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どちら様?(信長総受?)








爽快な晴天。

快適な目覚め。

今日も元気に仕事するぞーって、広間に行ったら――――










知らない女郎さんがいらっしゃいました。










――――青年は、その女郎を見て固まっていた。



漆黒の髪を一纏めにし、薄い赤色の着物。

薄化粧に、スラリとした体型。

見るからに美人だ、と分かる。



―――― が…‥



「ん?幸村。何、ボーッとしとるか?」

声は、信長公と同じ声…‥



はい?同じ声?



青年・幸村は更に固まった。

「……………‥」

「……………‥」

「……………‥だから、何を固まっておるかっ!!」

女郎(?)が痺れを切らして幸村に怒鳴り散らした。

「………‥この声って、もしかして…‥」



「……‥信長公っっっ!!?? 」

「Σ!?( ̄□ ̄;)!!」

幸村の叫び声に、信長は耳を押さえた。

「ええっ!?本当に信長公なのですかっ!?えっ?えぇっ、何でぇっ!?」

「だから、説明してやるから、少し 、落ち着けっ!!」

信長は幸村を落ち着かせる為、大きな声で叫ぶ。

「あ、幸村。叔父上、綺麗でしょっ!」

その時、信長の隣に居た姪っ子・茶々が幸村に嬉々として、言い寄って来た。

「そ、それは、綺麗だが…////」

幸村は普段見た事の無い信長の格好に、少し恥ずかしさを感じていた。

「甲斐姫の着物を借りたんだよ。で、どう?叔父上、寸法は?」

「ん?ああ…‥少々胸がキツいな…‥」



!?Σ(゚□゚;)



「其れに…‥腰がぶかぶか…‥」



!?Σ( ̄□ ̄)!



「次いでに、少々、尻部もキツい…‥」



ΣΣ!!??(ΩДΩ;)!!



――――甲斐姫、撃沈。



(ま…、負けた…っ、体型(スタイル)で負けた…‥っorzιι)

ガクリと座り込み、甲斐姫は非常に沈んだ。

(うわぁ…‥ιι落ち込んじゃったよ…‥ιι)

