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桜舞う随想【十幕・変革の刻】

※お話を読まれる前に※



此の回には、信長が朝廷をどうしたかったのか、が書かれています。

今、歴史研究家達の間で議論されている謎の一つで、まだ、此れと言った『真実』は浮き彫りにされてはいません。

ですので、此処に描かれている内容は、多く出ている仮説の中で、一番、信憑性がある説を取り上げております。

あくまで信憑性が強いというだけの説ですので、此処に書かれている内容が全て『真実』という訳ではない事を御理解下さいませ。

其れ等を踏まえた上で、本編へと移動して下さいませ。
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桜舞う随想【閑幕3・幼き者達の覚悟の刻】







茶々が信長と初めて会ったのは、小谷城が堕ちた時だった。

黒い大きな馬に跨がって、まだ幼かった茶々を見下ろしていた。

綺麗な黒曜色の髪。

紅曜色の外套と髪の色と同じ黒曜石の鎧甲冑。

黄金の瞳で、真っ直ぐに見つめていた。

目が放せなかった。

綺麗と思ったと同時に、身体中に伝わって来る威圧感と圧迫感。

其の威圧感と圧迫感に刃を交えてもいないのに、殺されそうと嫌でも思い込んでしまう。

息を呑んで見つめていると、不意に空気が軽くなった。

「っ!」



一瞬、そう、一瞬だった。



茶々を見つめる目が柔らかくなった。

だが、茶々が瞬きをした隙に、其の表情は元の冷たいものに戻っていた。

茶々は、此の時、全てを感じとった。

信長は、本意に父・長政と母・お市を裏切ったのではない、と。

燃え堕ちる小谷城を見つめる目は、切なさと寂しさが織り混ざった複雑な表情をしていた。

茶々は、其の表情を見て、自分は信長の近くに居たい、と強く願ったーーーー…‥










薄暗い部屋の片隅で、一人の少女が膝を抱えて埋くまっていた。

そして、其の目の前には一人の少年が、埋まる少女を心配そうな表情で見つめる。

「茶々様…‥」

少年が小さく声を掛けるが、少女・茶々は少年の声にも反応せずに顔を膝に埋めている。

そんな茶々の姿に、少年は少し顔を俯かせ、泣き出しそうな表情をする。

「幸村。」

「佐助…‥」

す、と音も無く、少年・幸村の側に降り立った忍・佐助は、幸村に声を掛ける。

「はぁ…‥相変わらず、か。」

「うん…‥」

「そんな顔すんじゃねぇよ。信長を良く観る奴なんざ、此の日ノ本には、何処探しても居ねぇよ。」

佐助は、溜め息混じりでそう告げると、俯いている茶々を見た。

「でも、どうして、皆、信長公を悪く観るんだろう。信長公だって、優しいところはあるのに…‥」

幸村の素朴な疑問に、佐助は再び溜め息を吐いて幸村を見た。

「皆、欲しいんだよ。」

「欲しい?欲しいって何を?」

佐助の言葉に首を傾げながら、幸村は問い質す。

「自分を『正義』に見せる為の『悪党』が。」

「っ!?」

佐助の言葉に、幸村は息を呑む。

「茶々に、徳川に降るのが一番の幸せだって、豪語していた高虎もそうだ。信長に降ってしまえば、誰もが信長を悪く観て、自分を『正義』と見てもらえねぇだろ?だから、徳川に降って、信長を完全『悪』にして、自分の事を正当化したんだ。自分を『正義』にするには『悪党』が絶対不可欠だからな。信長の苛烈な戦は、自身を正当化するには、皆にとって『好都合』な存在なのさ。」

「酷い…‥」

幸村は、佐助の言葉に唇を噛む。

「だけどな、幸村。真の『正義』、真の『義心』を翳す輩は、『悪党』の存在なんて必要ねぇんだ。真に貫く思いを胸に秘めた輩は、悪党が居なくても、自身で其れ等を主張出来る力を持ってる。」

