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Sentimental manic depression.

オレのファミリア(仮)であり、魔獣のソリオンに聞かれたことがある。

―これだけ美しいものに囲まれて、自分のものにしたくならないのか。

と。


美しいもの。

それは例えばシャングリ・ラの屋敷、玄関ホールにある緩やかなY字階段。他にも、目を見張るような膨大な本の数をしまいこんでいる書庫。人間の足では1周しきれない敷地の広さ。ただただ広さがあるだけではなく四季折々の表情が目を楽しませてくれる。
が、やはりあの階段がいい。
さすが屋敷の顔なだけあって荘厳華麗。誰も気付いていないだろうが、よく夜中に件の階段でくつろいでいる。

或いは、今は亡き先代ギルド長から贈られたコートと高純度の魔石を嵌め込んだループタイ。後から知ったことだが、ループタイは咎獣襲撃事件でオレを庇って死んだデゼルトというΩが用意していたらしい。

後は依頼で訪れる街も国も。出自である常夜国とは、当たり前だが違いがありすぎて眩しい。



けれど、どれより、何よりも、美しいものは――





多勢に無勢な状態、所々血だらけ。まさに満身創痍で背後にあった朽ちた巨木に凭れかかった徨夜の、喉を狙った白刃は突如現れたレイと黒兎に防がれた。そして敵に拡がる動揺。


「何やってんの徨夜??」

「お前、死にたいのか」

「……あァ、美しい……」

「はぁ!?何言ってるのさ?」


怒鳴り付けながらも自力で動く気のない徨夜を引き摺って後退する黒兎、冷ややかな視線と共に銃剣を眼前の敵に向けるレイ。


何よりも美しいものを知っている。

それの*し方も。


「よーし。手当て完了っと。徨夜、僕もレイを手伝ってくるから」


そこで休んでるんだよ。そう言った黒兎の表情。
オレを殺し損ねた敵の攻撃をいとも簡単に避けて反撃していくレイ。


―美しいものを自らのものにしたくならないのか?永劫、誰の目にも入らぬように隠しておきたくならないのか?


ならないわけがない。自らのものにならなくとも、叶うならずっと肩を並べていたい。
しかし永劫などないと知っている。特に常夜国で生きる者なら尚更。
今の記憶は葬られ、新たな記憶を植え付けられる。全ては女王陛下の御心のままに。

これ、を寂しい。と言うのだろう。
これ、を悲しい。と言うのだろう。

常夜国では持ち得なかった感情、それすらもいつか消されてしまうのならば


「美しいものなんてない。オレには要らない。」



誰よりも臆病な自分など存在する価値もない。それはどちらに居ても言える事で。


「…つーか……どーいう感傷だよコリャwwwキャラじャねェしwww」


口角を吊り上げて笑みを浮かべ、思い出したように傘を差す。先程の感傷は欠片もなく、切り換えたというより、まるで別人。
黒兎が手当てしていった傷はいつの間にやら消え失せた


「さァて、オレもお仕事しますかねェ」


そう愉しげに呟いてほぼ壊滅状態の敵へと向かった。








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