2014-7-29 09:07
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……。日光ツラい…日光ツラい……日輪よっ!!!!」
何処かの屋敷の裏庭で黒い塊が草むしりをしている。ひと束抜いて「日光ツラい」。ふた束抜いて「日光ツラい」。草むしりのおまけに黄色く色付いた水仙を刈り取っては「日輪よ!!」と叫ぶ。
「日光ツラい…日光ツラい……日光ツラぁぁぁい!!」
今まで抜いてきた草を積み上げた山に思いっきり飛び込み、無惨にも山を崩した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……。草だわぁぁ…。ウサギ連れて来れば……いや、水仙咲いてるからダメだな…」
山を更に崩す様にバタバタと腕を動かす。しばらくすると上の方から窓を開く音と笑みを含んだ明るい声が落ちる
「何やってんの〜?」
「あー?黒兎ー。見て分からん?」
「んー……罰として草むしりさせられてる?」
「あったりぃぃ……。しっかしさぁ?レイも酷くね?最近のオレの扱い酷くね?日光無理なのにこんな憎たらしい晴天にさぁ〜?やらせんでもえぇやろ」
腹這いに飽きたのか立ち上がり、そのまま黒兎が開けた窓(所謂両開き)の桟に腰掛ける。因みに黒兎と徨夜の間には約12メートルの高低差があった。
「いつ見てもよく飛べるよね。何のモーションもなしに」
「ほっぷーすてっぷーじゃぁぁぁんぷ。って感じでな」
窓の桟で足をぷらぷらぷらぷら。年不相応(と、言うよりも誰も年齢を知らない)の振る舞いをしていても黒兎はただ見ているだけ。
「くぁ。」
黒兎が欠伸を溢した。それほど天気の良い日。徨夜の背後、シャングリ・ラと名付けられたギルドの屋敷内ではあちこちで声が聞こえる
「我等がギルド長のレイは張り切っていらっしゃる?」
「うん。良い天気だからねぇ〜。お掃除日和だって」
「この前も聞いたな……。つーか…ふぁぁぁ…黒兎のせいで眠い」
「え〜?僕〜?」
黒兎も窓枠に凭れ掛かり自分の腕枕に頭を擦り付ける。手に持っていた雑巾は早々に床と熱々である。
「くふぅぅ。眠いわ〜」
「ふふっ。今のなぁに?」
「欠伸だよ欠伸ぃぃ〜」
何とも穏やかな空気が流れている。今にも黒兎は夢の国へと旅立ちそうで、徨夜も抱え込んだ膝に顔を埋める
と、次の瞬間すぐ隣の窓が勢い良く、大きな音を立てて開いた。その音に驚いた黒兎と徨夜。後者の徨夜は所謂三角座りのまま飛び上がり、そしてそのまま12メートル下に落下した
「うぇぇぇぇぇぇ……?」
「ほぁ!?え!?あ!?徨夜!?」
咄嗟に伸ばした手は空を掴む。徨夜は何とも間抜けな声と姿(三角座り)のまま落ちていった。
「何だ?ここの窓やけに滑りが良いな?」
唖然と手を伸ばし続けていた黒兎の隣からひょっこり顔を出したのは完全お掃除装備(頭と口に白い三角巾、腰から下げたポーチにははたきやらスプレーやらなにやら一式)のレイ。
「あ……あー…」
「ん?黒兎、何かしたか?」
「え…?あー、うん」
唖然としながらも何とか下を指差す黒兎。
咄嗟に受け身がとれなかったと察するしかない、何とも奇妙ではあるが、四つん這いの黒いのがピクピクしていた
「あ?」
「あれ。徨夜。」
「だな」
「驚いて落ちた」
「ドンマイだな」
「…………徨夜ー!!大丈夫ー?」
レイは心底どうでも良いらしく桟のホコリを取り始める。ふと隣を見ると、黒兎が居ない。
「あ?」
「大丈夫ー?」
「ちょ!?おい!!」
窓から勢い良く飛び下り、地面に向けて(目標地である地面に未だプルプルしている徨夜が居たり、居なかったり)銃口を向ける。
「消し飛べっ!!……じゃないや、えー、あー、徨夜ごめん!!」
「ぅぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
銃口から放たれたのは実弾ではなく風球。落下する黒兎のへ衝撃を和らげてはいたが、黒いの(徨夜)はものの見事に吹き飛ばされていた。
草が舞う。徨夜を探して辺りを見回すが、姿はない
「徨夜ー!!ごめんねー!!」
返事はない。まさか敷地から出てしまったのかと慌てていると、またしても大きな音(ズバンっ!!と何かを切るような音)を立てて窓が開き、レイが顔を覗かせた
「簡単に死ぬようなヤツじゃねぇから「ぶっふぉwww!!」…………あ?」
レイの台詞に被せて笑い声が響いた。
「ぷひゃーwww!!ひー、ひぃぃぃ!!腹痛いwww!!ぃひひ、腹痛いよー」
声の出所はどうやら大木。恐る恐る黒兎が近付くと足首が枝に捕られ、宙ぶらりんの徨夜がそこに居た。未だに腹を抱えて(宙ぶらりんで)笑っている。うっすらと涙も出ている……かもしれない。
「窓がwww、窓がwww、バーンwww!!っくっくっくっ……しかもいつも冷静なレイがお掃除っぶふぉwww!!お掃除ルックぅぅぅwww♪」
「黙れ奇行種」
「ふぃぃっwww!!こっwww、こっち、来んなぁぁwww」
徨夜曰く、お掃除ルックのレイがはたきの柄で肩を叩きながら近付いてくる。もはや呼吸の暇もなく笑い続ける徨夜。ついにレイが徨夜の真下までやって来た。
「wwwwwwwwwwwwwww、っげほwwwごほっ!!ひwww、ひぃwww」
「そのまま死ねクソ野郎。草むしりはどーした草むしりはよ?」
「wwwwwwwwwwww」
「徨夜が呼吸してないよ!!」
黒兎が慌てて間に入る。笑い続ける徨夜はのた打ち回る芋虫の如くうごうごした後、やっと着地した。
「ヒィィィィィwwwwww」
が、結局笑いが収まる事は無く地に伏しこちらを見下してくるレイを視界に入れぬ様に顔を隠す
「……………」
「徨夜、大丈夫?」
「ぅげほっ!!げほっ!!げほっ!!………ひ〜、ふひぃ…」
「草むしりも満足に出来ないのかお前」
呆れ顔のレイを見上げ、徨夜は手を伸ばした。何故かその手は親指と人差し指以外が折り曲げられており、所謂銃の形をとっている
「ばきゅーん♪」
「うっ!?」
「わっぷ!!」
何とも間の抜けた声と共に人差し指が打つような動作をした後、自立していられない程の強風がレイと黒兎を襲った。ハラハラと草が舞う
「ぶっふぉwwwwww」
「こっの野郎!!」
風が収まると共に上空から笑い声。未だに腹を抱えたまま徨夜が浮いていた。
「うわぁ……。」
「詠唱なしに浮遊しやがって……。つくづく腹立つヤツだな」
「もー部屋帰るー。草むしりしたしぃぃ、眩しいしぃぃ、怠いしぃぃ♪」
パチリと指を鳴らす。と同時に徨夜の姿も、舞っていた草も消える
「……………」
「行っちゃった」
「怠惰め…」
背後にある屋敷の何処かで徨夜の笑い声が響いた。