佐助は、そう告げると、茶々の目の前に跪く。

「茶々、だから、高虎の言った言葉なんざ気にすんな。」

ぽん、と茶々の頭に手を置き、優しい言葉を掛ける。

すると、茶々が顔を上げた。

「高虎の言葉は、全て綺麗事だ。自身の手で人を殺した事がないから、そんな戯言を平気でほざくんだ。」

佐助は、茶々を目の前にして茶々に言った言葉を思い出しながら、憎々しげに吐き出した。



『茶々様、俺と一緒に徳川へ行きましょう。信長に天下は治まらない。アイツが生み出すのは、破壊と殺戮のみ。信長が天下を統べれば、日ノ本は滅びます。其れに、信長の下に居れば、何れ、お市様の様に、政略に利用され、殺され兼ねません。今なら間に合います。茶々様、俺と一緒に徳川へ参りましょう。』



「大嫌い…高虎も…吉継も…皆…‥っ」

茶々は、高虎の言葉を思い出しながら、そう、辛そうな表情で呟いた。

「茶々様…‥」

茶々の呟きに、幸村も唇をへの字にして、自分も泣きそうな表情になる。

「…‥アイツ等は、茶々を見てねぇ。アイツ等が茶々を通して見ているのは、長政とお市の面影だけだ。誰も茶々自身を見ている訳じゃない。」

「…………‥」

佐助の言葉に幸村は黙り込む。

「自分を見てくれない事程、辛い事は無い。死人に捕らわれる事と死人を偲ぶ事は違う。高虎と吉継は其の事に気付いていない。」

佐助はそう吐き捨てると、茶々の前に跪付いた。

「茶々、そして、幸村、一つ聞いていいか?」

佐助の言葉に、茶々は俯いたまま頷き、幸村も黙って頷く。

「お前の叔父である信長の周りは、敵だらけだ。毛利、長曽我部、本願寺、そして、徳川。確かに、高虎の言う通り、信長が往く道は破壊と殺戮しかないのかも知れない。信長に着けば、自身に待っているのは、死だけかも知れねぇ。…‥其れでも、茶々は、幸村は信長に着いて往くか?」

まだ幼い幸村と茶々に聞くのは、残酷かも知れない内容。

だが、信長に着くと言う事は、『そういう事』なのだ。

幸村の父・昌幸も其れを理解した上で、織田に降った。

勝頼も、義元も、昌幸と同じで全てを理解し、覚悟を持って、織田と同盟を組んだ。

大人である昌幸達が覚悟を示した。

ならば、幼いとは言え、幸村達にも覚悟を示さなければ、此の先、生きて生き抜くなんて出来はしない。

「…‥兄上は、織田に降る前から覚悟を持って、父上に着いて戦っていました。目を背けたくなる様な血生臭い戦場でも、泣き叫ぶ事もせず、逃げもせず、顔を背く事もせず、父上と共に戦って来ました。其の姿を見て、私も『こうありたい』と常に強く思っていました。…‥ですから、もう、私の覚悟は決まっています。」

幸村は力強くそう答え、真っ直ぐに佐助を見据えた。

「私も、小谷城が堕ちて、織田に保護されて、叔父上と一緒に過ごす事で叔父上の本当の姿を知って、叔父上の側に居たい、叔父上の力になりたいって、ずっと思ってた。だから、聞かなくても、私の覚悟は決まってる。」

茶々もまた幸村と同じ様に、力強く、真っ直ぐに佐助を見た。

其れを見た佐助もまた、二人を見据えて力強く頷き返した。

「幸村達の覚悟は分かった。なら、今から、二人は信長の下へ行け。」

「え?どうしてですか?」

「信長に降る、其れが意味するのは、他の勢力から命を狙われるって事だ。そうなったら、一番に狙われるのは、幼いお前達だ。」

佐助の言葉に、二人は息を呑む。

「だからこそ、二人は信長の側に居るべきなんだ。其れに、俺は信長付きの忍だ。信長の側に居れば、二人も守る事も出来る。」

佐助は、そう言いながら、二人の肩をぽん、と軽く叩いた。

「そうですね、覚悟を決めたとしても、私達はまだ自身を守る術を持っていません。勝手な振る舞いをして、敵の手に堕ちたとなっては、信長公の足を引っ張り兼ねません。茶々様、佐助の言う通り、信長公のお側に参りましょう。」

