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Good Morning.Good Night.See you someday.

「〜♪〜〜♪〜〜♪〜♪」


フライパンから香ばしい匂いが立ち込める。歯応えも楽しめるように程好く厚切りにされたベーコン、生クリームを使ったふわっふわのオムレツ。付け合わせのサラダは朝市で新鮮なものを。スープは胃に優しいコンソメ。
飲み物は各自で選べる様にコーヒー、紅茶、オレンジジュースにリンゴジュース。たまに出てくるハーブティと見た目はよろしくない野菜ジュース。(ミルクは絶対に出ない)
主食のパンは様々。ギルド内の最近の流行りはデニッシュ生地のもの。全てを短時間で揃え、今のところ3人しか使わない無駄に長いテーブルに順序よく並べ、水の入ったグラスをスプーンで叩く。

あまり甲高くない音がリビングキッチンに響いた


「んんっ。……Good Morning.have a good sleep?」

グラスの中で波紋が生まれては消え、消えては生まれる。その繰り返しを目で追いながら言葉をグラスに落としていく。


「Hello?Hello?Good Morning?」


−何度も繰り返すな。ちゃんと聞こえてる

−……………ょ


「んぇー?黒兎はまだおネムか?」


水から聞こえて来たのはここにはいない2人(1人は声を出せていない)の声。シャングリ・ラでは恒例の、水を媒体とした会話魔法である。(考案者はレイ。)


−変なモン使ってねぇだろうな?

−うぅぅぅー……

「全部朝市で揃えたヤツだぞ。あー…と、うん。全部。」

「今の間はなんだ、今の間は。」


既に起きていた(と言うか自室から出ていた)レイは鋭い突っ込みを入れた。グラスの中では未だに黒兎が唸っている。


「どうせ飲まんから良いだろ?」

−ふぁぁぁ……。ご飯なぁに?

「ベーコンとオムレツ、サラダとパンとスープ」

−ふわっふわっ?

「Of course♪」

−今行くぅぅ……


くつくつと楽しげに笑う徨夜を尻目にレイは定位置に座る(言わずもがな上座である)壁掛けの時計を見つつ、タイミングよく扉を開ける。


「うわっ!?」

「はァい♪What's the big rush?」


飛び込むようにして入ってきた(大体徨夜のせい)黒兎を出迎えたのは眉間にシワを寄せながら新聞を読み、尚且つ人語を話す鳥が棒読みで話すニュースを聞くレイと、扉を閉めながらもニヤニヤしている徨夜。

何か言いたげに口をモゴモゴさせながら黒兎も席につく。一番窓から遠い席に徨夜。棒読みの鳥に好物らしいオムレツを与え(徨夜はそれを見る度に共食いだとニヤける)新聞を徨夜へとスライドさせる。


「母なる女神に感謝を。」

「感謝を。」

「Dank.」


食前の祈りはレイの出身国であるスティーリアでは極々短いもの。本来は20分弱女神への感謝と祈りを捧げるらしい。流石は世界一の敬虔なる女神の僕である。黒兎はレイに則ってしっかりと祈りと感謝を捧げるのだが、徨夜は祈りもしなければ感謝の言葉すら一貫した言語で捧げる事もない。曰く、神は死んだ。


「……………そういえば…今日はご飯食べるんだね」

「ん?」


ナイフフォークを完璧に使いこなしながらもベーコンは最早みじん切り、オムレツは黒兎の皿へと自主避難(別にオムレツが動いた訳ではなく、徨夜自身が黒兎の皿へとサーブした)スープはコショウを振りすぎて辛い液体に進化した。

徨夜が自分で作ったからこそマナーに五月蝿いレイは何も言わない。というか、言うだけ無駄なのである。


「遊ぶな」

「遊んでない♪」

「オムレツ美味しい〜♪」


みじん切りにしたベーコンをサラダへと投入し、辛い液体を1度も噎せる事無く飲み干す。せっかく切り分けたパンはレイへと献上。サラダの中に隠れていたミニトマトにはナイフを突き刺し、ニヤニヤしながら食べ始める。


「Carnival〜♪カぁニバぁー♪ふんふふんふ〜ん♪」

「あー………そっか」

「良かったな、黒兎。お前に頼んでたヤツの世話はもう終わりだ。ご苦労様」

「ふふんふふんふ〜ん♪」

「徨夜、くれぐれもやり過ぎるなよ?吐くようであれば……生かせ」

「むっ、むぐっ、お前から(もぐもぐ)来たら(もぐもぐ)好きにして良いって言ったろ?(ごくん)」

「吐くようであれば。の話だ。つーか食いながら喋るな」


レイが肩に(オムレツ好きの)棒読み鳥を乗せて空いた食器を片付けていく。黒兎もちょうど食べ終わったらしく、それに続く。徨夜がいかにも恨めしげにサラダへとフォークを突き刺して突き刺して突き刺して突き刺してを繰り返していると、急に立ち上がった


