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liar or procrastination.

ギルド シャングリ・ラのトップ3?年長組?上司組?(1人だけ部下が居ないが気にしない)はお互いがお互いを尊重しあい、補っていく、理想の関係である。(端から見れば、の話)

それは戦闘のスタイルにも、魔術のタイプにも反映されている。

ギルド長のレイは戦闘では遠近問わず、魔術では聖(この属性は説明の難しい属性で、まず潜在遺伝子から説明しなければならないので割愛とする)
氷、水が最も得意。他の属性魔術はそれなりに。といった具合である。

お次はギルドナンバー2の黒兎。
黒兎はどちらかといえば遠距離攻撃を得意とする。しかし近距離がからっきしというワケではないので悪しからず。魔術はレイと同じように聖(レイよりは使える聖魔術の幅が狭いが。)、風、地が得意。他の属性は使えなくはないが炎が苦手。

そして、ギルドナンバー3と呼んで良いのか甚だ疑問ではあるが、まぁ、徨夜である。
物理攻撃はあまり好まずに魔術で、距離感を無視して攻撃してくる。魔術といえば詠唱が必要だが、徨夜はそれをせずに、際限なく、飽きなければ、気分が乗れば、戦闘に参加する。属性的には闇(これは聖と相反する属性であるがこれまた説明が難しいので割愛とする)、炎。あとは聖以外であれば何でも使える。が、氷や水は苦手。


さて、何故長々と述べたかと言えば。





「うわァァァァァァァっふゥゥゥゥゥ!!!!!!」


奇声を上げて何かから逃げ回るのはいつもの黒いコート姿ではなく何故かベスト姿の徨夜。
まるでフラメンコを踊っているかのように、追尾してくる炎を避ける。炎を、避けている。


―ギァァァァァァァ!!!!!!


悲鳴にも聞こえる咆哮。炎を生み出す6足の巨大なドラゴン。地面を砕かんばかりに踏みしめて吐き出した炎で徨夜を狙う。
遠くでも似たような咆哮が。あれはレイに(無理矢理)引き受けさせたこのドラゴンの片割れ。
どこかから逃げ出した双頭の合成獣。捕獲用の麻酔を持たされてはいるが、まさか分裂するとは誰も思っていなかった。

いや、或いは分かっていたかもしれない。ギルド長であるレイか、はたまた口を三日月に歪めた徨夜か。もしくはどちらとも。分かっていなかったのは捕獲を依頼した役所の者達か。


左右3本、合わせて6本の足が浮いた。
あァ、そうだ。この合成獣は翼もあるんだった。そりャあ翔ぶに決まっている……。なんて遠い目をしながら徨夜は影に落ちた。今は日中で当たり前に日も高い。周りに木々はなく(ドラゴンによって焼き尽くされた残骸ならある)影という影は徨夜自身のものしかない。
しかし巨大なドラゴンが地を離れるならば自ずと影は出来る。その身と違わぬ大きな影が。

影に溶けて姿を消せばドラゴンは混乱して地に降りる。そこを狙ってとどめを刺したい。訂正、魔術を使えば徨夜とて上空戦に持ち込めるが、日中では分が悪い。多少無理して、レイと相手を交換しても良いかもしれない。タイミングを測ろうと意識を影から影へと分散させれば分かる、向こうのドラゴンはどうやら氷属性らしい。なんとも…まァ…。双頭のドラゴン、炎と氷。相反する属性をその身に宿しているとは…。


―ガァァァァァ!!!!



思惑通り降下を始めたドラゴンに始めこそは笑っていたものの、その体勢が明らかにこちらを捕捉し、燃やし尽くそうとしているのに気付き舌を打つ。これではレイと交換するどころか、防御すら出来ない。
バチバチと火花を散らして、ドラゴンが3度目の炎を吐き出した。

炎が影のある一帯を焼く。その様子を、片割れのドラゴンの尾を避けながら(こちらのドラゴンに手足はなく、ただの巨大な蛇に見える)レイが見ていた。が、慌てる事なく反撃しながら自分の影を踏みつける。



「くたばれ」

『酷くね!?え、何その扱い!?徨夜が燃やされた!!!!とか少しは慌ててくれないの!?何なの!?差別?差別なの?これがオレでなく黒兎だったらものっそい心配するくせに!!!!酷いわ!!あなたってそういう人だったのね!!』


ほぼノンブレス。妙に感情の乗った声だけがレイの影から聞こえる。容赦なく繰り出される斬撃に怯んだドラゴンの隙をついて影から徨夜が這い出た。もちろん、レイの影からである。

しかし不思議なもので、影だけがそこにある。這い出た徨夜の足元に。お構いなしにドラゴンへと斬りかかるレイの足元には影がない。まぁ、有ろうが無かろうが気にしないのかもしれないが。

