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Stray rabbit 1

水晶柱に反射した何人もの青年が此方を見つめる。
美しい水晶の森の中で子供の声が木霊した。


―ねぇ、知ってる…?

―この世には夢も希望もあるんだよ?



「え?何その死亡フラグみたいなの。僕そういうの嫌い。」


何処からか吹く風が黒兎の髪をなぶる。声は気分を害したようにきゃらきゃらと笑い、水晶の柱を揺らす。銃声が1つ、澄んだ音と共に消えた。











――――――――――――――――――――



「はーい。ご依頼ありがとうございまァすー。本日のご依頼内容の確認させていただきまァすー。ご依頼内容は水晶の森に消えたシャングリ・ラ次席の黒兎の保護あァんど、原因解明で宜しかったでしょうかァ?」

「……おい」

「えェ?違う?…あァ、しっつれーしましたァ〜。水晶の森の消失事件の原因究明ですねェ?了解しましたァ〜。因みに捜査に当たる当方の人員としてはァ………ギルド長のレイとその仲間達…は、居ないのでェ、レイが1人で行きまァすー。尚、依頼料は金には興味無いので適当にこのギルド長に渡しておいてくださァい。ではご利用あざっしたァ〜(о´∀`о)ノさっさと消えろ役立たずのクズ野郎。」

「お前なぁ、コイツは黒兎の命令を聞いて戻って来たんだぞ?所謂手がかりなんだぞ?なんでそう邪険に扱うんだ……」

「オレは人間を邪険以外に扱った事がないんだが?つーかモブ君よ、良いかい?部下たるもの上司の命に絶対服従なのは良く分かった見上げた根性のクソだなクソ野郎。しかし事もあろうに上司を置いて?おめおめとスキップしてくれたワケだ、水晶の森は魔法使えんもんな、反射するもんな?クズ野郎。テメェのおつむはおが屑か?味噌か?それともクソか?クソグズ野郎死ねよ。」


やる気のない眼(別名、死んだ魚の眼)で注視されるモブの心境は幾許か。依頼を受けた黒兎が水晶の森で消息を絶ってから4日。同行していた黒兎の部下(新入り)がギルド本部へと息も絶え絶えに駆け込み、ギルド長であるレイに助けを求めた。

いつもなら自室(という名の地下室)に居るはずの徨夜(引きこもり)が同席していたのが運の尽きか、モブ君と呼ばれた黒兎の部下(新入り)はゴリゴリと精神を削られている。主に徨夜のイビりにも似た暴言で。


「ま、オレは知ィらん♪モブ君よ、レイに詳しく話せば?」

「え、徨夜さんは行かないんですか?」

「何アホ抜かしてんだよ、お前も行くに決まってんだろ」

「はァ!?今、日中!!オレが日中は動かんの知ってんだろ!!」

「黙れ万年不健康野郎。日光浴しろ、日光浴。」


意義ありと吠えている徨夜へ向けて指をパチリ。すると指を向けられた徨夜はみるみる姿を変えていく。ついにはちんまりと………していない、ふてぶてしい顔をした鴉が。


「クソ野郎、クソ野郎!!クソ野郎!!!!日中に外出なきゃならんとかマジクソだな!!迷子の阿呆!!黒兎のバカ!!水晶の森なんか大っ嫌い!!嘘!!大好き!!」

「どっちだよ……。まぁ良い…、オレらまで戻らなかったら、分かるな?」

「は、はい、」

「まぁ、何かあれば他のヤツらに聞け。……おい、徨夜。スキップしろ」

「はァ!?自分でやれよ!?」

「毟るぞ…?」

「(´・ω・`)」


ぼそりと呟かれた言葉に羽毛を逆立てながらも鴉(徨夜)がレイの肩に乗り、翼を広げた。普通であれば魔法には詠唱が必要だが、何故か徨夜は詠唱無しで魔法を使う事が出来る。


