2015-12-24 19:43
傍らに立つ赤毛を見上げた。目の前を真っ直ぐに見つめる深緑色の瞳は気持ちの昂りを一身に受けてキラキラと眩しく輝く。
その感情は、果たして正しいのか。赤毛が抱く高揚、または興奮が伝播したかのように尾が揺れた。赤毛を見上げていたのは四肢の短い、牧畜犬で有名な犬。尾のあるコーギー。ウェルシュ・コーギー・カーディガン。毛色は世にも珍しい黒。腹の一部だけが白い、夜闇を切り取ったかのような色。ともすれば鴉色とも呼べそうな美しい黒。
「楽しく行こうか」
――――――ねぇ、徨夜。
赤毛に呼ばれたコーギーが、まるで人間の様に口を三日月に歪めた。剥き出しになったギザギザの歯、そこから反響するように声が漏れた
「Shall we Begin?」
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ドラッグの売人グループを確保せよ。
まだ夜も明けきらぬ未明に、そんな依頼が持ち込まれ
た。請けたのは徨夜だが、偶々その場に居合わせただけで、むしろ請ける気など更々なく(依頼人の如何にも役人然とした表情が面白かった。)就寝中であろうレイに投げた。
資料によれば、売人グループの所在は調べがついているらしく後は決行するのみである。つまりは汚れ仕事を任せられた。そして問題になるのが、人選。
ギルド長であるレイ、とその部下は忙しい。黒兎はヒマだが、部下は忙しい。徨夜は―――
「嫌だ。ノルマ以上の働きはしません。実験が忙しいから無理。絶対嫌だ」
「黒兎、やれ。」
「はーい♪」
黒兎が持ってきた今回の依頼書を一瞥して、興味を無くしたかのように実験へと戻る。依頼書は然り気無くテーブルに置かれた。忙しなく試験管、ビーカー、フラスコの間を行ったり来たりしている徨夜へと薄緑の閃光が走る。詠唱をすっ飛ばした魔術が徨夜の姿を変えた。現れたのは、黒い犬。
「随分小さいな?」
レイの疑問に答えるかのように黒兎が犬(徨夜)を抱き上げた。犬の眼は死んでいる。
「そりゃあ、コーギーだしね。ウェルシュ・コーギー・カーディガン。」
「コーギー?尻尾があるが?」
「………ウェルシュ・コーギー・カーディガン。尾のあるコーギー。尾のない方の正式名称はウェルシュ・コーギー・ペンブローク。因みにどちらも同じ種類に見られるが、実は別種。性格も若干違うが、共通点は――」
抱き上げられたコーギーがつらつらと、まるで図鑑かなにかを読み上げているかのように喋る。奇妙に区切られた言葉を黒兎が補う。
「元々が牧畜犬なだけあって、対象物の足首を狙うのが得意。」
「………成る程…」
じゃあね♪
そう言うが早いか2人(1人と1匹)の姿が消えた。
漸く仕事に戻れる…。眉間を指圧しながらレイも部屋を後にした。
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「わぁ…もう夜だったんだ」
ギルドから、一瞬にしてクレアシオンの西街に移動した黒兎と徨夜(犬)。黒兎の言う通り、辺りは暗くポツポツと街灯が点いている。
傍らの犬が鼻を鳴らして黒兎を先導した。書類を見ていないはずなのに、どんどん進んでいく。幾つかの街灯と店を通り過ぎてついに徨夜が止まった
「ここ?」
「正面突破するか。奇襲するか」
「え?ここ、ただのハーブ屋さん…」
「そりャあ、ただのハーブ屋さんだろうよ。ただの、ハーブ」
黒兎の足首へと回り込み、思いっきり咬み付く
「いったぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「よし、そのまま中に入って様子を探れ。オレは裏から回る」
そう言うと犬は闇に紛れて消えた。残された黒兎は足首を労りながら店内へ。
ここで力尽きた…。