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There is no accounting for tastes.

ジェリードイールって知ってるか?いや、料理だよ、料理。呪文じャねェからwww
ま、兎にも角にも知ってるか?え?知らない?あっそう。じャあスターゲイザーパイは?知らない?知らないの!?え!?マジで言ってんの…?お前ってオレより食事すっから既にご存知、味までご承知かと思ったらそうじャねェのか。
そうかそうか。ほゥほゥ、なるなる。
因みに、このあと暇か?喰うか?喰いたいよな?喰うよな?よっし、思い立ったが吉日良辰?あ、いや?黄道吉日だったか?いやいや――


「ちょ?ちょっと待って徨夜?理解が追い付かないって言うか……むしろ意味がわからないよ?」





*



とある日の事である。
いつもは地下にある自室で何やかんやしている徨夜が、珍しく、とても珍しく、槍でも降らしたいのかとギルド長のレイに思われない程度に珍しく、まだ陽が高い内から屋敷内を彷徨き、敷地内を雨天両用傘(一応、徨夜の武器でもある)も、もはやトレードマークと化している黒いコートもなしで(ベストは着ている。)徘徊していた。何かを探している様にも見えたり、見えなかったりもする。
つまり何がしたいのか全く誰にも予想が付かない。

その行動を偶然、屋敷の入口近辺で見掛けたレイの部下の1人が(名前は知らない)

―数多くいるファミリアの散歩をしているのではないか。

と呟いたが、徨夜の傍、隣、近辺、周辺に皇(ウサギ)の姿もなければ、頭上、もしくは上空にグラント(鴉)の姿もなく、かといって腕に白波-シラナミ-(蛇)が巻き付いている訳でも、肩か襟元に黒辿-コクテン-(サソリ)がいるわけでも、足元にいつもセットでいるミッシュ(ハリネズミ)スコット(カワウソ)がいるわけでもなかった。それと、徨夜のファミリアらしからぬ3頭の馬。レイの愛馬の座に君臨しているミリアムは厩舎に、黒兎の愛馬になっているコネリーは黒兎と共に任務に、徨夜の愛馬…とも言えなくはないキーツは敷地内を走り回っていることだろう。つまり、ファミリアの散歩説は否定された。
因みに、最近増えた魔獣のソリオン(黒豹)と同じく魔獣のイリューシャ(シロクマ)は大体、人の形をして過ごしているので論外とする。

何も居ないのに徘徊している。傘もコートも無しに。そして息抜きがてら書類から目を上げたレイの視線を捉えた。
補足するとすれば、レイの執務室は屋敷の2階にあり、確かに眺めは良いが、だからと言って庭先にいる人物を判別する事は不可能に近い。レイであれば或いは、であるが。また、その逆も然り。

徨夜がニンマリと笑ったように見えた。

はぁ。と煩わしげに吐かれた溜息を知ってか知らずか徨夜が急に目の前に現れた。ちらりと庭に目をやると黒い靄のようなものが風に流されて消えていく。それ、は視界の端にもきっと目の前の徨夜にも纏わり付いているのだろう。スキップ(移動魔術)とは別の、ある意味で徨夜にしか出来ない移動方法である。
さて、と。もう1度出そうになる溜息を飲み込んで目の前へと向き直れば、なんの嫌がらせか上目遣いでレイを見ていた。黒兎やレイの女部下、もしくは黒兎本人が上目遣いであれば可愛い、目の保養、女神…、そうだ、結婚しよう。となったであろうが、あいにく徨夜ではそうならない。むしろ命を狙われているのでは?と半ば本気で考えさせられる。
そんな徨夜が口を開いた。


「ウチの黒兎は?」

「は?」


駄目だ。思わず返事をしてしまった。鮫のようなギザギザの歯を口の端から覗かせる不思議な形の笑みを浮かべて徨夜は言った。


「黒兎知らん?ずっと探してるんだけど見当たらないんだよね」

「黒兎は仕事だ。…それよりも報告書出せ。5件分だぞ。」

「……」

「忘れているようなら、5件分、全て依頼内容を言ってやろうか」

「そうかそうか。黒兎は仕事か、なるほど。」


うんうん頷きながらレイに背を向けた徨夜の実体が薄くなっていく。
逃がすものかと完全に消える前に徨夜の右手を掴んだ。と、思ったら手だけが手の中にある。シャレではない。尻尾を犠牲にして逃げるのトカゲのように身体の一部(右手)を残して徨夜は消えた。
勿論、残された右手は萎びるなり消えるなりすることもなく、レイの手を逃れて自由気ままに机上を闊歩している(主に人差し指と中指が働いている模様)
その景色はさながらファンタジーでダークでコメディで笑いを提供していたアダムス家族のハ○ドくんのよう。そりゃあ眉間のシワも割増になるというもの。レイでなければ冷静かつ冷酷に、今や机の端から端までスライディングして動き回る手を叩いてゴミ箱にシュートしたりしない。