幸村がちらりと甲斐姫を気の毒に思いながら、目の前に居る信長を見る。

「で、何故、こんな格好をしているのですか。」

「…‥予とて、好きでこんな格好したくて、してる訳ではない。」

信長はバツの悪そうな顔で、視線を逸らす。

「実は、茶々が『叔父上って、結構綺麗な顔してますよね?何か女郎とか似合いそう』と…‥」

「…‥で、この格好?」

幸村が信長を指差し(失礼な)ながら、そう言った。

「綺麗よねっ!」

「ΣΣ!!??( ̄□ ̄;)!!」

突然、後ろから声を掛けて来た茶々に驚き、幸村は大袈裟に飛び跳ねた。

「ねっ、綺麗よねっ!」

「えっ?ああ、…‥////綺麗…‥////」

「………‥そんな事、言われても嬉しくないぞιιもう着替えて良いか?この格好、以外と肩が凝る。」

信長は肩を回しながら、茶々達に言う。

「え?ああ…‥」



ガタンッ



音がした方向に振り向く信長・茶々・幸村の三人。

入り口には、何故か政宗の姿。

何で、政宗が?と言う疑問はそっちのけで、四人は見つめ合ったまま固まる。

「………‥ιι」

「………‥ιι」

「………‥ιι」

「………‥ιι」



ブハァァッッ



「Σきゃあっ!!?Σ(゚□゚;)」

「 うわっ!血ぃ、噴いたぁぁっ!!!汚なっっ!!! 」

いきなり、血を噴いた政宗に幸村は驚き、思いっ切り、後退った。

「 信長公っ、そんな忘年会ネタやってもこの方には通じないんですよっ!馬鹿ですねっ!」

何処から現れたのか、小十郎がうずくまった政宗の首の後ろを手刀でビシビシ叩きながら、信長にそう叫ぶ。

「だから、その様なものではないって申しておるではないかっ!?と言うより、何故、鼻血噴出させておるかっ!?」

「 複雑な男心と言うものを分かってあげて下さいっ!ホラホラ、上向かないと、止まんないでしょっ!! 」

そして、この後、信長の身に何かが起きては遅いと、政宗が鼻血で悶絶している間に、信長を着替えさせた。










その後、幸村は何かある事に、女郎になった信長を思い出すのか、やたらと信長を見ては赤面する様になったと言う。










――end

桜舞う随想【十九幕・毛利粛正の刻】







コンコン、と文机を指先で叩く音が静かな部屋に響く。

其の隣で静かに茶を点てる女性が一人。

茶筅を混ぜる音と、指先を叩く音だけが部屋を支配している。



女性は何も言わない。



指先を叩いている人物が、今、自分の言葉を望んでいない事が分かっているからだ。



だが…‥



すら、と襖が開き、一人の若者がずかずか、と無礼な歩き方で文机に近付いていった。

其れを見た女性は、はぁ、と溜め息を吐いた。

と、ばん、と大きい音が響き渡り、其の音で指先で叩いていた音が鳴り止んだ。

人物は、眉間に皺を寄せ、嫌そうな表情で大きい音を叩てた人物を見上げた。

「…‥何用か?隆景殿。」

「何、しらばっくれているのです?三成殿。」

「さて、私には分かり兼ねますが?」

人物・三成の言葉に、隆景はが、と三成の襟首を掴んだ。

「周防長門国を『開放』しましたね?」

「其れがどうした。海の知識に長け、外交も盛んな国を封国して放っておく隆景殿の考えが分かりませぬな。」

三成は隆景の激昂に臆する事無く、そう切り返す。

「繁栄した国は滅びを呼ぶ。」

「…‥だからどうした。」

「一律以上に繁栄した国が永年栄えた試しは無いっ!!」

「元就自慢の『歴史は物語る』か?」

「そうですっ!前史が物語っているではないですかっ!!繁栄を極めた平家も、時の北条も、足利も、大内も、皆、滅んでいるっ!!」

「大内氏滅亡は、毛利が荷担していたではないか。」

「論点をずらさないで下さいっ!!」

ばん、と再び机を叩く。

はあ、と今度は三成が溜め息を吐き出す。

「一律以上の繁栄を此れ以上許さない為に、富も、力も、権力も、全て奪ったというのに、開放しては、みすみす、繁栄を許してしまう羽目になるではないですかっ!」

「お前は何も分かっていない。信之も信長公も視察を兼ねて周防長門国を見て来たが、周防長門国は衰えていなかったそうだぞ?衰えているどころか、独自性を持って進展していたそうだ。」

三成は、隆景の手を退かしながら、不敵な笑みを浮かべた。

「国内から金が入らぬなら、国外から。陸から食料が調達出来ぬなら、海から。毛利の手から離れ、独自に生き残る知恵を絞った。絞った結果、周防長門国は完全に独立国になっていたそうだ。」

「なっ、全てを奪った。何かを成す為には…‥っ」

「確かに、金が必要。だがな、金を得る為には強国に頼らなければいけない、等と古臭い考えを持っているのは、頂けないと思うがな。現に信長公は織田家を存続させる為に何をした?強国を頼ったか?」

「……………‥」

「要は其処だ。お前達は毛利さえ安泰ならいい、と考えてはいる様だが、其の安泰を得る為に今までしてきた功績が、策謀が、余りにも『強力』過ぎた。知っているか?隆景。お前達はもう全日ノ本の将達から危惧される程の家柄になっている。だから、今さら、周防長門国を封じ込めたところで手遅れだ。」

三成の言葉に、隆景は歯軋りした。

「貴方達さえ…‥っ」

「何もせずに大人しくしておけば良かったのだ、等と餓鬼臭い事を言うなよ、隆景。頭が伐(き)れるお前なら分かっているだろう?今さら、何をしようが無断だ、という事に。」

