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A black rabbit dances with magician.

ギルド シャングリ・ラの屋敷の地下に、実戦を想定したホールがある。そのホールは魔術によって何重にも保護され、尚且つ自動修復の魔術もかけられてギルド団員の鍛練の場になっていた。今まさに。


「うっひひひひ♪」

「もー!!避けないでってばっ!!」


茶髪と赤毛が追いかけっこをしている。訂正。魔術を使った追いかけっこをしている。茶髪のすぐ横を風の刃が飛び、目の前では床が迫り上がり行く手を塞いだ。赤毛の仕業である。が、茶髪は気にすることなく飛び交う刃を躱し、まるでコピーしたかのようにこちらも風の刃を飛ばす。


「うわわ、もー!!徨夜!!コピーするの禁止!!」

「えェ?それじャあつまらんよー黒兎。お前だってコピーしたらえェやろ♪」


徨夜と呼ばれた茶髪が柏手をひとつ。赤毛、ではなく黒兎を狙っていた風刃が止み、魔術が消える。

黒兎が構えているとニタリと笑って徨夜が床に座る。どうやら黒兎の息が上がっているのがバレたらしく休憩のようだ。


「もしかして、徨夜って、耳も良い?」

「of course♪」

「むー……」


むくれる黒兎を尻目にいつものコートがない(レイに没収された)徨夜はベストのみなので若干居心地が悪いのか床に座っても落ち着きがない。ついには寝そべって足をジタバタさせ始めた。


「ちょ、徨夜、」

「気になったんだが、何で魔術鍛練?αなんに必要か?」

「いや、αだからって万能じゃないよ。魔術が苦手なαだっている……かも?」

「ほー」


この世界には性別の他にα、β、Ωの3種がある。これは潜在遺伝子と呼ばれαが頂点に、Ωが最下に、βは中間としてランク付けされている。全てにおいて優秀なα、バランスの良いβ、一点特化のΩ。そして残念な事に劣種であるΩへの差別、虐待は今も尚消えない。


「徨夜はちょうど良い先生だもん」

「レイが居るだろ、レイがよ」

「うぅぅぅ…レイは聞きにくいんだもん…。」

「はァァ?」


ジタバタを止めた徨夜が興味深げに黒兎を見た。自分に聞けて、レイに問えない事、とは?黒兎は視線を徨夜から外し、緩く腕を組んだ。


「レイは同じαだし、何て言うか……」

「同じαなのに質問したり教えを乞うたりして恥ずかしい?プライドが許さない?足手まといって思われたくない?聞くのがめんどくさい?聞いた所で理解出来ない?」

「ちょ、徨夜!!」


聞き捨てならない単語ばかりがポンポン空中へ打ち上げられては黒兎に当たる。気がした。それを知ってか知らずか徨夜は仰向けになり両手を天井へと突きだして声と一緒にユラユラふらふら。


「図星があったな?」

「え、!?」

「オレの言った単語に反応しただろ。」

「は、え!?」

「腕を組むのは防御。しかもオレが何かを言うに連れて力を入れたろ。つまり隠しておきたい何か、そうだな……本音とか、がある」

「………」

「ま、どうでも良い。」


ヒラリと起き上がってステップを踏んだ。1つ、2つ、3つ目のステップで徨夜を囲うように周りが火の海に変わる。


「くっひひ♪考えて想像してよ。Let's thinking and imagine♪」

「ちょ、熱い!!何やってんのさ!!」

「オレがレイを殺す。」

「、」


黒兎の表情が、周りの空気が変わった。今まで使っていなかった銃を取り出して照準を合わせる。徨夜の表情も表情で冗談とは思えない。せめていつものように笑みを浮かべてくれたら…。


「想像して?お前の目の前でレイを八つ裂きにしてやる。んん♪八つ裂きじャあ面白くないな♪拷問したろ♪」


徨夜は無表情のまま、しかし声だけは弾んでいる。
黒兎が向ける銃口をなんとも思っていないのか火の海を行ったり来たり。


「…………」

「ふひひ♪」


ぶわり、と炎が揺れた。黒兎の周りの空気が風に変わり揺らしている。ついで床が軋む。音の発信源はやはり黒兎。まるで親の仇とばかりに徨夜を睨む。その睨んだ瞳が徐々に色を深紅に変えた。あぁ、とまるで吐息を吐くかのように徨夜が笑った。


「殺してやる」


徨夜は微笑んだ。言った言葉には何か含みが見える。が、しかし黒兎は構えていた銃の引き金を引く。1発、2発、3、4、5発。弾丸は目標を損ねることなく貫き、黒兎を中心として蟠っていた風は自らの形を剣に変え、そして徨夜を穿つ。