「気持ち悪ぃ…」


自分でシュートしておいてコレである。ハ○ド君ならぬライト君(右手なので)も報われない。
というより、徨夜(本体)は大丈夫なのか。結局いつものパターンで後々レイの部下が催促しに行く事になるのだろう。
甘やかし過ぎか、それとも諦めが早いのか。徨夜が消えて飲み込む必要のない溜息を吐いて、レイは書類へと意識を戻した。






*




ライト君(右手)のない徨夜がまたしても屋敷内を彷徨いていると、なんとナイスタイミングで黒兎が帰還した。しかし、なんだか服は血塗れ、治療しきれなかった(一応、レイと同じように黒兎も回復魔術を取得している)細かな傷が目立つ。相当疲れているのか表情が死に、自室へと向かう動きも緩慢。
足を進める度に顔を顰めては立ち止まり、周囲の気配を探る様に、もしくは痛みを耐えるように目を閉じた。


「はぁぁぁ…。レイに何て説明しよう……」

「そうだなァ、転んだ。とか?」

「うわっ!!??いっ??……う゛ぅぅぅぅ…」


突然の返答に飛び上がって変に身体を動かしたせいで回復しきれなかった傷が開いたのだろう。滅多に見ることのない黒兎の苦しむ表情を事も無げに、或いは観察するかのように眺めては、ガラリと音が聞こえそうな程、急に口角を上げて徨夜特有の笑みを浮かべた。


「ほうほうふむふむ…」

「うっ…何さ」

「……どォだったァ?拷問されるのは?面白かった?面白くなかった?痛かった?痛くなかった?いや、まァ痛いよな。」

「…誰も拷問された、なんて言ってないし」

「そうか?そうなのか?いや、でもどう見たってなァ」

「良いから!…で?何かあった?急ぎじゃないなら僕、部屋に帰りたい」


レイに見つかる前に部屋に戻ってしっかりと手当てしたいのを敢えて全面に押し出して、半ば徨夜に食ってかかる黒兎。
そんな偽装なんて直ぐに見破られるのに、むしろ屋敷の敷地に脚を置いた時点でレイにはバレているのに、何故そこまで必死になるのか。これに関しては黒兎だけでなくレイにも言える。はたして信頼の裏返しか、カムフラージュ(本心の擬装)か。まったく理解が出来ないな。

とか何とかをニマニマした表情のまま考えていた徨夜が左の指を鳴らして近くの部屋の扉を開けた。誘導するように腕を動かして何故か真顔。


「満身創痍、動悸息切れ眩暈な黒兎に料理をテイクアウェーしてきた」

「テイク…アウェー?どこから?」

「んん…。アトゥリプカ。ま、そんな細かいこと気にすんなって。」


今までの徨夜の行いを鑑みれば、如何に細かくとも、重箱の隅を突付くようでも気にしておくべきだ。が、早く部屋に戻りたい、いや、でもアトゥリプカの料理は気になる。他国の名前を出すと言うことは、つまり徨夜が何かしらの細工をした訳ではない、かもしれない。でも気になる。でも、でも……。


「そんなに疑わしいか。……ほらよ」

「んえ?」


誘導の末、案内された部屋があまり使われていない会議室のようなものだと知る。そこの椅子に座らされて、差し出されたのは縦長の紙。スタンプとして捺されているのか、もともと刷られているのかアトゥリプカの国紋である錨と砂のない砂時計。そしてどうやら店の名前であろう文字と数字が書かれている。つまり――


「まさか……本当に行ってきたの?え?アトゥリプカに?どうやって?」

「どうって…普通に」

「普通にっ!?」


ここでおさらいというか、確認というか。アトゥリプカでは必要以上の魔術使用を禁止している。それは国民の総て無いし大半が魔術を使えない(使えなくはない)潜在遺伝子β−もしくはΩだからである。そしてつまり、魔術が服を着て歩いて害を振り撒いていると言っても過言ではない徨夜が、自殺、自滅も厭わず(?)に行って、買ってきたというのだ。意味がわからない、が、礼を言うべきなのか?
そんな黒兎の逡巡に観察するまでの興味はないらしく、着ている(いつの間にか着ていた)コートの裾で遊び始めた。