幸村がそう茶々に告げると、茶々もまた小さく、こくり、と頷いた。

「力が欲しい…‥」

同時に茶々が呟く。

「力を欲するのは、まだ、早い。今は、護身の為に、力有る者を頼れ。力有る者に頼り、力を蓄えろ。時が来れば、其の力は自身の強みになる。」

佐助は茶々の言葉に、そう助言する。

其の言葉に、二人は力強く頷いた。










「茶々と幸村が決断したよ。」

「そうか。」

佐助の報告に、信長は小さく笑み、もう既に、二人の答えは分かっていたかの様に、目を伏せながら頷いた。

「…‥卯ぬは…‥」

「俺も、もう決断した。」

信長が何かを聞く前に佐助は言葉を発した。

「俺を拾って育ててくれた師匠…‥半蔵には恩がある。そして、俺を仕えさせてくれた家康にも。けど、其れは、織田に降る前までの話だ。信長付きの忍になった今では、そんなもの関係ない。俺は、俺自身の意思で半蔵と家康と敵対する。」

「…………‥」

佐助はそう言い切って、真っ直ぐに信長を見据えた。

信長は黙ったまま、佐助を見つめた。

「其れに、俺が着いていないと、アンタ、また、至らない業を背負いそうだもんな。其の至らない業を背負わせない為にも、俺が着いていなきゃあな。」

佐助は、そうおどけて笑って告げる。

そんな言葉に、信長もふ、と笑い、

「…‥で、あるか。」

と小さく呟いた。










様々な決意を胸に、信長の下へ終結する武士達。

全ての志は、信長へと流れていくーーーー…‥











ーーnext

真の信頼

前書き



え?何?新たにFFDのゲームが出た?アプリゲームで?

んで、記念にお話書いて…‥って、おいっ!?

此処は無双話を書く場だぞ!?



