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The play of fools

「私の事を〜♪悲劇の迷子ぉにしないで♪ここから連れ出して〜♪………そんな気分だバカヤロォォォォ!!ってか、ここどこぉぉぉ?」


叫んだ男の黒いロングコートが風と遊ぶ。自然豊かな森林に突如響いた声に驚き、周りにいた動物達が逃げ出した。


「これはまさかの迷子フラグ…。レイと黒兎は気付いてるんだろうか……。つーか日光がオレを苛むぅぅぅぅぅ!!」


わたわたとフードを被り直し、男は耳のカフスを弄る。空咳をひとつ落としておもむろに話し始めた


「あー、あー、レイ?黒兎?こちら迷子の迷子の徨夜クンでーす。応答願いまーす。繰り返しまーす、こちら」

―繰り返さんでも聞こえるわ!!つーか、また迷子か!!お前いい加減にしろよ!!

―あはは……。さて…と。徨夜は……。うん?……もしかして追跡し難い場所にいる?

「森に居る(`・∀・´)」

―お前…今(`・∀・´)ってしたろ!?なぁ!?(`・∀・´)って!!

―森?……レイ、この付近にある森って…


「なんかねー?立て看板にゃ鎮守の森って書いてた。あと、モンスターに注意。すっげェでっかいクマが出るんだって♪すげェな♪」


―…………

―………

「んぇ?もしもーし?」


立ち止まって話が出来ないのか、徨夜と呼ばれた男はクルクル同じ場所を回る。


―なぁ、徨夜クンよ。

「あいあい?」

―鎮守の森に住むモンスターを退治するのが、今回の仕事だよなぁ?

「え?そーなん?」

―そうだよ、徨夜。もしかして話聞いてなかった?

「うん。だってオレは夜の人だから♪話は夜にしてくんないと聞けないし。つーか、聞くつもりもないけどね♪」

―…お前…………後で説教な。

―あらら……。ドンマイ、徨夜

「ぅえぇぇぇ!?」


余程堪えたのかがっくりと膝を落とす。地面とご対面していると何やら背後で音が。


―えーと、看板に書いてたクマ倒すのが今回の仕事なんだけど………あれ?徨夜?

―何だ?徨夜、何ガサガサしてんだ?


「あ……あー、えーと?そのクマぷーは何だ?えー、いつ倒すのがベスト?」

―夜。寝込みを襲うのは卑怯だけど、そのモンスターの魔力が低下するのが夜だから、夜に……

「なぁなぁなぁなぁ、山でクマに遭遇したら何する?死んだふり?そっともハチミツ献上?」

―バカか。死んだフリしても無駄だっつー……おい、嘘だろ…?


耳を聾する程の咆哮。四つん這いから間髪入れずに横へと飛び、振り落とされた爪を回避する。


「ぅひょー……。危ねぇじゃねぇかクマぷー!!めっ!!」

―お前そのまま死ね。

「ちょ、酷っ!!」

―今から向かうから、それまで死んじゃダメだよ?

「黒兎も何気酷ぇわ〜。お前ら着いたら死ねってか、ぅえぃ!!」


またしても爪が薙ぎ払いをかける。躱しきれずにコートの裾が空を舞った。


「ちょ、レイぃぃぃ!!コート!!コートは犠牲になったのだ!!」

―人語を話せ人語を。

―新しく買ったら?

「なにそのクール!!そんなクールな対応は求めてないのだよ!!」

―あははは〜

―で?森には着いたが、何処に居るんだ?

「早っ!?アレか、まさかテレポか!!テレポなのか!?いや、まぁ、助かるけどね?すっごいクマぷー怒ってるから、かなりプンプンしてるから。プンプンし過ぎて眼ぇ真っ赤。ぅおう!?」


攻撃出来ないのか、する気がないのか。先程から会話しつつも襲い来る爪やら牙やらをヒラヒラと避ける


「えーと、看板から大体14,560歩歩いた所に居るよ〜。早う来てくれんと辛いわ〜。」

―まさかとは思うが攻撃受けたんじゃねぇよな

―いや、むしろ日光の問題じゃない?徨夜って昼間は絶不調だし。あ……見えた

「っし、……動悸息切れ目眩心筋梗塞脳卒中くも膜下出血メタボは楽しくないし糖尿病脳溢血大量出血舌下治療の花粉症ぅぅぅぅ!!」


変な呪文を唱え、徨夜は消えた。消える直前に合流したレイと黒兎が敵であるクマへと攻撃を仕掛ける。


「あの野郎どこ行きやがった!!」

「多分…ギルドに。」

「………」


黒兎の応えに、レイの頬がピクリと痙攣した。徐々にレイの周辺が冷え始める。しかしそれに気付かないクマ(徨夜曰く、ぷんぷんクマぷー)がまたしても爪をレイ目掛けて振り下ろした。


