2017-6-30 13:51
月見の後ってどうなったの?な、打ち上げ話(月下の楽園 より)
「収録お疲れ様でした。ドラマ シャングリ・ラ 2クール目までレイさん、黒兎さん、徨夜さんクランクアップでーす。拍手!!」
監督や音響、カメラ、それぞれのスタッフの笑顔に囲まれた3人に色とりどり、鮮やかな花束が渡される。お疲れ様。の意味を込められて渡されるそれに最初は戸惑ったものの、へんにゃりと微笑んだレイ。黒兎と徨夜は自らの花束に入っていたアルストロメリアと青い薔薇を今回の主役であるレイの髪に差した。
レ「わわっ、ありがとうございます。スタッフのみなさんも本当にありがとうございます!!」
徨「おおきにー♪」
黒「おおきに。」
ここで主役の輪から外れた徨夜が自分のマネージャーと共に人数分のカップを持って戻ってきた。恭しく2人にカップを渡すと「んんっ」と喉を鳴らして音頭を取る
徨「それではァ、今までの頑張りと皆さんへの感謝と、これからしばらくのお別れに!!」
レ「乾杯!」
黒「かんぱーい!!」
そうして打ち上げとは名ばかりの宴会が始まる。移動?そんな野暮な事はしない。今日限り、ロケ地であった屋敷は貸し切りになっているのだ。それと交換条件としてCMを1つ撮る。なんて大人の事情も織り混ぜながら始まった宴会で、皆の手にあるカップには紅茶色のアルコール。それはドラマの中でもちらりと姿を見せたカクテルで、先にオールアップしていた徨夜がふんふん鼻歌を歌いながら作っていたらしい。
軽くつまめる物も用意されていて、これらを用意していたスタッフ達の行動力に拍手を送りたい。
そんなこんなで其々がお世話になったスタッフ全員に個別で挨拶廻りをし終わるとタイミングよく徨夜も四阿(作中で月見に使った場所で、あわよくばDVDの特典映像をも撮ろう。という魂胆が見える。が、カメラは設置されていない)に戻って来ていて、持参したリキュールやジン、ウォッカ、見たことのない酒瓶に囲まれてオリジナルカクテル(新種のカクテル)を飲んでいた。
徨「おっかえりィ」
黒「日本酒ないんー?」
徨「あるでェ……えー、…てれれれってれー♪ひめ〇ん!!」
黒「ひめ〇ん」
レ「ひめ〇ん」
黒「女子か」
徨「なんやけったいなヤツやな……。えー、んーならァ…」
足元のクーラーボックスを探って、あれでもないこれでもないとぶつくさする徨夜を、酔いも手伝っていつもより柔らかくなった表情の黒兎が見詰める。それを見ていたレイの中にふと疑問が湧いた。
レ「そういえば…黒兎さんと徨夜さんは同期、なんですよね?」
黒「んー。せやなぁ」
徨「あっ、あっ!!」
突然奇声を上げて大事そうに瓶を抱えた徨夜が会話に入り込み、満面の笑みで2人に瓶を見せた
徨「どない?」
黒「………」
レ「南部〇人?」
徨「おん!!ワシ、きょうび東北のお酒にはまっとるんよ」
黒「あれか、お前次のロケ東北か」
徨「んん、まァ。」
レ「あ、もう次のお仕事決まってるんですね。良いなぁ」
黒「それもこん作品んおかげやな」
徨「あんー?マネージャーはんから何じゃも聞おってへんの?ワレらこれから忙しくなるやろ」
飲むかどうかは分からないが新しいカップに酒を注いでいく徨夜。お試しを兼ねているのか少しの量で、レイと黒兎に渡した。
徨「んにャ、東北のお酒に感謝やでェ」
レ「んっ……んん?」
黒「んんー……。レイはんには早かったかもやな」
徨「せやんなァ。レイ、無理して飲まんくてもええぞ?ワシ飲むから」
レ「すみません…お願いします……」
レイから戻されたさほど減っていない酒をするりと干して代わりに水を飲ませた。黒兎は勝手知ったる何とやらで入っている酒を吟味してはカップに注いでいく。
名月も斯くやの満月が辺りを照らしている。吹く風も心地好く、ドラマで演じていた彼らの拠点として親しんだ屋敷ともしばらくはお別れか。としみじみしていると向こうから数人のスタッフがこちらに向かって手を振っていた。
レイの人見知りを気遣ってスタッフ陣は少し離れた場所で飲んでいるのだ。
でも、誰に手を振っているんだろう?