隆景は何も答えない。

「不満なら、気に食わないなら、徳川へ降れ。居るだけ邪魔だ。」

三成は、隆景を切り捨てる。

「…‥徳川に降る事はしません。」

「ほう、ではどうする?」

「見届けさせて貰います。」

「何処までも、『上から』見ないと気に食わないのだな、お前は。」

「何とでも。父上は信長公を認めていました。ですが、私は信長公の、否、織田家等、認めてはいません。」

「ならば、謀叛を起こせばいいだけの事だ。陶晴賢が大内義隆に、浅井長政が織田信長に謀叛を起こした様にな。現に毛利が陶の謀叛の片棒を担いでいたのだろうが。」

三成は常に冷静だった。

隆景の言う言葉を次々に切り捨てていった。

「認めない、許さない、そう喚くだけなら、山に住む獣と同じだ。そう思うなら、下らない蘊蓄(うんちく)を述べてないで、さっさと反旗を翻し、信長公を討つ算段でもしろ。貴様の頭はただの飾りではないのならばな。」

三成は隆景を煽る。

「貴方は、人が嫌悪と感じる言葉を平気で発しますね。其のはっきりと物申す姿勢、改善された方が宜しいですよ?でなければ、何れ、貴方の周りには人が居なくなり、貴方は孤独になりますよ。」

「其の言葉、そっくり其のまま貴様に御返ししよう。其の人を見下した物言い、改善しないと貴様こそ孤立するぞ。変に頭がいいと、自分を他人とは一緒件(くた)に考えない思考を持ち、最悪には、自分は『普通』とは違う、と思い込む様になるから達が悪い。」

三成は、ふん、と鼻で笑いながら、そう告げる。

「侮辱するつもりですか?」

「ほう、侮辱、と取るか。随分と御高く留まっている様だな。」

「御高く留まってなどいません。私は『事実』を言っているだけです。」

「『書面上』での事実だろう?書物だけが全てではない。曹魏国の曹孟徳が良い例ではないか。前期は冷酷な無慈悲な極悪人と称されていたが、後期では『そうではなかった』事が分かったではないか。国を人を書面上だけの記述だけで決め付けて見るんじゃない。不愉快だ。」

三成は怒りを露にする。

隆景が何かを反論しようと、口を開く。

が、其れと同時に、ぱしん、と乾いた音が部屋中に響き渡った。

三成は、其の音に驚き、目を見開く。

「ひ、秀子っ?!」

隆景は何が起こったのか分からず唖然とする。

「いい加減になさりませ、隆景殿。」

音の発信源は女性・秀子であり、音の発信元は隆景の頬からだった。

突然の第三者の出現に、隆景も三成も驚きを隠せないでいた。

「貴方の言い分は煩わしさを通り越して、見苦しい。何も成さぬ癖に、言い分だけは達者でおられる。誰も彼も貴方の論理で言いくるめられると思いなされるな。今まで、陶殿も義隆様の御子息、義長様も貴方の巧みな論理で言いくるめられ、全ての『企み』は毛利の手の内で実現して来られたのでしょうが、我等、父上も三成殿は違いまする。」

秀子はす、と立ち上がり、隆景に近付くと、懐から扇を取り出し、ぴしり、と隆景の首筋に扇を宛がった。

「頭が良過ぎて、凝り固まった考えを他人に押し付ける。確かに、歴史は物語ります。ですが、其の前史の過ちを学び、『そうならない』為に知恵を絞るのも、頭の良い方の『役目』では御座いませんか?」

秀子は、女性とは思えない程の冷めた瞳を隆景に向けた。

其れを見た三成は、秀子は矢張り、信長の娘だ、と改めて確信した。

「日ノ本は、変わらねばならないのです。何時までも『過去』に囚われ、前に進まず、ただ、前史の様な出来事を止めるだけで何も成さない。其れでは、毛利だけでなく、日ノ本全土が衰え、滅亡致します。『そうならない』為に、父上は様々な政で奮闘なされておられるのです。貴方だけですよ?父上を許す許さない等と、喚いているのは。」