「……」

「喰わないか?いらないか?」

「………食べる。」

「うむ。」


うむ。
念押しのようにもう1度だけ頷くと遊んでいた裾を離してバサリと翻す。
いつもながら疑問に思うが、徨夜の着ているコートは異次元にでも繋がっているのだろうか。もしくは学校でも習わなかった魔術がかけられているのか。翻って膨らんだコートの身頃からご丁寧に銀のクロッシュ(皿蓋)まで使われたものが2つ、シルバーのカトラリーが1組、目の前に置かれた。


「……」

「おーぷん♪」


なんとも気の抜けた声と共に晒された料理は、どちらかと言えば気の抜けないものだった。クロッシュを脇に置いて、黒兎の斜め向かいに座った徨夜と目の前に置かれた料理とを往復していた黒兎の表情が固まる。


「……………………」

「…………」

「えっと…、これ、なに?」


目の前にある料理をなるべく見ないように身体ごと徨夜の方を向いて問うた。
だってそうだろう。誰だってそうなるはずだ。
青白い魚のぶつ切りがゼリー?の海を不気味に漂っているのと、まるで断末魔の叫びが聞こえてきそうな程、恨めしい顔をした焼き魚達がパイから飛び出して「こんにちは」しているのだから。
どういうチョイスなのか切実に問いたい。両方に魚が使われているのは漁業が盛んなアトゥリプカだからこそか?

睨み付けるような顔になっていたらしく、徨夜が丁寧に、左の指を指示棒代わりにして2つの料理の説明をする。作り方、この料理の由緒、どのような店で売られていたか、その店の人間が、その店にいた人間がどのようなのだったか(後者2つに関しては要らない気もする)。懇切丁寧に、何かガイドブックでも作る予定があるのか、と聞きたくなるほど。


「で、名前は?」

「んん。ジェリードイールとスターゲイザーパイ。知らないのか?」


長ったらしい説明の中に肝心の料理名が無かったので聞いただけなのだが、何故さも知っているように思われなければならないのか。
不満げに鼻を鳴らすと得も言われぬ匂いがする


「これ、食べれるんだよね?」

「食べれないものを売る食い物屋なんて?」

「いや…ないけどさ……」


確かに無い。無いが、絶対に食べてはいけないような気がする。食べたら何かが終わる気がする。
でも、こんなものを作った人に罪はない。こんなものを作った人に罪はないと信じたい。


「ま、グイッと。」

「飲み物じゃないんだけど……。でも、うん。いただきます」


右手にフォーク、左手にナイフ。マナーとしては左右反対なのだが徨夜も指摘しないのでそのままで、まずは不気味なパイから。

サクサクとしたパイの音は耳を楽しませるが、恨めしい顔をしている焼き魚と目が合うので、もう何が何やら分からなくなってくる。なるべく目を合わせないようにしながら1切れ(飛び出す魚も1匹)を皿に乗せた。パイの断面にも魚がびっしり…。思わず遠くなる意識を必死に連れ戻して1口。


「ん゛っ…。んん゛ん゛?」

「ひひっ♪」


味の説明がしにくい。魚味のシチューのような、魚味のホワイトソースのような。どちらにしろ魚の味が強く、ホワイトソース?に玉ねぎとベーコンが入っているのが逆に不快。無ければ良かった。とまでは言わないが、魚なのか肉なのかどちらかにしてほしい。あと、骨。パイの中身にしろ、飛び出している方にしろ何せ まるっと全部投入されているので(流石に内臓は取ってあった)口内が血塗れになること間違いない。というか、何でイワシなんだろう。イワシって骨、多いよね。
料理じゃなくてもはや拷問だよね。

うんうん唸る黒兎に浮かぶ眉間のシワ、コロコロ変わっていた表情が咀嚼する度にビシリと固まるその瞬間を満足げに眺めていた徨夜が次を指差す。説明を聞いた限りでは、ウナギのぶつ切りのゼリー固め。つまりジェリードイール。


「……みず…」

「ん?」

「水飲みたい…」

「くひっ♪あいさー」


奇妙な相槌と共に、またしてもコートから水差しとコップを取り出す。
水を飲みに行くフリをしてこの場から逃げようとしていた黒兎の企みを見抜いていたのか否かは分からないが、よくもまぁ何でも出せるものだ。



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