首を傾げたレイとほぼ同時に離れているスタッフが叫んだ
「よっ!!色男!!早く嫁さん紹介しろ!!」
嫁さん。つまりはお嫁さん。キョトンとしているレイを気遣って苦笑いを浮かべる黒兎と徨夜。撮影中あまり仲の良くなかった2人が、同じ表情をしている。またしても、もやもやと浮かぶ疑問。
レ「お嫁さん……」
徨「喧しいわwww!!そん台詞、のし付けて返したるwww!!」
黒「喧しいのはお前はんや。レイはんが驚いとるやろ」
そう言いながら徨夜の頭を軽く叩く黒兎。叩かれた本人はばつが悪そうに眉を下げてレイに謝罪した。
徨「ほァ…、すまん」
レ「あ、いえ。大丈夫です。」
徨「何や気分でも悪いんか?」
レ「あの…徨夜さん、結婚するんですか?」
徨「ん?え?なに?」
よう聞こえへんかったわ。と続けて酒を注いだ。レイにも軽めの酒を渡して、さてどうぞ。と向き直る。何故か黒兎は無言のままでこの空気を楽しんでいた。
徨夜の真っ直ぐ、射貫くような視線に少し怯みながらも口を開く
レ「だから、あの、結……」
「「「「徨夜さんご結婚おめでとうございます!!」」」」
徨「おわ!?」
何処に隠れていたやら赤い顔した徨夜のマネージャーがカメラを回してケラケラ笑っている。撮影スタッフ数名が抱えていた大振りの花束(クランクアップ時に渡された物とはまた別)に押し潰されて消えた徨夜もばっちり撮影されたようだ。
どうやらマネージャーもスタッフも酔っているようで、力加減を間違えたらしい。楽しげに笑いながら花に埋もれた徨夜を引っ張りあげる黒兎。
黒「あららwww色男形無しやわwww」
徨「テヘペロwww」
レ「やっぱり…」
徨「ん?何て?」
レ「やっぱり、徨夜さん結婚するんですね?」
徨「え、あ、まァ…」
レ「黒兎さんと」
黒「…………」
徨「………」
沈黙。
そして何処からか聞き覚えのあるフレーズが。
〜♪〜〜♪And I will always love you〜♪
徨「なっんでやねん!!!!な!!ん!!で!!や!!なァンで!!!!オ゛イ゛…スタッフ!!後で覚えとれ!!」
黒「おほほー、レイはんったらもう酔ってはりますのー?何でウチがこないグズと。自慢やないですけど、ウチ、こう見えて引く手数多どすえ?」
レ「え、だって何か今日だけ仲良しじゃないですか。いつもはそうでもないのに!!」
バシバシと四阿のテーブルを叩くレイ。普段なら見ることの無いあまりにも幼い動作に、またしても顔を見合わせる2人。そしてお互いに理解した。
「「レイは予想以上に酔っている」」
やれ徨夜が日本酒を飲ませたせいだ、やれコップの中身が全く減ってなかったからノーカンだ、むしろ黒兎、お前ちゃんと見張っとけよ。何言うてはりますのウチはレイはんの保護者やないし。ほんならアンタが見張っとけや。脂下がりおって逝わすぞ。つーか相手誰や。ふふんヒミツやヒ・ミ・ツゥwwwと、火花でも散らすように目視だけで罵りあっている。
レ「あーあー、またそうやってみつめあってるもんー」
徨「あァァァ!!めごい!!めごい!!何この生きモンめごいぃ!!」
黒「めごいてwwwめごいwww」
レ「そんなふたりはこうです!!」
悶える徨夜と口を隠して笑う黒兎のちょうど真ん中に両腕を広げて飛び込んだ。プロレス技にこんなのがあった気がする…。と徨夜の脳裏に浮かんだが、戯れるレイへの嬉しさのあまり受け身とか倒れないようにする、等の対応が遅れた。それは黒兎も同じだったようで、レイの重み(一般的成人男性の重さ)に耐えきれずに後ろへと倒れた。
腰にぶつかる、棒。これ、四阿の手摺やなァ。てすり?えっ、てすり!?
