりじゃ。御主を否定する者は此所には居らぬ。」

政宗が信長を説得する。

「御前は消え掛けた命を沢山拾ってくれた。俺の命も、義元の命も、そして、光秀の命も。」

勝頼が政宗の後に続けて言葉を発する。

「…‥上杉も救った。景虎も救った。」

景勝が言葉少なに語る。

「私は貴方も救いたい一心で此所まで駆けて来ました。貴方を救い、貴方が生きる事が出来なかった未来を共に生きていきたい。」

信之が切な気に語る。

「…‥卯ぬ共は、諦めが悪い者共よの。」

信長が小さく笑う。

「信長公…‥」

「皆まで言う必要は無し。」

昌幸の言葉を信長は止める。

「皆の其処までの覚悟を見せ付けられて、今更、消える、等と言える訳が無い。…‥良い、生きられる時まで生きてみよう。」

信長の皆の覚悟を感じて、自らも覚悟を決める。

そして、そんな信長の言葉に皆の表情に笑顔が浮かぶ。

「そうと決まれば、早速、実行じゃ!昌幸、策を申せ!」

政宗が喜々として、昌幸に先を促す。

「分かりました。具体策をお話します。」

政宗の言葉に昌幸が力強く頷く。

「しっかり、お務めを熟なして下さい、ダメ政。」

「直政っ!!」

緊張が走る雰囲気の中、徳姫と直政のやり取りで柔らかい空気が流れ、皆の表情に笑みが零れた。










信長を生かす為、日ノ本へ宣戦布告をするーーーー…‥










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