さて、と。大きく伸びをしながら靴でリズムを刻む徨夜の背後に、ドラゴン(徨夜が相手をしていた方)の巨大な爪が迫る。


が、その爪が徨夜を捉えることはなく。掠める直前に地面を蹴り、その姿は地上にない。

ぷわり、ぷかり。

ドラゴンの上空、首を巡らせても届かない高さで徨夜が笑った。手には子供が隠れられる程の巨大な、闇色の扇。何故かベストではなくシャツ姿で、扇を投げる。

当然、扇の軌道はドラゴンにも見えており余程の事がなければ避けられてしまう。何をやっているのやら。と、いつの間にか氷属性のドラゴンを氷柱に閉じ込めたレイが溜め息を吐いた。少し、疲労感があるようで切り替えるようにゆっくりと瞬きをする。(同じ属性であれ、隙を突いての捕獲は見事だ。)

そんなレイを尻目に扇は地面を抉りながら突き刺さった。もちろん、ドラゴンの傍には落ちたが掠りもしていない。未だに浮いたままの徨夜に視線を向ければ、まぁ、気でも違えたかと思いたくなる程、無邪気に笑っている。


「実験の一環としてね?お付き合いよろしく♪」


歌うように言って、目を細めて微笑みの形。口角はキリキリとつり上がる。ガクン。そうして急に浮力を失った徨夜は地面に真っ逆さま。その前にドラゴンが口を開いて炎を吐いた。


「!!!!!?」


レイが銃剣を握り直して走り出す前に、それは起こった。

ドラゴンの炎が鈍く光る氷に変わる。確かに徨夜を狙った炎は、徨夜に触れた先から氷へと変わった。
炎を氷に変えて満足げに頷いて着地した、と思えば地面に刺さったままの扇が粉々に弾け飛びドラゴンへと突き刺さる。

のたうち回るドラゴンの眼前に立ち塞がって怒りを煽るように一礼。そのまま指を鳴らして、ドラゴンに突き刺さった破片を爆発させる。


―ギュィィィィィ!!!!


「あは、あっははははははははは!!!!」


まるで断末魔の絶叫のように響き渡る声を聴き、恍惚とした表情を浮かべて狂ったように徨夜が笑う。レイが作り上げた氷柱に眼を向けて、いっそう口角を吊り上げた。


「*****」


聞き取れない言葉。確かに何かを言った。レイは徨夜の唇の動きを思い出そうとして、固まる。

音もなく辺り一面に黒々とした氷柱が咲いていた。咄嗟に後ろへ飛ぶと、たった今立っていたその場にも氷柱が生まれる。次々に芽吹く黒の氷柱に舌を打ち、静止の声を掛けようと徨夜を見た。
視線に振り向いた徨夜の背後、一等巨大な氷柱には、レイを真似たかのようにドラゴンが苦悶の表情で閉じ込められている。


―オレの得意属性は炎。反対属性であるはずの氷を使えるはずがない。そう思ってる?


煌々と輝く橙の眼はそう語る。つまり、使えないのではなく使わないだけ。レイの、無意識のうちに鋭くなった眼光に肩を竦めて戯けたように笑う。


「でも、ほら、加減は出来ないんだよねェ…。」


すっ、と指揮者のように上げた左腕が震えている。
それに呼応するように黒い氷柱に亀裂が走り、けして少なくはない量の欠片が落ちて散らばった。
このままでは、ドラゴンは間違いなく欠片と共に消える。


「…エピディオール」


レイの声に反応した徨夜が、氷柱から大慌てで離れた。ついでにいつの間にか手にしていた日傘(兼武器)を開いた。空気が冷えていく感覚。崩れかけた徨夜の立てた氷柱は冷気によって欠片ごと再構築されていく。


「寒っ!!!!」


ガタガタと震える徨夜に殊更冷めた一瞥を送り、溜め息を吐いた。皆まで言わずとも分かる、これは罰ゲームの予感。そう思い、身構えた徨夜に異変が起こった。


「う、ァ?」


顔は一瞬にして爛れ、背に咲いた立派な鹿角。重さなど無いはずなのによろめく徨夜を支えたのは地面から生えた白い手。ゆっくりと空気中の魔力が奪われていく。
構築した氷柱も、レイの魔術によって冷えた空気も、何もかもが失われていく。


「徨夜!!」

「アニムス!!!!」


制止の声と、助けを求める声が重なった。
徨夜を支えていた白い手は黒に蝕まれるようにして消えていく。そして、地面ごと徨夜も。


伸ばされた手はただ空を掴んだ。ごっそりと抉り取られた地面の周囲には枯れ果てた草があるだけ。
遠くの方で、依頼人の声がする。仲間を連れてやって来たのか、レイの立てた氷柱に群がって感嘆の声を上げている。


―――徨夜の行方は分からない






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