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誰が為の未来 9幕







「敵戦艦は、モンスター・キャリアー・『大和』クラスが二隻と正規空母七隻を含む九隻です。」

日本軍の不可思議な戦闘に疑問を感じたベイツは敵の狙いを絞る為、思考を始めた。

「『大和』クラス以外の艦は識別出来んのか?」

「『アップルガス』のレーダー分解能ではそこまでのデータは無理です。もし知りたければ肉眼確認しか方法はありません。」

「だが、アップルガスには護衛戦闘機『P-38』がついとるだろう?」

「はい、然し、報告では七〇〇〇メートル以外の空域には日本戦闘機が多数、上空を展開中だという事です。」

「うむ、そうだな。いくら改良型の『P-38』でも確実に撃墜されちまうか…‥」

司令官の言葉にベイツは、黙って頷く。

「…‥で、現時点で『大和』クラス二隻を含む敵空母を九隻とすると、敵機の総数はこうなります。」



『大和型戦艦×2(170機×2)』
『正規空母×7(80機×7)』
=900



「成る程、敵艦載機数は約九〇〇機か…‥」

「その九〇〇機より、先ず第一波と第二波の合計約三〇〇機を引きます。で、残りの敵機は六〇〇ですが…‥敵の今までの攻撃隊は殆どが戦闘機です。」

「従来とは編成が違うというわけだ。」

「ええ、そこでこう『仮定』します。提督は、敵艦隊の直隊は何機かと思われますか?」

「最低でも一〇〇機はいる筈だ。機体性能を考えれば、一五〇機は欲しいぞ。」

「同感です。では一五〇機と『仮定』します。」

ベイツはそう言って、止めていた手を動かし、更に数式を書き込んでいく。



『600−150=450』



「つまり、敵が此方に投入可能な機数は四五〇。編成は一応、戦闘機一、攻撃機二、の比率だと『仮定』しておきます。すると…‥」



『戦闘機150(1):攻撃機300(2)=450』



「うむ、四五〇機か。まさか、これを一度の攻撃で使用するとでも?」

「いえ、恐らく、波状攻撃になるでしょう。然し、一定数を投入しない限り、戦果は望めないのも確かです。」

「ベイツ、結論を言ってくれ。敵はどれほどの戦果があがると君は『仮定』しておるんだ?」

提督の言葉に、ベイツは一瞬、言葉を詰まらせるが、戸惑いながらも再び口を開いた。

「…‥此の後に来るのは日本のエリート部隊の筈です。従って我々の迎撃隊の命中率を思い切って二五パーセントと『仮定』します。すると、敵攻撃隊の二二五機が突破に成功する事になります。」

「二二五機か…‥その内の二五パーセントを撃墜出来たとすると…‥」

「今度はVT通菅も加わりますので、二五パーセントはいいシミュレーションでしょう。そうなれば、投弾に成功するのは約一七〇機…‥更に、先に撃墜されたうちの四五パーセントを投弾に成功した後に撃墜されたものと想定し、それを加わえますと…‥」