「……あんまり周りに優しくないよね、分かりやすくはあるけど」

「食材のムダだな」


立ち上がり、部屋を後にする徨夜。サラダは殆ど完食に近いが問答無用で片付けられていく。


「あの人、結構耐えたね?」

「こっちの時に吐いて欲しかったがな。人材的には悪くない」

「あはは、カーニバルかぁ…」

「ヤツにとっては祭、今からのヤツには」

「Bad Carnival♪」

「つくづく惜しい。どうにかして吐かせたいな」

「僕もやれたらなぁ…。」

「いや、お前は良い。」


黒兎の肩を軽く2度叩く。気にするな、とでも言うように。さて、朝食も終わり各自の部屋へと戻ろうと廊下へ出るとやたらテンションが高い(これでも普段よりは低い方)徨夜が駆け抜けていく。


「吐いたのにテンション高いな…。って、廊下を走るな!!」

「So sorry!!」

「ってか、どこ行くの!?」


殆ど廊下を左折しかけのまま、顔だけをレイと黒兎に向けて叫んだ(距離的な問題で叫ぶしかない)


「逃げた!!から、追いかける!!!!」

「はぁ!?」

「え!?逃げたの!?」

「Fuuuuuuuuuuu!!」


付けていたエプロンだけを残して、徨夜は地下へと消えた。2人が階段へと着いた頃、そのエプロンが何故か地味に動いている。


「うっわ…エプロン……動いてる…」


ウゴウゴと階段を下り始めたエプロンを気味悪げに黒兎が見ていると階下から鼻歌どころか最早何かを歌いながら徨夜が上がってきた


「もー!!エプロン遅い!!」

「おい、ちょっと待て、徨夜!!」


エプロンを掬い上げ、空中に放り投げて消してもうまさに飛び出す気満々ですよ。とでも言いたげにレイの言葉に頭だけを向ける


「何だい?何か疑問質問遺憾に思うことが?」

「むしろ何故無いと思える?」

「だってアレはオレに来たヤツだろ?つまりオレの好きにして良いって事だ」

「え?じゃあ、わざと逃がしたの?」

「もちろん♪」


口角を吊り上げて徨夜は笑う。


「あ、でも、ヤツは先端恐怖症なんだよな。」

「は…?」

「先端恐怖症。尖った先が怖いのと、あとは視線恐怖症だな。レイ、お前の方法じゃいつまでたっても吐きャしねェんだわ♪見つめられるのが怖い♪くっひひ♪総じて先端恐怖症と視線恐怖症は抱き合わせでなる事が多いんだなァ♪」

「……………なんだと?」

「あー、あとは、ヤツは同郷だわ」


同郷。つまりは、


「徨夜と同じ、常夜の出身!?」

「黒兎せェいかァい♪常夜の出身者は身体のどこかに烙印が捺してあるんだわ。探してみ?あ、烙印は国が管理する都合上必要ね♪で、つまりは、レイ。お前は拷問に向いてないんじャないかなァ?確かに有効ではある。普通であればネ♪」


大して可愛くもなく(逆にこちらの神経を逆撫でしてくれそうな勢いで)ウィンクをひとつ。そして更に続ける


「ただし、常夜に関しては全くムダだね。本家をナメられちャ困る。」

「別にナメちゃいねェよ」

「んや?生かそうとしてる時点でアウト。今日の敵は明日の友。まァ、確かにそうかもしれないけど、常夜ではそんな甘ったれた考えなんざ通用しない。今日の敵は明日も敵。捕まったら自ら死ぬ。死んでも抱えてるモノは手放さない。逃げられたら……」


いつの間に持っていたやら黒い傘(日除け兼、物理用)で地面を鳴らし、ついにはレイと黒兎に背を向けた。


「見つけ出してGood by♪See you someday.」

「さようなら、いつの日か逢いましょう、か。随分と礼儀正しいんだな?」

「そりャあ、死者には敬意を払わにャな?」

「へぇ?」

「じャ、そーゆーこって♪」


良いくらい歩きながらの会話を続けた後に一度も後ろを振り向かないまま、傘をクルリと回して熔けるように消えた。黒兎がレイを見る


「レイ、止めなくて良いの?」

「良い。止めるだけ無駄だ」


そう言って来た廊下を戻っていく。途中、やけに生白い手が錐と鏡を持って床を滑るように動いていたのは誰も知らない。

また、徨夜が追いかけて行ったヤツが見るも無惨な姿で最期を迎えた事も、誰も知らない。









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