秀子の表情は、もう隆景の顔は見飽きたと言わんばかりに冷めきっていた。

「貴方は父上に、織田に、自らの意思で降った。ならば、もう、反論する口を閉じられよ。」

隆景が不満気に口を開くと、今度は秀子は懐から懐刀を取り出し、素早く鞘から刀身を引き抜くと切っ先を隆景の開いた口の中へと入れた。

「!?」

「…‥っ!?」

此れには、隆景だけでなく、三成も目を見開き驚いた。

「『口を閉じられよ』と申した筈ですよ?隆景殿。私の申された言葉は理解出来ぬとでも?そんな事はありませぬよね?隆景殿。毛利両川の異名を持つ程の頭脳の持ち主です。私の言の葉を理解せぬ等と、そんな阿呆な事を申す筈ありませぬもの。」

秀子は、嫌味を含んだ言い方で隆景を黙らせる。

「喋りませぬな。喋りますると、瞬時に舌が斬り飛びまする。」

秀子の言葉に、隆景は黙って頷く。

其の頷きを見て、秀子は隆景の口から刀を引き抜く。



ーーーー瞬間…‥



「ーーーーっ!!!」

隆景が声にならない悲鳴を上げた。

と同時に、ごとり、と隆景の右足首が斬り落とされた。

血飛沫が、畳を紅黒く染めていく。

血飛沫を浴び、秀子の顔も紅く染まる。

「秀子っ!!」

三成が声を荒げる。

「…‥此処までしないと、隆景殿は『分かり』ませぬ。話しても分からぬなら、『こうする』しか…‥」

秀子は、顔を歪め、苦し気にそう告げる。

「…‥っ!!もう、いい。何も言うな。」

三成は、秀子を引き寄せ、強く抱き締める。



話しても聞かぬなら、殺してしまえ。

話しても聞かぬなら、聞く状況を造る為に、相手を逆らえぬ程に傷付け、恐怖で支配してしまえ。

秀子は、筒井定次の説得に失敗し、執拗な尋問を受けてから、そう考える様になっていた。

父・信長の顔を汚してしまった。

信長の威厳に、翳(かげ)りを与えてしまった。

信長を失望させてしまった。

そんな失望と、自身の情けなさに、秀子は次第に病んでいった。

秀子は、信長を心から尊敬し、信長を慕っていた。

信長に頼りにされる事、信長に重用される事を一番の誇りにしていた秀子。

だが、定次の謀叛で其の誇りは切り裂かれた。

自分を幽閉する事は、信長自身の威厳を保つ為には仕方が無い事、と頭で分かっていても、矢張り、心の何処かでは、『父』としての信長の優しさを欲しがっていた。

『父』として『娘』を労い、ただ、抱き締めて欲しかった。

辛かったな、と。

よく、堪えたな、と。



「大丈夫だ。大丈夫だから、落ち着け。」

「………………‥」

三成の言葉に、秀子は黙った。

黙ったまま、三成の胸元に顔を埋めた。

「…‥誰かっ!誰か居ないかっ!」

「三成様、如何…‥た、隆景様っ!?」

「事情は後で説明する。今は、隆景殿を医師の下へっ!」

「はっ、はいっ!了解しました!」

三成の声で駆け付けて来た遣いの一人は、血塗れの部屋の風景に驚いていたが、次の三成の言葉に慌てて隆景を抱え、部屋を後にした。

慌ただしさが部屋から遠ざかり、静けさが再び部屋を支配した頃、三成は秀子を見下ろした。

秀子は動く事は無く、何か声を発する事もしなかった。

が、三成はそんな秀子に何か特別に声を掛ける事はせず、ただ、黙って秀子を全身で受け止めていた。

「…‥世知辛いな。」

三成は、ぽつり、と呟いた。

其の呟きは、ただ、静かな部屋に響き渡ったーーーー…‥










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桜舞う随想【閑幕6・一時の安らぎの刻】







「…‥ほう、此処が…‥西の京都か。」

「確かに、街並みも、街路樹も、全て京都風ですね。」

初めて見るもう一つの『京都』に信長と信之は、感嘆な声を上げる。