ベイツはここで一旦、口を閉ざす。

計算すればするほど、明らかにされていく日本軍の残酷な真の作戦。

ベイツは明らかになる作戦に、眉間に皺を寄せる。

「すると、投弾に成功するのは、合計一九五機という事になるな。きりのいいところで二〇〇機としておこう。」

「其の二〇〇機の投弾命中率を二五パーセントとすると、我々は五〇発の魚雷・爆弾をくらうことになります。」

「…‥五〇発か…‥それを重巡と空母に三発ずつの命中と割り振ったら…‥成る程、一時的にせよ、我々は戦闘不能にさせられるな…‥」

「はい、しかも、実際にはVT通菅のない艦もありますから、損害は更に広がるはずです。恐らく敵は、そうやって此方を戦闘不能に追い込むつもりでしょう。」

「それにしても、ジャップの奴等、余りに酷い作戦じゃないか。正に人命の浪費だ…‥いや…‥だが…‥」

提督は、口を噛む。

「…‥これが『戦争』というものかも知れんな…‥」

口を噛み締め、天井を仰いだ提督は小さくぽつり、とそう呟いた。

「成る程、これがベイツ中佐の送ってきた『日本の想定』か…‥」

ベイツの想定した解釈は、他の部隊にも通達された。

「然し、『こんなもの』は全て日本人が自分達の『都合良く考えた想定』に過ぎんよ。」

だが、他の部隊は、目の前の完勝に酔いしれ、後の憂いを真剣に受け止める者は誰一人していなかった。

「現実には『ベアキャット』には少なくとも五対一の撃墜率を確保しています。既に、敵『ファイター・スイープ』の約四割は撃墜されるか、離脱を余儀なくされる程の状態にも追い込まれた筈です。」

司令官は、そう答えると、高らかに笑い、ベイツの『想定』を却下した。

ベイツの『正解』は、能無しの間違った『数式』と『答え』で、全てが此の瞬間に台無しとなったーーーー…‥










「攻撃隊の状況は?」

「既に第一波と第二波が入り乱れています。第一波よりも先に攻撃態勢に入っている第二波さえ出始めた様で…‥」

「構わぬ。総計を教えよ。」

「はい、五〇機を超える攻撃隊が突入を開始した様です。」

「分かった…‥」

(つまり、ロケット弾搭載の『烈風』五〇機が『目標』を目指しておるという事か…‥)

信長は思考する。

(第一波一〇四機のうち、攻撃隊は三二機…‥第二波一七三機のうち、攻撃隊は六八機…‥第一波と第二波の攻撃隊の合計は一〇〇機…‥)

こん、と指先で資料が挟まれたバインダーを叩く。

(つまり、突入を開始した五〇機の攻撃隊は全体のうちでは一八パーセント。攻撃隊だけに限って言わば、きっかり半数が通過したわけだ。)

信長は、目を細める。

(つまり『囮』として用いた残りの戦闘機隊は、充分に其の役割を果たしたということだ。)

す、と顔を上げ、険しい表情でスクリーンに映し出されている複数の紅点を見つめる。

(『囮』…‥即ち『生け贄』としての…‥『死』を代償とした役割を…‥)

信長は、見つめていた目を反らし、静かに其の目を閉じた。

(こんな愚策しか思い付かぬ予は…‥何時の『時代』も受け入れられぬ異端者であろうな…‥こんな人命を軽く扱う者に栄光は輝かぬ。ならば、其の栄光は卯ぬ等に照らされる様、細工しようではないか。)

後に軍傑将として語られる山本五十六、東郷平八?。

其の者達を思い出しながら、信長は次の策を実行すべく手にしたバインダーに視線を戻した。










「撃てっ!仰角をもっと下げろ!ジャップは艦のマストより低く飛んでるぞ!」

突入を完了した戦闘機は、墜とすべき戦艦と激戦を繰り返していた。

「敵艦は照準線に完全に入ってる。後は射程距離に入った瞬間にスイッチを押すだけだ!」

低空飛行を崩さず、確実に距離を縮めていく。

「待て!もうすぐだ!待て!まだだ!もうすぐだ!」

照準に入りそうで入らないを繰り返し、其の見極めを慎重に行う。

「入った!今だ!!!射(て)いっ!!」

叫んだ瞬間、後方で爆発が起きた。

「!?岡本少尉っ!!」

敵が照準に入ったと言う事は、味方機も照準に入ったと言う事。

一瞬の油断を突かれ、後方を飛んでいた岡本の戦闘機に着弾した。

岡本は弾の熱で焼かれながら、意識は最後まで指先まで巡らせていた。

腕が千切れ、離れていく感覚を覚えながら、岡本はミサイル発射のスイッチに意識を研ぎ澄ましていた。

(ただでは…‥逝かない…‥っ、さあ、一緒に逝こうか…‥糞ヤンキー共…‥っ!)