「………ふふ、ふ」


血飛沫が空中を舞う。頬にまで飛び散った血を手の甲で拭い、その赤さに見とれるかのようにうっとりと目を細めた。が、恍惚は長く続かない。一瞬にして自我を取り戻した黒兎は目の前の景色を見て愕然とした。

徨夜が、うつ伏せに倒れている

無数に亘る裂傷、5つの小さな穴。
足には迫り上がった床材が蛇の様に絡み付き、自由を奪っていたのが分かる。


「嘘、だよね?ね、徨夜、うそ、」


膝をつき、徨夜の顔をこちらに向ける。


「ひっ!?」


やけに素直にこちらを向いた顔は青白く、死者を連想させる。瞳孔は光彩を押し潰さんばかりに広がり、覗き込む黒兎を映していた。


「あわ、わ……死んで?徨夜?死んだ、の?」


返事はない。近くからレイがこちらを呼ぶ声がする。扉の前に居る?それともまだ居ない?黒兎は混乱して徨夜(死体?)を投げ出して扉へと駆け寄る。


「れ、レイ!!レイ!!ぼく、ぼく!!!!」

「はァい♪」


怯える黒兎の背後に人影がひとつ。黒いコートをなびかせてニンマリと笑う。おそるおそる振り向く黒兎、ニンマリニタニタ笑う、徨夜。


「っ、ひ、」

「何でそんなに、」


徨夜の台詞と被るどころの騒ぎではない絶叫が辺りに響いた。つまり、そう。黒兎が絶叫している。
ついで扉がバーン!!と劇的に開かれ、レイが飛び込んでくる。絶叫し続ける黒兎を見、黒兎に驚き眼が点になっている徨夜を見た。


「………………だいたい理解した。」

「ぅぅぅぅオレは何もしてないぞ!!してないぞっ!!」

「ん。」


レイが指差した先、元凶である死体が転がっている。
徨夜はいそいそと死体に寄り、取り出した札を口元に寄せて呪を唱えた。途端に札は燃え上がり、死体は何も無かったかのように消える。


「徨夜、お前は罰としてコーマリアルドに行ってウィル・オー・ドラッグの売人潰してこい」

「…………」


死体が消えると黒兎にも落ち着きが戻ったのか、レイに肩を借りながら部屋を後にした。その途中、レイだけが振り返り絶対零度の声色、相貌で言った。


「Shall you begin?」

「い、yes sir!!」


ひとり取り残された徨夜はコートに埋もれるようにして地団駄を踏み、行きたくない!!やりたくない!!と、吠えた。

全ては自業自得である。



























Rabbit&Crow&Snake&scorpion&hedgehog&otter&three horses.

ボーン、ボーン……


古めかしい柱時計が夕暮れを告げる。
地下室いっぱいに広がった何とも言えない薬品の匂いを纏って、そこの住人である男、徨夜が地上へと繋がる階段を上り始めた。


前の持ち主の名残か地下と地上を結ぶ扉はすべて頑丈な閂がされている。いつの時代も人前に出せぬモノは強固な部屋の中に仕舞われる。
約30段の階段を上り、途中で懐から取り出したキセルで扉を叩いた。

かつん、かつん、が、つん、

乾いた音に続き、重い音がひとつ。扉の前でぷかぷかとキセルを吹かす。
かちょん。とやけに頼りない音が階段を巡り、扉が開いた。


「うぅぅ…」


紅蓮に燃える夕陽、もしくは血のような夕焼け。
眩しさに目を細めた徨夜は煙を踊らせながら外へと足を向けた。




――――――――――――




遠くで黒兎がファミリア(大型犬4頭、中型犬1頭、ヤマアラシ1匹)と戯れている音が微かに聞こえた。ぷかりぷかりと煙は風に乗って空へと消える。


「…………」


キセルを銜えながら懐から札を出し、煙で飛ばす。次いで、奇妙な音階の指笛。特に何も起きない。が、札は違った。飛ばした順に地へと落ちた札を突き破るように次々とファミリアが飛び出した。ウサギ、鴉、蛇、サソリ、ハリネズミ、カワウソ。


「散歩に行くか。皇-スメラギ-(ウサギ)グラント(鴉)白波-シラナミ-(蛇)黒辿-コクテン-(サソリ)ミッシュ(ハリネズミ)スコット(カワウソ)。」


徨夜がキセルを仕舞いつつしゃがみ、手を差し伸べる。スコットと呼ばれたカワウソがハリネズミのミッシュを抱えてよたよた歩く。針が当たらないように最大限の努力をしているのかミッシュの小さな小さな手足がこれでもか、という程に広げられていた。