ーーーーが…‥



「…‥民達の警戒心が異常、ですね。」

信之が周りに居る民達の様子を見て、在るが侭に感じた事を直言した。

「…………‥」

街並みは、本都・京都に負けじと発展してはいる。

商売も、何の不自由も無く、商い人も生き生きとしている。

本国人だけでなく、様々な種族の人達が行き交う様は、他の国に比べて新鮮さを感じる。

が、信長や信之を見た途端、皆の表情ががらり、と変わり、向けられる視線は嫌悪を感じるという気分が良いものでは無かった。

「何故…‥」

「此れが、毛利が私益や自得の為だけに行った政策の『結果』ぞ。」

「…‥?」

信之は、信長の言葉に首を傾げる。

「毛利は、戦を嫌った。攻めるも攻められるのも嫌った。自身が統治する国を荒らされるのを酷く嫌った。中国統一に限らず、他国でも統一すらば、真っ先に狙われるは、一律以上に発展した国ぞ。周防長門国は『西の京』と呼ばれ、外交も盛んで、富も豊富。となれば…‥?」

「狙われるのは、周防長門国、という事ですね。」

信長の言葉に、信之は即座に理解し答える。

「故に、毛利は周防長門国を封国した。封国し、外部との接触を全て禁じた。逆らおうものなら、無慈悲な処罰を下した。そして、此れ以上、栄えぬ様に、貯蓄されていた富も全て取り上げたのだ。」

信長はそう信之に語る。

「…‥民が潤うから、国が潤う。国が、民が潤えば、自らも潤う。国を栄えさせる為には、民、国、領主、此れ等が同率で栄えなければならぬ。一つでも欠ければ、国の安寧は皆無。其れを毛利も、小早川も分かっておらぬ。」

信長は、此処まで言うと、静かに目を閉じる。

「…‥此の国を救う事は出来ないのでしょうか。」

「難儀な事ぞ。」

「………………‥」

「一度、植え込まれた疑念や嫌悪を消すには、相当な時を要する。一人一人を説得しようものなら、更に刻が掛かる……‥うむ、元就、此れが『狙い』か。」

説明を一度、途切らせ考えを巡らせ、信長は納得した様に頷いた。

「信長公?」

「元就は『わざと』此の国の全てを封じたのだ。」

「其れはどういう…‥?」

「信之よ、卯ぬならば、自らに強き疑念を向け、何を言っても、信じる事をせぬ。民の心は頑なに閉じられている。そんな国を、どうする?」

「…‥切り捨てますでしょうか。どんなに政策を変えても、民の暮らしを豊かにしても、心を開かぬならば、そんな国など…‥っ!?ま、まさかっ?!」

「流石、信之。気付きおったか。そう、其の『まさか』ぞ。元就は其れを此の国に行ったのだ。全てを奪い、此の国を救う等、微塵も無い。そうする事で、此の国の民の心までも封じたのだ。さすれば、奪う側は、こんな国等要らぬ、と攻めては来ぬだろう?」

信長は、そう説明し、周りを見渡す。

相変わらず、民達の視線は疑念を帯びたものだ。

其れを信之は哀しげに表情を歪ませた。

「そんな事をすれば…‥此の国は…‥っ!」

「日ノ本に在りながら、日ノ本では無い国になるであろうな。」

「……………‥」

信之は思い出す。

家康もまた、元就と同じ様な処罰を与えた事を。



『未来』での関ヶ原合戦で、家康の味方に着き、家康の戦を助け、勝利に貢献したというのに、家康は領地を、富を、元就の様に再び奪った。

一度ならずも二度までも、と苦汁を飲まされたのにも関わらず、明治に入り、奇兵隊結成を許した毛利が、戊辰戦争が終結した後、掌を返し、奇兵隊狩りを行い、まさかの三度目は同族の裏切りで、全てを失った。

そうした経緯の結果、此の国の者達は、『国内人』は信じられない、信じられるのは己が自身、若しくは『国外人』だ、と考える様になり、国内人との交流をせず、海外との交流を主とした現在の『山口』が出来上がった。