…‥ま、確かにFFDは好きだけどな。

しゃーない、書いてやるよ。

てな訳で、本編へゴー!!
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桜舞う随想【九幕・心絆の刻】







信長は、あの場から本殿へ入った後、其の場に立ち静かに目を閉じた。



『何を隠している?』



悟られてはいけない、と思いながら行動していても、矢張り、昌幸に気付かれてしまった。

だが、全てを気付かれた訳ではない。



――――まだ、冷血な魔王で居られる…‥



好きになってはいけない。

好きにならない。

惹かれる事もしない。

惹かれてしまえば、其れで終わり。

惹かれて、未来に帰れば、待っているのは、偉大なる虚無感だけ。



――――大丈夫。

まだ、大丈夫…‥



信長はそう自分に言い聞かせて、静かに目を閉じる。

かたり…と床を踏み締める音が聞こえ、信長の後ろに何者かが立つ気配を感じる。

その気配が、昌幸だと信長は一早く気付く。

「…‥真田軍総大将でもある者が、こんな所に居て、大丈夫なのか?」



――――ほら、大丈夫。

自分はまだ、冷酷な声が出る。



「勝頼が戻って来たのだろう?合流して軍議しなくとも良いのか?」

「其れは、勝頼様と氏郷殿に任せて来た。」

信長の言葉に、昌幸は冷静に受け答えをする。

「なら、貴男が此処に居る必要は無いだろう?策通りに動くならば。」

信長はゆっくりと昌幸に振り向きながら、そう冷たく流す。

黄金と栗色の瞳がかち合う。

暫く漂う沈黙。

「御主に話したい事がある。」

その沈黙を破ったのは、昌幸だった。

「予は話す事等無い。」

信長はそう言うと、昌幸の横を通り過ぎようとする。

だが、通り過ぎ切る瞬間に、強く手首を掴まれる。

痛みに顔を歪め、信長は昌幸を睨み上げる。

「逃げるな。」

「…‥っ!!」

強く、鋭く、昌幸にそう告げられ、信長は身体を強張らせる。

「逃げて、等…‥っ」

「ならば何故、何時も儂と話をする時、そんなに、今にも泣き出しそうな目をする?」

「っ!!」

昌幸の言葉に、信長は息を呑む。

(表情には出しておらぬ筈…‥っ)

「儂は…御主のそんな表情を見る度、心が苦しくなる。」

信長が思考している間、昌幸はそう言いながら、眉間に皺を寄せ、苦しそうに顔を歪ませる。

其れを見て、信長は不覚にも泣きそうな表情をする。

「御主の中の『何が』、そんな表情をさせている?」

真っ直ぐに見つめてくる栗色の瞳に、信長は零れそうになるのを必死に堪え、顔を俯かせる。

「信長公…‥?」

(『あの時』は、昌幸に背中しか見せていなかった故、良く分からずにいたが、思わば、昌幸はずっと予の傍に居たのだったな。)

信長は其処まで考えると、不意に顔を上げる。

そして、真っ直ぐに昌幸を見つめる。

其の瞳を昌幸もまた真っ直ぐに見据えた。



――――黒曜石の様な漆黒の髪。

冷ややかで黄金の鋭い瞳も、本当は人の温もりがある。



好きなのだ。

惹かれてしまったのだ。

ずっと、話しをしたかった。

何が遭っても、近くに居たかった。



「其れに先程の事を接触すべきではなかった、と、あれは…‥」

「昌幸…‥」

『どういう意味だ?』と聞こうとした言葉を、信長は遮り、ゆっくりと語り出した。

そして、昌幸もまた、その声で言葉を発する事を止め、表情に真剣さを漂わせる。

「大事なものを沢山、無くして来た。守りたいものを守る為の戦で、多くの人々の命を奪われた。」

信長から語られる事に、昌幸は黙って聞く。

「教えてくれぬか、昌幸。今まで、否の打ち所も無い様な強さを持っていた者が、大事なものを救う為に、守る為に、予と敵対して、その人は予に何を望む?」

信長は、『過去』の幸村を思い出しながら、信之の立場を自身に置き換えながら、其処まで言うと、今にも泣き出しそうな表情を一瞬だが歪ませ、昌幸を見上げた。

「『もし』、昌幸がそうなってしまわば、予に何を望む?」

昌幸は、その言葉に、一度瞳を閉じる。

「『もし』…か。難しい質問だな。」

昌幸は瞳を開くと、肩を窄めて、そう言葉を紡いだ。

その言葉を聞いて、信長はうなだれる。

(そうよな…武田が滅亡せず、勝頼が予と共に行動しているなら、あの出来事は、もう、起きる事は無い…‥)

「だが、守る為に信長公と敵対した時…‥」

不意に呟かれる昌幸の言葉に、信長は弾かれた様に顔を上げた。

「その時は、御主が儂を殺してくれ。」

「!!」

信長は、驚きで目を見開く。

「御主になら、出来るであろう?儂が自らの手で自身を殺す事が出来ねば…‥御主が救ってくれ。御主になら、其れも許そう。…‥ま、そんな時が来るかは、判らぬがな。」

昌幸は其処まで言うと、小さく笑った。



――――是が、あの時、幸村が兄である信之に望んでいた『想い』か?