一方、鴉のグラントが白波と黒辿を掴んで離陸。徨夜の肩へと其々を降ろし、左腕へと止まる。


「皇、今日はお前が頭の上な。」


三角の鼻をひくひくさせてウサギが大きく跳ねた。着地点は徨夜の頭。上手く乗れたらしくポフンと小さな音がした。と、何やらぎゅわぎゅわきゅーきゅー言い争って(鳴き争って?)いるのが右腕付近に。


「スコット、そんなにミッシュを急かすなよ。お前と違ってミッシュはのんびりさんなんだぞ」


右腕、しかも肘辺りで騒がれると危ない。グラントが気を利かせて左腕から肩へと(先客の黒辿は邪魔にならないように襟内へと退避した)移動したので自由になった左手でミッシュを頭に乗せてやる。頭の先客であった皇は我関せずと鼻をひくひくさせただけであった。


「スコット、煩ェと歩かせるぞ?もちろん、一人でな」

「きゅ、きゅぅぅぅ!!」


右肩に辿り着き、小さな手で彼の首に巻かれた青いマフラーを握るスコット。彼最大の抗議の証らしいが、特に何の威力もない。むしろスコットの首が絞まるだけ……。


「首が絞まってるが?大丈夫か?」

「ぎ、ぎゅ」

「分かった。分かったっての゛っ!?」

「む゛ー、む゛ー」


スコットをあやして?いると脳天に重い一撃が。


「す、皇、」

「ぶー」

「お、おゥ。散歩な……」


皇の会心の一撃である。ウサギの脚力を1度でも目にしたことがあれば徨夜が涙目になるのも分かるはず。かなり痛いのだ。そりゃあもう地面にめり込むんじゃないかというほどの……は大袈裟だが、とにかくそれほど脚力が強い。

皇が急かしたおかげでようやく徨夜は歩き始めた。頭には皇、首に巻き付いて左肩の白波。それに乗る黒辿、反対の肩にはミッシュとスコット。緩く伸ばされた左腕にはグラント。奇妙に膨らんだ影がゆっくりゆっくり歩く。


「Queen of white will not kill us♪ Zhu Queen, eat us♪Daughter and son to stay in various places♪Killed by two people of the Queen, and is waiting to be eaten♪」


妙に殺伐とした歌詞を楽しげに歌う。遠くに聞こえていた黒兎のファミリアの声は聞こえず、世界から切り離されたような無音


「Queen of white will not kill us♪zhu Queen.eat us」


歌えば歌うほど世界が崩れていく。ついには色さえ消え失せて全てが白く、そして黒い。ネガポジの世界を歩き続ける徨夜。ファミリア達は何にも動じず身を寄せる。


「Killed by two people of the Queen.」


最後の一文字だけ、囁くように歌う。誰にも知られてはいけない秘密のように。踏み出した先、あるはずのない白い池が辺り一面を呑み込んでいる。実際の敷地にはない池。

見えていない。歩みは止まらない。


「Daughter and son to stay in various places.」


あと数歩の距離で池に無数の赤い眼が睡蓮の様に咲いた。こちらを見つめる眼。ぱくりぽくりと瞬きをして今か今かと待ちわびる。

無音の世界に響く蹄の音。3頭分の嘶き。
白馬と柔らかな茶色をした馬が切り取られた世界を踏み荒らし、色を音を匂いを取り戻す。

そして最後の1頭。勢いよく眼の咲く池に突っ込みおおよそ馬らしからぬ声をあげた。低い低い、地を這う声が生えている眼を破裂させ、そして池も消滅させた。

そして、そのまま


「waiting to be い゛ぃ!!??」


激突した。

徨夜の首根に馬の肩が追突。歌が途切れたのはもちろん、追突された首が変な音を立てた。他のファミリア達は何故か無事という奇妙さではあるが、そこは指摘されない。


「ぐへっ…キーツ!!お前はもう少し安全確認しろ!!」


名を呼ばれ、ついでにお叱りも受けてブルブルと不機嫌そうに鼻を鳴らした黒馬。他の2頭もしずしずと寄ってくる。


「ミリアム、コネリー。すまんな、助かったわ」


体も鬣も雪のように真っ白な雌馬のミリアム、体は柔らかい茶色、鬣はクリーム色の雄馬のコネリー。2頭の鬣を代わる代わる撫でながら気を取り直して歩き始めた。叱られたばかりのキーツも弾むような軽さで後を追う。



夕陽を背にして6匹と3頭+徨夜の散歩は続く。

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