金属の鈍い音。レイは爪を避ける事なく忍ばせていた剣で弾き返し、追撃を放つ。剣が空を舞う度に周りの空気は冷え、ついには空気中の水が鋭い氷華へと変わる


「クソが。」


剣の切っ先がクマを指す。その軌道に引き寄せられる様に氷華が動き、貫く。血飛沫は上がらず、氷華の突き刺さる箇所から凍っていく。


「よし、帰るか」

「りょーかい」


氷漬けのクマに背を向けて2人は来た道を戻り始めた。暫く歩いたその後、黒兎が振り返る


「あはは〜♪」


笑いながら指を鳴らす。と、澄んだ高い音が空へと登っていった。それは、氷の砕けた音に酷似する。


「…いつの間に破裂術を?」

「徨夜のマネしたら出来た♪」

「馬鹿が移るから止めとけって。」

「うわぁ。酷い言われようだね」

「事実だろ。」


なんやかんやで討伐は終わった。戻るべきギルドは遠く、また移動魔法(徨夜曰くテレポ)を使おうと黒兎が詠唱を始めた瞬間、鈴の様な音が鳴る。


「あ?」


それはレイの耳で輝くピアスから、もしくは黒兎の一見首輪に見えない首輪から。


―もしもーし♪迷子の迷子の徨夜だよぉ?今東外れの墓地に居るの〜。


「……………」

「…えー、と。どうする?行き先変える?」


聞こえた声に黒兎が反応し詠唱を止めた。引き攣った笑みを浮かべながらレイが言う。


「徨夜クンよぉ?……報告書はどーした、報告書
は」

―え?クマぷー殺したのお前らだろ?オレ関係ねェし♪つーか此処ってすげェのな♪いー匂いする♪

「良い匂い?……墓場なのに?」

―墓場だからこそ!!ん〜♪ゾクゾクするぅ♪

「キチガイが」

「もしかして徨夜の言う良い匂いって……」

―あ、ゾンビ。レイ!!ゾンビ来た!!ゾンビ来たぁぁぁ!!なにあの気持ち悪さ!!滾る!!ちょー滾るぅぅ!!


徨夜が叫ぶ度にレイの瞳孔が猫のそれのように細く鋭くなっていく。それを見ない様に見ない様にと黒兎は地面を見詰めた


「一応聞くが、依頼を受けた訳じゃあ、ねぇよな?」

―ん〜?20%くらいは依頼受けた。

「え!?徨夜が!?」

―何だよ黒兎〜。オレだって依頼くらいっうぇい!!


明らかに聞こえる呻き声と気分を害する濡れた音。そんな中でも徨夜は愉しそうに声を上げる


―うひぃぃぃぃぃ♪こっちだよ〜♪美味しそうな肉はこっちだよ〜♪ほ〜らおいで〜♪おいで〜♪


「ゾンビに餌付けしてるの?」

「いや、ちょっと待てよ…」


レイが眼を細め音に集中する。徨夜の声と、ゾンビが発する呻き、その中に混じる………幼い声の悲鳴。


「お前餌に何使ってんだ」

―え?肉。生きてる子供。死んでちゃ寄って来んもん。

「ぇ!?」

「何やってんだこのキチガイ野郎!!死ね!!黒兎!!」

「はぃぃ!!」


徨夜への怒りで瞳孔がすっかり消失したレイが黒兎の腕を掴んだ。詠唱無しの移動魔法である。聞こえる悲鳴と笑い声。


「人道に悖った行いしてんじゃねぇクソが!!」


森に2つめの叫び声が響いた。と、同時に周りの景色がぐにゃりと歪む。空気が変わった。生きている匂いは無く、死んだ、気の滅入る淀んだ空気と徨夜の笑い声が迎えた。














愉快な愉快な物語が今始まった。















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