信長は、目を見開いたまま、昌幸を凝視していた。

「ああ、其れともう一つ。『例え』では無くて、儂の望む事があるのだが。聞いてくれぬか、信長公…‥」

昌幸は、そう告げると、信長の頬に手を這わした。

「儂は…‥御主と共に『生きたい』。」

「昌…‥っ!」

ハッと我に返り、信長は昌幸の名を呼ぼうとした。

だが、其れは昌幸の唇が信長の唇を塞いだ事によって、皆無に終わった。

長くは無い、啄む様な口付け。

驚きで唖然としている信長に、昌幸は苦笑いを浮かべた。

「ま、この望みは、永久に叶え続けて欲しいものだがな。」

頬を赤らめ、そっぽを向き、昌幸はそう呟く。

その呟きで、信長は悟る。



『過去』の昌幸も

今『現在』の昌幸も

『未来』の昌幸も

皆、同じ『真田昌幸』である事に変わりは無い。



勝頼を亡くして、初めて、弱音を吐いた弱い昌幸。

皆に、重たい『真田家』と言う荷物を背負わされ、その重圧に押し潰されそうになり、全てを投げ出しそうになった弱い昌幸。

昌幸自身、そんな弱い自分を知っていたから、昌幸は強くなった。

『未来』も変わっていく。

其のどれもが、変わらない『真田昌幸』という人間なのだ。



信長は、フッと小さく笑った。

そして、そんな信長の笑みに、昌幸は驚きで身体を強張らせる。

(好意を持って良いのか…‥?)

キュッと掌を握り締め、僅かに震わせる。

(もう、未来は変わってしもうたが…‥)

信長は、強く唇を噛み締める。

「信長公…‥何をそんなに恐れているのか、分からぬが、もう、怖がる必要は無い。」

昌幸は信長に、そう告げた。

「…‥?」

「是からは、儂が御主を守る。何が遭っても守り抜く。」

昌幸の強い意志に、信長は不覚にも泣きそうになる。

「迷惑…か…‥?」

眉を寄せ、静かに顔を歪める信長に、昌幸は少し自信無さ気に問い質した。

そんな昌幸の言葉に、信長は首を左右に振る。

「否…‥迷惑ではない。」

信長は小さく笑い、そう告げた。

そんな信長の表情を見て、昌幸は一瞬、驚いた表情をしたが、直ぐに笑みを浮かべると、信長をしっかりと見据え、黙って頷いた。

瞬間、遠くから銃声が響き渡った。

「どうやら、光秀が敗走する足利軍を捉えた様だな。」

「そうだな、では、参ろうか、信長公。」

信長は昌幸の言葉に頷き、昌幸と共に本殿を後にしたーーーー…‥










そして、この日、二人は互いの心を通わせ合った――――…‥










――next

桜舞う随想【八幕・政宗決意の刻】







『もし、自身の力で伊達家存続を望むならば、今は駆ける時では御座いませぬ。』



冬姫の言葉が、政宗の頭に鳴り響く。

政宗は、其の言葉が引っ掛かり、冬姫が去った後も動けずにいた。

小十郎が冬姫の言葉は気にせず、徳川の下へと駆けるべきだ、と助言したが、何故か政宗は小十郎の言葉に頷けずにいた。

そして、暫くして政宗は、全軍を奥州へと引き上げる指示をした。

此れには、流石の小十郎も驚いていたが、政宗は気にはしていなかった。

伊達家を存続する為に、自らは何を成したのか、そう問われて、政宗は答えられずにいた。

否、答えたくとも、答えられる様な事は何もしていないのだから、答えられる筈も無かった。



其の事が、政宗には無性に悔しかった。



伊達家が傾いた時、政宗はまだ十も満たない幼子だった。

病に倒れ、誰もが政宗に近付かぬ状態。

信頼心も忠誠心もない家臣達の中で、伊達家が守れるか。

幼い自分に伊達家の何が守れるか。



然し、其れは今にして考えれば、言い訳にしか過ぎない。

あの信長ですら、裏切り、寝返り、内通、様々な困難が降り注ぐ中、自身の力で傾いた織田家を持ち直させる事が出来ている。

自身に着かない家臣も多く、自身を信頼していない者も多かったにも関わらず、だ。

其れを考えると、もし政宗が伊達家の事を本気で守りたい、と思えば、幼くとも、何らかの方法で守れた筈。

なのに、自分は小十郎に全てを任せ、何もかもを小十郎一人に押し付けた。

今まで、小十郎に任せっきりで、今更、自分に何が言えようか。

だが…‥

(冬は言っていた。自身の力で、と。)

其の言い方だと、まだ、自身には伊達家を背負っていく力が残っている、と解釈が取れる。

政宗は考える。

(まだ…‥間に合う…‥のか?)



