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Good-Goodbye.

清涼感のある甘いにおい。今回選んだ薫花草も満足だ。



ギルド シャングリ・ラの屋敷裏、生い茂る林の奥深くにそれらはあった。咎獣襲撃で犠牲となった2代目ギルド長及び、その部下達が眠る墓地が。
光の加減で灰にも黒にも見える9つの墓石には9種類の花が供えられている。献花を終えた喪服姿の現シャングリ・ラ メンバーが墓石から離れ、ギルド長であるレイの言葉を待つ。


「……っ、」


言葉はなく小さく息を飲んだ音のみがメンバーの耳へ届いた。しかし、誰も、何も言わない。言う権利など無いのだ、自分と黒兎を庇ったせいで2代目ギルド長は死んだ。その事実は逃れがたく、庇われた2人へと重く長い陰を植え付けた。そして、罪滅ぼしのように後を継ぎ、同じ悲劇を繰り返さぬ様に何時も気を抜かない。

日傘兼武器として使っている黒い傘の下で徨夜は思った。憐れだと。出自の違いか、考えの違いか。ともかく憐れだと思う。死からは何人たりとも逃れられない、早く死ぬか遅く死ぬか、殺されるかそうでないかの違いしかない。2人とてそれは理解しているだろうが、この場にこうして立つ度に思う。

抱えた薫花草をどちらかの部下(レイか黒兎の部下であるのは間違いないが、普段から交流しないのと皆が皆、喪服であるため見分けがつかない)に渡してレイの傍らに跪いた。
レイの目の前にある墓石には2代目ギルド長であった男の名前が彫られている。その右隣、つまり黒兎の目の前にある墓石には2代目ギルド長の妻であった女の名前。そして、跪いた徨夜の向かいにあるのは――


「死は次への扉であり、鍵である。そして悲劇であり喪失である。もし、眠るあなた方が新しい生命を得られたのであればそれは私たちにとって幸いである。或いは、まだ私たちを見守っているとしたら、それもまた、幸いである。しかしどうか赦してほしい。喪失を嘆く光を、悲劇を恐れる子供を、再び廻り会う可能性に涙を流す心を。どうか、どうか赦してほしい。」


跪いたまま、詠うように徨夜は繰り返した。その目の前にある墓石は、徨夜を庇って命を落とした男のもの。しかし、徨夜には庇われた記憶も無ければ、喪失を悲しむ心もない。どうやら庇われたらしい、という事実だけ。


「……どうか…赦しを。」


徨夜が立ち上がるのとほぼ同時にレイが呟いた。それが届いた黒兎が項垂れる。「赦し」か。物言わぬ死者に「赦し」を求めるのか。思わず声をあげて笑いたくなるのをぐっと堪え、預けていた薫花草を受けとる。

燃やしてその価値を発揮する薫花草は葬儀に限らず儀式事に必要不可欠で、用途により においも煙も異なる。いつまでも湿った空気では終われない。死者も報われない、というか、早く部屋に戻りたい。そろそろ眼が限界なのだ。例え日傘を差していても眩しさに変わりはなく、もうじき痛みが生じるであろう。

小さな無数の白い花、青々とした葉。可憐なブーケにも見えなくはない薫花草の束に手を翳して、そこから蒼い炎を落とした。音もなく静かに燃えていく薫花草

立ち上る煙は淡青。香りは白蓮のそれに似て、清涼感のある甘さ。風が空へと香りを運ぶ。願いを乗せた淡青の煙と共に。






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