「クソ野郎!!」


鶴の一声、ではなく未練がましい鴉の一声。余韻が溶ける前にレイと鴉(徨夜)の姿は一瞬にして消えた。







―――――――――――――










辺り一面に巨大な水晶の柱。反射する光。柱に纏わり付く苔のみが唯一の緑。


「ほぅ…?確か水晶の森は魔法が不利なんじゃなかったか?」

「うぉぉぉぉぉ〜。すっげェ空気痛い!!これぞ神聖!!今は亡き古龍の住処っ!!空気痛い!!神聖さが痛い!!オレに死ねと言っている!!神聖さがっ!!永遠にっ!!輪廻するっ!!」

「………おい」


鴉が肩から離れ旋回する。柱にその姿が映り込み、さながら万華鏡のよう。


「鬱陶しい。」

「うぎゃ!!」


いつの間に結ばれていたやら鴉の足には凧糸が。


「凧糸wwwオレは凧かwww」

「お前まで迷子になってみろ。その嘴…糸鋸でジワジワとデビーク(断嘴)してやっから。」

「わー!!虐待反た、」


―匂う…匂うわ……。何かしら、この汚物にも似た匂いは

―女王様!!悪臭の原因を発見しました!!


「……………あ?」

「うげェ……。ウザいランキング上位の常連妖精じゃん……」


―あら、下等生物が居るわ?私に踏まれたいのかしら。


鴉はレイの肩に戻り、心底嫌そうな表情で姿無き声に答えた


「おいおい……妖精さんよ。踏むも何もまずして対比を考慮しろよ…」

「………妖精つったか?」

「おー。めっっっっっっっちゃウザい妖精。噂じゃあまりのウザさにウザさの最先端(笑)とか呼ばれてる」

―やっと世界も私の素晴らしさを理解し始めたのかしらね。でも世界よりも私は気になる事があるの、ねぇ?

―はいっ!!女王さま!!


妖精と言っても姿が見える訳ではなく、ふわふわ飛び交う光と空気が震えているだけである。そんな存在に律儀に受け答えする鴉(徨夜)。が、レイは完全に無視して歩き出す


―ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!この森の女王である私の話を無視するなんて!!これだから下賤の人間は!!

「うるせぇよ。こっちは人探しに来てんだ、邪魔すんな」

「うひょ〜♪いつもに増して辛辣ぅ〜♪」

―人間を?探しているの?

「女王サマは人間嫌いだから知らないかもだけどね〜。迷子になったヤツいんの」

―へぇ…。愚かね。どうせそこいらで野垂れ死んでるのではなくって?

「うーん……日数的にはまだ大丈夫じゃね?」

―人間なんて野垂れ死、ぅぎ!?

「口を慎めクソ妖精。握り潰すぞ…」


ふわふわ周りを飛んでいた光のうちひとつを手のひらに収め軽く握りながらレイは続けた


「結局の所お前ら妖精は人間の行き先を知ってるのか知らないのかどっちなんだ?」

―し、知るわけないじゃない!!下等生物に興味ないわ!!

「そうか……」


言うが早いかレイの手のひらから何かが弾け飛ぶ音。すべてを察した鴉が残っていた妖精に向けて嘴を鳴らす


「バイバイ女王サマ♪」

―こっ、この人でなしっ!!下等生物!!毛むくじゃら!!

「いや、オレ鴉だし。しかもこれ毛じゃなくて羽だし」

「構うな。行くぞ」


憤慨する妖精には目もくれず凧糸を引いて先へ進む。
引かれた鴉は何かを思い付いたように嘴を歪めた


「なァ、レイ?」

「なんだ」

「上から探した方が早くね?どーせ木なんてないし」

「……………それもそうだが、お前此処で魔術使えるのか?」

「まァ…。それなりに?」


言うが早いかレイの肩に止まっていた鴉が空を舞う。1周、2周回ると急にその姿が変わる(と言ってもただ単に大きさが小型飛行機サイズに変わっただけである)


「ふっふーん♪どーよ」

「………悪くない。が、落としたら容赦しねぇから覚悟しとけよ?」

「 あー……Will comply」


レイが数本羽を毟りながらも鴉の背に座った。


「痛い!!毟るなよ!!禿げちゃうだろ!!」

「うるせぇ。そら、さっさと飛べ」


横暴め…。とか何とか零しつつも鴉は羽搏き、空を舞う。目指すは迷子の黒兎の元へ

















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