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short short 2

その男が踏んだ地面から火柱が上がる。

その男が伸ばした手から闇が溢れ落ちる。

その男が翻すコートから無数の黒い手が伸びる。

その男が纏うのは圧倒的な死、芽吹きを待つ絶望

そして背後で嗤うのは棄てられた神の娘

幾万の「その男」が目覚める

/Puppet.





何をしたって上手くいかないなら全てを擲(なげう)ってでも何かを成し遂げたい。例えばすぐそばの裏路地で悲鳴を上げているヤツを助けるとか。そう意気込んで身を躍らせれば早々と後悔する。
だってそうだ。こちらに背を向けたヤツの目の前には山積みになった何かと、薄暗くてよく見えないがこの男、何か丸い…だらりと垂れ下がるのは…髪?…あれは、まさか、人間の頭?

ぐうるり、ぐるり

あ、あ…男がこちらを向いた。光もなく赤銅色に輝く眼に射抜かれてか心臓が痛い、今まで気付かない方がおかしいくらい、濃い、ともすれば噎せ返りそうになる血の匂い、死の艶めいた香り。呼吸が出来ない、喉が絞まる。風の音を耳が捉えた。
が、なんだ?どうして男を見れない?どうして視界がぐらつくんだ?空が見える、崩れる身体が、あれは自分の、身体だ、おかしい、首から、下が――――――


崩れ落ちる身体と、驚愕の表情で固定された顔を眺めて男が嗤った。

/Ripper.




神に見捨てられた、光に見棄てられた国。豊かであった国土は見るも無惨に荒れ地へと変わり、「神在山」と名高くあった山は焼け崩れ、国を囲んだ。それによって出来た天然の壁と、国境高く聳える山脈。瞬く間に「常世国」は「常夜国」へと変わっていった。
閉ざされた国を率いるのは国を見捨てたはずの神の落し子。小さな娘。光を失い滅びを待つ民を、家畜のように管理し、研究者のように観察し、そして見殺しにした。

娘の頭には幾千幾万の民の生死が刻まれ、保管された。全ての民が死に絶えて十月十日、娘の腹は臨月を迎え新しい「娘」を産んだ。相手は居ない。単性生殖で産み出された新しい「娘」は母胎を引き裂き、そしてその傷を塞いだ。
産まれた「娘」は黒壇の髪、紅蓮の瞳、純白の肌。
産んだ「娘」は純白の髪、黒壇の瞳、真白の肌。

対をなした「娘」は民を再生した。保管していた民の記憶から遺伝子が作られ、培養される。作られた民は「娘」のままごとの人形となり、国を護る兵となり、他国から恐怖される死神となった。

/History.




同志、我らが同志、私は誑かされたのだ、汚名を雪ぎたい、だから、どうか、私を―――

地面に這いつくばる男と、それを無感動に見下す男。
名前も知らない街の、名前のない裏路地。
這いつくばった男は必死に弁明の言葉を続けたが、相手からの反応はない。無感動に、無表情に、橙色の瞳が見下ろす。その男の口は石膏か何かで固められているかのように動かない。

同志、同志よ。私の声は聞こえているのか?どうか返事を、どうか。

見下す男の靴に唇を落とす。何度も、何度も。
やがて、いや、漸く。爪先で顎を押し上げ、男の眼を覗き込んだ。橙色の眼に男の怯えた顔が映り、それ、が一度、大きく身体を強張らせたあと驚愕へと、絶望へと変わる。
周りから湧き出す無数の乳白色の手と、おおよそ有り得ない空間で瞬きをする巨大な眼。いつの間にやら見下していたはずの男は消え、一人、取り残された。

迫り来る手が男を絡めとる。手を、足を、首を顔を腹を。隙間なく握られた男が隠されていない片方の目で上を、空を仰いだ。そこにあるのは巨大な口。
大きく開けて、手ごと男を咀嚼した。

/purge.





小さなアルバムを閉じて溜め息を吐く。ロクに手入れしていない魔術式の照明が不気味に点滅を繰り返した。

―同志、

そう呼ばれる度に自分が求められていないのだと知る。所詮は国の人形、使い捨ての、命。いつ切り捨てられてもおかしくはない、価値のない兵士。

―徨夜。

あの2人が呼ぶ、ニセモノの名前。真の名前など無い。偶々耳に入った単語を名前としただけの、意味の無い記号。

板挟みにされて喚くような神経は持ち合わせていない。裏切り者と謗られても何も思わない。
ただ、少しだけ残念に思うだろう。その時には記号で呼ぶ者も世から消え、そして残念に思うこの感情すら消されてしまうのだから。

―迷わず殺せ。躊躇いは滅びへと繋がる。全ては女王陛下の御心のままに。

/Feelings



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