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loquacit?

ぽつり、ぽつり。真っ暗な部屋に灯りが点る。
明かりに照らされたのは一組のテーブルとティーセット焼きたてのスコーンの香りが鼻をくすぐる。向かい合う椅子には眼鏡をかけた茶髪の男と黄土色の髪の男。茶髪が指を振るだけでティーポットが紅茶を淹れ始めた。

ふんわりと漂う紅茶の香りに眼を細めて、向かいに座っている男に話しかけた


「初めまして、ミスターブルジー?」

「こちらこそ。ミスターナイトプローラー」


随分な挨拶の後、ナイトプローラーと呼ばれた茶髪の男が書類をブルジーに渡す。優雅なティータイムには不向きな言葉がふんだんに盛られた所謂、身辺書類である。


「……動植物の世話から蜜採りまで?」


小馬鹿にしたような声音で書類を突き返し、席を立とうと腰を上げた。が、足が床に貼り付いた様に動かない。もがく姿を微笑んで見つめるだけのナイトプローラー。仕方なしに着席したのを見て、目の前に置かれた紅茶を勧める。渋々飲み始めたブルジーに頷き、口を開いた


―さて、この度は当方にお声掛け感謝申し上げます。条件に合う人選を心掛けましたが、お気に召しませんか?この書類に嘘偽りはございません。全て真でございます。
例えば、存在自体が謎と言われていた幻の動物「フクロオオカミ」、こちらは植物ですが「タカノホシクサ」の国内初、いえ、世界初と言っても構いませんかな、それらの捕獲及び繁殖に成功した人物です。
あぁ、そんな些末に興味はない、と?
成る程成る程。では依頼内容を今一度共に確認しましょうか。
貴殿のお望みは?
ふむ、とある人物の抹殺。手段は?問わない?なるべく跡を残さないように?魔術の痕跡も然り?確かに最近の国警察は鼻も目も格段とよく利くようになったらしいですものね、用心には用心を。心しております。はい?この人物は問題ありませんよ?ご安心ください。何せ、かの有名な魔法学校を次席で卒業した、魔術にも掌握術にも覚がある男ですのでね。仮に他者に悟られても切り抜けられます。
まだご心配が?え?拷問?まさかこの男が失敗をするとでも?おやおや、ナメられたものですなぁ。お答えしますが、問題ありません。此方も慈善事業ではないのでね?それなりに口は堅い。
さて、期間ですが二週間戴きたい。このような仕事は、先ずは解け込んで信用を得なければならないのですよ。確か相手方にはお子が三人いらっしゃるとか……。随分詳しいな?まさか相手方からも依頼を請けているのでは?と疑っておりますね?ご安心ください、そんな事もありました。
昔ですよ、その相手方の仕事を請けたのは。まぁその時もこの男でしたが。その時に子供に懐かれましてね。どうやって懐いたか?あっは、それを気にしますか。いえ、いえいえ。滅相もございませんよ。あなた様の後学のために申しますと、やはり子供には菓子でございます。相手方の夫人は何かとやれ手作りだ、やれ自然食品だとお身体を気にしておられましたので。…何です?まさかこの男がph.D.(博士号)だけの頭でっかちだとでも?
書類をよくお読みになってくださいませんか。でなければこちらも困りますよ。
ほら、ここに、記載がありますでしょう?菓子作りも得意だと。他の方が依頼主であればこのように細かくはしないのですが、他でもないあなた様が依頼主、対象があなた様のライバルであるあの方ですからね。こちらも痛手を負わないように十二分に準備しておりますよ。

……おや?もうお帰りですか?まだまだこの男の利点はございますよ?………はい。それでは報告をお待ちくださいね。


ナイトプローラーが指を鳴らせば目の前のブルジーは跡形もなく消える。そして残るのは一人分のティーセットのみ。点ったはずの灯りも消えて暗闇の中でゆったりと笑い、新たな書類をどこからか取り出してそれに指を走らせた。暗闇でも青黒く光る文字が瞬く間に白紙だった書類を埋め尽くし、独りでに折られていく。

差し出されたナイトプローラーの手のひらに、ころりと転がった書類の鳥。
息を吹きかければ自らの翼で羽撃き、飛び去っていく。あの鳥が向かった先を思い浮かべて



全てが消えた。
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