スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

No Music. No Life.

〜♪〜〜♪〜………



朝早くから聴こえるヴァイオリンの音は、ここ、ギルド シャングリ・ラの長たるレイがファミリアにせがまれて(レイのファミリアがせがむかどうかは不明だか)毎朝行われてる儀式のようなものだ。
その音色はほぼ無人に近い屋敷中に響き渡り、数少ない住人である黒兎には目覚めを、地下を自室としている自分には朝を告げる。

静謐な調であるこの曲は彼の出自のものであろう。

どの国でも、どの街でも聴いたことのない曲。他の音に掻き消されてしまいそうに繊細で、しかし、腹の底、或いは心?に重く沈んでいく音色。

椅子に深く座り直し、眼を閉じて、呼吸を沈めて。
ほんの少しの間だけ名前も知らない曲に聴き入っていると、ビリビリと皮膚を裂かれているような痛みが国紋の捺された鎖骨から全身に広がっていく。
誰もいないからと遠慮することなく盛大に舌打ちをして、身体を起こし、書類やら空の薬瓶やら薬草やらが散在している机の上に場違いにも置かれている水の入ったグラスに向けて、お決まりとなった悲鳴を上げた。


「ぎャあああああ!!浄化されるゥゥゥ!!ジュワってるうゥゥ!!」


いつものセリフ。いつものタイミング。しばらくすればレイが演奏を止めてギルドは動き始め、それとは逆に自分は眠る。

いつまで経ってもあの美しい曲に聴き入ることすら許されないこの身体は生来のものか、或いは。


窓のない地下室の光源たる魔石のランプを消してしまえば瞬時に闇へと変わる室内。椅子に座り直して眼を閉じて、闇に融けるように意識を拡散させて微睡む。が、無意識に先程の旋律を歌う自分に驚いて眼を開き、自嘲するように鼻を鳴らしてまた眼を閉じる。


拡散した意識のどこかで聞きなれた女の声がした。



















「だーかーらー!!リラックスしすぎなんだってば!!」

「あァ゛?お前がリラックスしろって言ったんだろうがwww」

「確かにリラックスしてって言ったけど、徨夜のソレはリラックスしすぎ!!しすぎなの!!」


夕暮れ時の庭で黒兎と徨夜が騒いでいた。夕日の陽射しすら嫌う徨夜は日傘を差しながら、反対の手には新品であろうマウスピース。黒兎は愛用のトランペットと、それから外したマウスピースを手にしてぽこぽこ怒っている。


「いーい?マウスピースを宛てる前にリラックスしてアンブッシュを作る!!」

「アンブッシュ?」

「唇の形。口を軽く閉じて、イーってする」

「…………イー↑(ドヤッ)」

「どや顔……」


どうやら黒兎からトランペットの吹き方を習っているらしいが、あまりうまくいっていないようだ。


「もっかい!!どや顔しないようにね!!」

「どや顔つったってよォ……」

「つべこべ言わないの!!」

「へーへー。……………………イー↓(ニヤァ)」

「…………」


どうしてもアンブッシュの形にならない徨夜。どや顔というよりもいつもの口角だけを上げた笑みになっている


「…………まぁいっか。」

「いいんかいwww」

「じゃあ次はマウスピースを口に当てて……」

「ちョい待ち」

「んむ?」

「今更なんだが、なんでオレ、トランペットの練習してんの?」


まさに今更である。徨夜の事であるから場の空気、というか黒兎のやる気に、徨夜自ら流された結果としか言いようがない。しかし、新品のマウスピースを持っていた所を見れば教わるのが嫌などではなさそうで。


「え、だってマウスピース買ってたじゃん?」

「まァ……」

「僕の日課の演奏も聴いてるみたいだし」

「次はアイーダ行進曲で」

「えー難しいじゃんよ……。じゃなくて!!」

「ん?楽譜なら用意してあるぞ?」

「ほんと?じゃあ早速練習し……じゃなくてね?」

「ンン?」

「徨夜はトランペット吹きたいんじゃないの?だから部屋から出てきたんでしょ?」

「…………」


沈黙。さわさわと風に揺れる木々の音だけが聞こえ、得も言われぬ気まずい雰囲気を破ったのは徨夜のファミリアである大鴉のグラント。日傘を避けて我が物顔で徨夜の左肩へ留まり首を傾げた。


「よォグラント。夕方だから帰ってきたんだなァ?んー?報告があるってェ?よしよし部屋で聞こうなァ」

「あの歌通りなんだ……」

「つーことで黒兎よ。トランペットはそのうちな」

「あ、うん」


夕日に背を向けて屋敷へ戻る徨夜を見送って、もはや疑問符しか浮かばない黒兎。確かに声を掛けるまで徨夜の自室は真っ暗で、久々に寝ているのかと思いつつ誘ったのは自分だが、こうも簡単にあしらわれるとは。
腑に落ちないがまぁいいかな。と持ち前の切り換えの早さを発揮してトランペットを吹き始めた。

夕暮れの空にカラスの有名な童謡が響く。






























〜♪〜♪〜〜♪

Twinkle, twinkle, little star

How I wonder what you are

Up above the world so high,

Like a diamond in the sky……


皆々が寝静まった深夜、徨夜の自室、もとい地下へと繋がる階段からピアノの演奏とそれに合わせて歌う徨夜の声が微かに聞こえる。いつもの他人を煽る時のような安定しない声のトーンではなく、もっと穏やかで静かな声。
少し離れたソファで微睡む皇や白波、何処かの地図を広げては小さな手で目的地を指すスコットとミッシュを邪魔しない程度の声量で滔々と。


徨夜が、いつの間にか地下の自室に運び入れていた古めかしくも豪奢なピアノはその外見にそぐわぬ綺麗で澄んだ音を出す。調律は運び込まれる前の1度のみで、あとは気紛れで音を鳴らす程度だ。つまり、たまに音が出ない時がある。が、持ち主たる徨夜はそれについてどうも思わないらしく今日のように曲を弾くこともあれば1本指で単音を鳴らすだけの日もある。習い事のように毎日弾くわけではないから気紛れなピアノで問題ないらしい。

気紛れな持ち主に気紛れなピアノ。似た者同士が今宵奏でるのは誰でも知っている童謡。時折徨夜のアレンジが加わっているがそこはご愛敬、というかそれほど気にする面子ではない。



ー When the blazing sun is gone,
When he nothing shines upon,
Then you show your little light,
Twinkle, twinkle, all the night.
   
Then the traveller in the dark,
Thanks you for your tiny spark,
He could not see which way to go,
If you did not twinkle so.
   
In the dark blue sky you keep,
And often through my curtains peep,
For you never shut your eye,
Till the sun is in the sky.

As your bright and tiny spark,
Lights the traveller in the dark,
Though I know not what you are,
Twinkle, twinkle, little star.....




1806/J.T 「the star」

<<prev next>>