此の手に、伊達家を背負う権限を取り戻せるのか?



す、と政宗は立ち上がる。

そして、愛銃と愛刀を持ち、其のまま屋敷を飛び出した。










冬は、じ、ととある箇所を見つめる。

暗闇が続く空洞。

闇ばかりが続き、其の先を見る事は叶わない。

だが、冬は、其の暗闇一点を見つめ続ける。

そして、不意にふ、と笑みを浮かべた。

と同時に響いて来る蹄の音。

次第に近付いて来る一頭の馬。

其の上には、隻眼の男。

馬は冬の隣で立ち止まった。

「矢張り、来られたのですね。政宗殿。」

「儂は…‥」

「決断するには、まだ、早過ぎまする。」

「何故…‥?」

冬の言葉に、政宗は目を見開く。

「私は、父上から政宗殿を寝返させろ、とは言われてはおりませぬ故。」

「然し…‥」

「御家存続の為、貴方様は御一人で此処に来られた。…‥其れだけで、十分で御座りまする。」

冬は目を細めて笑った。

「貴方様は、今はまだ織田の『協力者』として周りを見極めなさりませ。織田か、徳川か、どちらに着くか決断するは其の後でも遅くはありませぬ。」

「…‥そうか。冬殿がそう申すならば、儂は織田の協力者として、織田に着こう。」

「あくまで協力者、で御座います。もし、織田に居る必要性が無くならば、何時でも離反しても構いませぬ。」

政宗の言葉に、冬はそう告げる。

そして、其の言葉に政宗も頷く。

「さて、そうと決まらば…‥」

冬が再び目を細めて笑うと、政宗が乗って来た馬に跨がり、政宗の腕をがし、と掴んだ。

「狽ネっ!?何じゃっ?!」

突然の事に政宗が驚きで目を見開く。

「!Σ( ̄□ ̄;)」

次に、ぐい、と意図も簡単に片手で政宗を引き上げると、自らの前に政宗を座らせた。

(女子に片手で軽々と…‥儂、男子…‥男じゃぞっ!其れを軽々と…‥片手で…‥軽々と…‥)

馬に跨がわされた状態で、政宗は内心、衝撃(ショック)を受けていた。

「政宗殿、しっかりと口を閉じておいて下さりませ。此れから、駆けまするっ!はっ!」

冬は、そう政宗に声を掛けると、馬に鞭を打ち、馬を駆けさせた。

「ふっ、冬殿っ?!」

「黙りませっ、舌を噛みまするっ!!」

「煤I!?Σ( ̄ロ ̄lll)」

政宗を一喝する冬姫の姿に、政宗は一瞬、信長の影を見た。

(魔王の娘、恐るべし…‥)