徨「おわァァァァァァ゛ァ゛!!!???」
レ「あはははは!!」
黒「ちょ、マネっ!?」
バシャン。もしくは、ドボン。
擬音はどれでもいいが3人がまとめて池に落ちた(飛び込んだ?)
今更ながらこの四阿は池の真ん中にある。幼児が誤って飛び込まないように手摺はある程度の高さをもっているが、この3人からすればそんな手摺など無いに等しい。だからこそ落ちた。
レ「っぷはぁ!!…うふふ、やってみたかったんですよぉ♪」
黒「そっ、そうやったんかぁ…」
上機嫌で立ち上り黒兎に抱き付いたレイ。身長差はあれど、まるで猫が懐くように身を任せる。
あーあー、せっかくの綺麗なお髪が…。と思いながらレイの顔に付いた髪を剥がしていると、ふと気付く。
黒「徨夜?」
レ「むっ、もっとやってくださいよぉ」
黒「いや、待って、徨夜上がってない」
レ「えー?こうや、さん、ですかぁ?」
失礼だが酔ってふわふわゴロゴロしているレイが邪魔で周りが見えない。まさか…溺死…?と瞬時に弾いた考えに瞬時に酔いが覚めた。片手でレイをあやしてマネージャーか、もしくはこの際誰でも良いから酔ってない正常な考えが出来る人が必要だ。というか、何故誰も来ない?確かに離れているが、あれだけの水飛沫と音に気付かないはずがない。
黒「ちょ、レイはん待ってや、ちょっと離れたって」
レ「えぇぇ、どぉしてですかぁ?」
徨「おーおーwww、乳繰りおってデキてんのかワレらwww」
黒「こっ!!……あぁ゛ん?」
振り向いた先には四阿の手摺に座ってニヤケながらカメラを回す徨夜が。全身グッショリ濡れてはいるが、2人よりも先に池から上がっていたらしい。
レ「あー、こうやさんだぁ♪」
徨「せやでぇーこうやさんやでぇ♪」
黒「お前地獄に落ちろ」
徨「wwwwwwwww聞こえへんwww」
レイの手を引きながらザブザブと水を掻き分けて距離を詰めていく黒兎。近付いて分かる、徨夜の背後にマネージャーやスタッフがタオル(カメラ)を持って待機しているのが。
黒「心配して損したわ」
レ「うふふふー♪こくとさんはやぁいですよぉ♪」
徨「くっひひ♪」
カメラは背後のスタッフに渡して、徨夜が2人に手を伸ばした。レイは素直にその手を取って、嫌な顔をしている黒兎の手も取らせる。ぐっと力を込めて引き上げる徨夜がおもむろに叫んだ
徨「オレ、せかいでいちばんのしあわせもんや!!ありがとう!!!!」
そして、手摺から降りた。
まぁ、後がどうなったかはご想像にお任せする。
ひとつ、ふたつ?言えるのは、ドラマ シャングリ・ラはこれからも続いていくし、徨夜は無事に新婚さんになった。