肉が熱で爛れ、自らの命が消え逝く様を感じながら、岡本は神経を完全に死ぬ寸前まで手放さなかった。

最後に岡本が見たのは、信長の姿。

(…‥後は…‥頼みます…‥っ、今から、多くヤンキー共を俺が連れて逝きます…‥どうか、日本の…‥『未来』を…‥っ)

此処で岡本の意識と魂が完全に消え失せた。

と、同時に千切れてしまい神経が通っていない筈の指がミサイル発射のスイッチを押した。

墜落していく戦闘機から放たれたミサイル。

これには、アメリカ軍にとって、予想外の出来事だった。

「っ!!回避っ、回避ぃっ!!面舵いっぱいっ!!」

だが、全てが遅かった。

ミサイルは迷う事無く、戦艦を目指し、物の見事に着弾した。

大爆発を起こす戦艦。

「ダメージ・リポートっ!!!」

「ブリッジに直撃っ!!」

「射撃指揮所は壊滅です!!」

大爆発を起こした戦艦とは別の戦艦が、大被害を受けた戦艦を救助しようと動き出す。

「あのウィンドゥをバラ撒いたサル野郎を絶対に逃がすんじゃねぇぞっ!!」

レーダーが使えず、目視だけで放つ大砲だが、反れて海面に着弾しても波しぶきが容赦無く田辺の戦闘機を直撃する。

其の大砲の命中率も次第に修正されてきて、田辺機に当たるのも時間の問題とされてきた。



だが、此処で異変が起きた。



「なっ!?」

遥か上空に別の戦闘機の影が複数現れた。

「て、敵機っ!!!上っ!!!敵機、急降下っ!!!」

「全機っ、あの艦をやるぞ!!構わねぇから、全弾発射だ!!!」

「くそっ、低空の奴に集中し過ぎて直上警戒が散漫になってた!!!早く、ブチ墜とせっ!エライ事になるぞ!!!」

直下しながら、味方機に無線で命令する。

「全機!!!『窓』をバラまくぞっ!!!用ぉ意ぃぃっ!!!」

タイミングを合わせる様に、味方機も隊長機の後ろに並ぶ。

「撃てっ!!!」

戦艦の頭上で、小さく爆発を起こし、銀色の破片が散らばる。

「なっ!!!う、ウィンドゥをまきやがった!!くそっ!!レーダーに頼るなっ、弾幕を張れっ!!!」

「よしっ、うまいぞ!これなら、成功する!!」

喜びも束の間、後方より砲弾が撃ち込まれてきた。

「なっ!『ベアキャット』だ!」

「逆上せ上がるなっ、ジャップ!!!てめぇら、一人残らず、ブッ殺してやる!!!」

ベアキャットからの砲弾をかわしながら、若い将校、吉田尚志中尉は直下にある戦艦だけを狙う。

「獲物は、お前だけだっ、ピケット艦!!!」

「敵機、直上っ!!降下っ!!と、取り舵いっぱいっ!!!」

垂直に戦闘機を安定させる。

「もらった!くらえっ!!」

掛け声と共にミサイルを発射する。

ミサイルは、迷う事無くブリッジに着弾すると、戦艦を紅の焔に染め上げる。

「くそっ!ジャップがっ!!」

ベアキャットから無数の砲弾が放たれる。

其の数弾が戦闘機の翼に直撃する。

そして、炎上する。

「ちっ!翼内タンクが引火しやがった!くそっ!!」

此のままでは墜ちるだけだった。

だが…‥

(脱出しても殺される…‥っ、戦闘機を粘って持ちこたえさせても殺される…‥っ、ならっ!!)

直下にある戦艦が視界に入る。

「ふ…‥分かったよ!これが俺の『運命』ってワケだ!!!うおぉーっ!!!」

操縦管を握り、目標を敵戦艦に定める。

迷う事なく、戦闘機は戦艦のブリッジ上へと墜ちる様に。

「さあっ、逝こうぜっ、ヤンキー共っ!!!後は全てアンタに委ねるぜっ、信長さんよっ!!!絶対に日本を『未来』へ連れて行ってやってくれよっ!!!」

戦艦にぶつかる瞬間、吉田の唇が動いたと同時に大音響と共に、戦艦が大炎上を起こしたーーーー…‥










『大日本帝国よ、未来に栄光あれ』

吉田が残こした言葉は、静かに燃える戦艦の爆発音で小さく掻き消されていったーーーー…‥










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