政宗は冬姫の態度に、流石に黙り込んだ。

そして、馬に揺られながら、政宗は信長の娘や息子等には、逆らう事は絶対にすまい、と改めて心に誓った。










「此処…‥?」

「本能寺で御座りまする。」

冬姫に連れられて来たのは、一つの寺院。

「冬殿!」

「勝頼様、勝頼様も来られたのですね。」

「ああ、義元殿も居られる。」

勝頼が冬姫に駆け寄り、そう声を掛ける。

「では、全て父上の策略通りに?」

「ああ、全ては順調に、な。」

「そうですか、良かった…‥」

勝頼の言葉に冬姫が安堵の笑顔を浮かべる。

「父上は?」

「本殿に。」

「義昭達を引き付けて居られるのですね?」

冬姫がそう呟き、心配そうな表情で本殿を見つめた。

「大丈夫だ、冬殿。昌幸も一緒だ。」

「昌幸様も?…‥ならば、安心ですね。」

冬姫は、目を細めた。

「ん?そちらに居られるのは、政宗殿か?」

勝頼が政宗の存在に気付き、冬姫に問い質す。

「はい、ですが、あくまで協力者故…‥」

「そうか、其れでも構わない。重要なのは、伊達軍が徳川に着かない、という証なのだから。」

少し意味ありげな言葉を勝頼は吐き出す。

勝頼の言葉に冬姫が頷く。

「冬殿、一体何が…‥」

「今川軍、北に配陣っ!」

「武田軍、南に配陣っ!」

「真田軍、東に配陣っ!」

「明智軍、西に配陣っ!」

政宗が今から何が起こるのか、質問しようとした瞬間、次々と伝えられる情報。

「本殿を包囲?」

「足利軍の退路を断つのが、我々の役目だ。」

勝頼が政宗の問いに答える。

「え?じゃが、本殿には…‥」

「父上は、義昭を罠に嵌めるには、自分が『餌』にならなければいけない、と自らが囮になりました。」

「義昭が執着しているのは自分だから、義昭を誘い込むのは自分でなければいけない、と信長公はそう仰有っていた。」

「じゃが、一歩間違えれば…‥っ!」

「だからこそ、です、政宗殿。」

政宗の言いたい事は、皆、分かっていた。

「だからこそ、の我々だ。」

勝頼が力強く答えた。

「信長公は、俺達を信じて、自ら囮を駆って出た。我々ならば、仕損じる事はない、と信を置いてくれた。ならば、俺達は、俺達を信じてくれた信長公の命を何が遭っても散らせない。」

勝頼の言葉に、冬姫は強く頷く。

「二条城は我が夫、氏郷様が抑えてくれています。」

「二重断殺…‥」

政宗の呟きに、勝頼と冬姫が頷く。

其の頷きに、政宗は唖然とする。



何という徹底。



(一つの退路だけならず、もう一つの退路まで断つとは…‥)

「完全に相手の戦意を喪失させるには、自分は此の者には絶対に敵わない、絶対に逆らっては生きていけない、と思わせなければいけない。」

「そう思わせるには、完全に逃げ道を塞ぐが得策。そして、敗走する者にすら、情けを掛けてはいけない。断滅させる勢いの覚悟を持たなければ、抵抗勢力は後を断たない。」

「だからこそ、の包囲だ。」

政宗の意図を読み取り、勝頼と冬姫がそう説明する。

「…………‥」

政宗は、全てを悟った。



何故、あの当時、まだ若輩者だった信長が織田家を存続させる事が出来たのか。

何故、家臣や身内の裏切りが絶えなかったのに、信長は一人の力で織田家を建て直せたのか。

其の謎が今、此の場所で証明された。



信長は、全てを許さなかったのだ。

裏切り者も、内通者も、離反者も、謀叛者も、全て。

織田家にとって、膿でしかない者は全て断殺の対象としていたのだ。

其れが、例え血を分けた親兄弟でも、同じ。

他者から見て、其れが残酷で惨い事に見えても、信長は手を緩める事はしなかった。

家を守る、とはそういう事なのだ。



すると、遠くから銃声が聞こえて来た。

「…‥光秀殿が攻撃を開始した様だな。」

「はい、勝頼様、私達も参りましょう。」

「ああ。」

「政宗殿。政宗殿は、此の冬と共に二条城へ。」

「…‥分かった。」

其の声を合図に、勝頼達は頷き合い、それぞれの場所へと駆け出して行った。










(どちらの味方に着くか、等と考えずともよい。此の状況を見れば、自ずと分かるわ。)

政宗はそう考えると、口元を緩め、心の中で、はっきりと決断を下したーーーー…‥










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