米国が山口に米軍基地を配備したのは、こういった理由からでもある。

山口は、北朝鮮、韓国、中国(2014年までは友好であったが、2017年現在は不明)とは友好関係にある。

つまりは、山口に何か遭った時、山口住民達が其の国と手を組み、何等かの紛争を起こしてしまえば、不利になるのは米国である。

そうさせない為に、山口を『監視』する目的で米国は基地を据えたのだ。



「…………‥」

信之は黙り込む。

「気に病む事は無い、信之。此の国の者達は『分かって』おる。」

「……‥?」

信長の言葉に、信之は再び首は傾げる。

「確かに、他から来訪した『国内人』には警戒心が強いが、同じ国内人でも心を開き、許した者には『おおらか』ぞ。」

「ですが、心を開くには難儀だと…‥」

「確かに、難儀ではある。だが、逆を考えれば、心を許した相手には、強き『約定』若しくは、『同盟』を結んでくれる、という事ではないか?『盟友』になってしまえば、其の強き疑念も、強き『力』になると思わぬか?」

「あ…‥っ!」

信長の言葉に、信之は小さく声を上げた。

「だが、『今』は動かぬ方がよかろう。元就が植え込んでしまった疑念が強過ぎて、予達を完全に元就と『同人』と思われておる様だからな。」

「はい、哀しい事ではありますが、今は視察という名の物見遊を楽しみましょう。」

信長は、信之の思いも寄らない言葉に少し目を見開くが、直ぐに目を細めて、喉を鳴らして笑った。

「信之も言う様になったの。そうさの、予も国内に頼らず、国外を頼り、発展した国には興味がある。見て廻るには異存は無い。」

「其れは良かった。では、参りましょうか、信長公。」

「うむ。」

信之の言葉に、信長は短めに返事を返すと、ゆっくりと足を進めていった。










色々な市を見て回りながら、信之はちらり、と隣に居る信長を盗み見る。

自国では見掛けない品がある度、信長の表情は輝いていく。

中でも、自国では見掛けない食物に興味津々で、信之の存在すら忘れて魅入るぐらいで、正直、信之はその食物に悋気(嫉妬)すら覚えてしまう。

人ではない物にまで悋気してしまう自分に信之は苦笑いを浮かべるが、其れだけ、自分は信長に惹かれている事を改めて自覚する。

だが、信長が何時も以上に楽しんでいる事に、信之は自然と笑顔になり、素直に嬉しいとも感じた。

「…‥?此れは何ぞ?」

信長が何かに気付き、商人に聞く。

そんな信長の声に、我に返った信之も信長の隣から覗き込む。

「此れは…‥?」

其れを見た瞬間、覗き込んだ信之ですら、眉間に皺を寄せ、難しい表情をする。

魚の身と呼ぶには、若干薄く、少し皺があり、見た目、パサつきがありそうな粉っぽい姿身をしている。

「ああ、此れですかい?此れは、『おばいけ(尾羽毛)』と呼ばれるもんでさ。」

「…‥?」

信長と信之は、聞き慣れない言葉に、益々分からんとでも言わんばかりの表情をする。

其れを見た商人は、二人の反応に小さくくすり、と笑った。

「此の周防長門国で一般に食されているもんでさ。尾羽毛ってのは、鯨の肉の中で最も美味しいとされる、身と尾の間の部分の肉を指すんでさ。塩漬にして、薄く切って熱湯をかけ、冷水でさらしたものを「さらしくじら」と言って、「おば雪」「花くじら」とも呼ばれてますわ。」

「ほう、此方では、鯨は食用として重用されておるのか。」

信長は、鯨が食せるものだ、と理解したと同時に、鯨が食べれるものだ、という事に驚きを素直に示した。

「…‥此の国に措かれた状況を考えれば、食えるもんは食うって感覚ですわ。」

次に発した商人の言葉に、信長と信之は怪訝そうな表情をした。

「領地を縮小され、稼いだもんまで奪われて、土地は毛利の殿様が大内一族を追い詰め、根絶やしにする為、火攻めを行った。結果、土はどす黒く『死んで』しまい、作物は録に育たなくなってもうた。で、陸からは食いもんは手に入らんちゅうんで、海から食料調達せにゃあならんようになってもうたんや。「うに」も其の一つでさ。」

商人はそう言いながら、土色の食材を差し示す。

「殻に載せて炭火などで焼いて焼きうにとして、湯通しをしてお吸い物の具として食べられる他、長門国では、萩の「うにめし」が有名でさ。他には、飛龍頭(ひりょうず)がありまさぁ。飛龍頭とは、豆腐を小さく擦り潰した小魚と混ぜ合わせ、丸く形を整え油で揚げたもんでさ。で、長門国の岩国で主に食されている「茶がゆ」がありまさぁ。」

「茶がゆなら、私も聞いた事があります。」

信之が不意に信長に声を掛けるが、直ぐに少し眉間に皺を寄せ、説明しても良いものかどうか、悩む様な難しそうな表情をした。

信長が信之に説明の続きを促す様に、側に寄り、耳を寄せた。

信之は、そんな信長に商人にだけ聞こえない程の小さな声で耳打ちした。

「番茶を煎じた中にお米を入れて炊き上げたものです。あっさりとした番茶独特の風味と味わいがお米にしみ込んで美味しいのですが、此の料理が生まれた一番の原因は、関ヶ原の戦の後に行われた、家康の土地滅封です。『当時』の岩国藩の厳しい情勢の下、米の節約をするための食事として食べられるようになったそうです。」

「……………………‥」

信長は、信之の説明を聞き、眉間に深い皺を寄せる。

そして、関ヶ原合戦後、民だけで無く、役人から武士まで、そんな貧しい食事をせざるを得ない状況下にあった『当時』の周防長門国に哀れみの意を示した。

『現在』の周防長門国が置かれている状況を作ったのは、徳川ではなく毛利だが、食糧難や生活苦は『未来』での関ヶ原合戦後と何等変わりは無かった。



信之はそんな周防長門国を見つめ続けて来た。

都会大名は豊かに、繁栄を続ける一方で、家康の比護下にない地方大名は次々に衰えていった。

其の様を信之は否応なしに見つめて来た。

見つめるだけで何も出来ずにいた自身を呪った。

家康の圧力も掛かり、自身も自由に動けずにいた信之。

家康に味方したばかりに、自由を奪われ、半ば軟禁状態にあった。

そして、歳を重ね、隠居しても不思議は無いくらいの歳になった時、此処で信之は漸く気付く。

自分は家康に『嵌められた』のだ、と。

真田家を守りたい、幸村を昌幸を護りたい、そんな強き思いを家康に利用されたのだ、と。

其れを知った時、信之は自身を酷く罵った。

何が、昌幸に劣らずの叡智の持ち主か、と。

だからこそ、『救えないか』という言葉が信之の口から出たのだ。

『未来』では救えなかったが、『現在』では救える。

其の想いが信之の中にはあるのだ。



「『救う』為に動くは、『今』に非ず。」

そんな信之の想いを信長は親身に受け止め、今度は信長が信之に耳打ちする。

「信長公…‥」

「信之の気持ちは、重々理解出来る。が、今動いては、予達は元就と『同じ』になる。事を急いては、事を仕損じる。事を起こすも、先読みが吉ぞ。」

「はい…‥」

信長の言葉に、信之は唇を噛み締め、小さく短めに二つ返事を返した。

「其れに、時は早い内に訪れる。」

そう信長は、ちらり、と商人に目を向ける。

信之も信長の視線を追い掛け、商人を見る。

そして、気付く。

「あ…‥っ」

商人の表情が一変していた。

商人だけではない。

周りに居る民達の表情も変わっていた。

信長達を見る目が、嫌悪感、警戒心が含んだものではなくなっていた。

恐らく、信長が彼是商人に問いを投げ掛け、其の説明を真剣に聞き、表情豊かに頷いていた為、信長達は毛利とは違う、と判断したのだろう。

そんな姿を見て、信之は信長が先程言っていた言葉の意味を理解した。

そして、まだ動く時ではない、と言った言葉も。

今はまだ、皆の心は開き掛けの状態。

此の時に、動いてしまえば、再び心は閉じられてしまう。

そうならない為に、今は見守りの時期。

信之は、何時か此の国の民達とも理解し合い、揺るぐ事の無い約定が結べる日が来れば良いと願いながら、先の未来では得られなかった違う未来が此の後に訪れようとしている事に心を踊らせた。










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